ナタリー PowerPush -mishmash*Julie Watai
マスヤマコムが伊藤ガビンにPV進捗伺い
水尻自子最後の商業作品
──最初のミーティングのときは、どんな構想があったんですか?
ガビン 今マスヤマさんが言ったように、まずは「水尻を使いたい」ということですね。水尻さんはもともと僕の生徒(女子美術大学短期大学部)だったんですけど、去年、「布団」というショートアニメの作品で世界中の賞を取りまくったんです。でも、それだけでは食えないっていうことがわかって。で、「CM、ビデオクリップなどの商業的な作品をもっとやっていったほうがいいのか」みたいな話をしてたんですけど、結果的には「商業作品はやらない。作家だけで生きていくことを模索します」という宣言に至ったんですよね、彼女は。ただ、その直前に今回のビデオクリップの話をしていたので……。
マスヤマ え、じゃあ、これが最後の商業作品なの? マジで?!
ガビン て言ってましたよ。ホントにそうなるのかどうか知らないですけど(笑)。で、彼女がビデオクリップを全部1人で作ることも今までなかったから、それを観てみたいという僕の個人的な興味もあって。彼女は独自のラインと動きでアニメーションを作っていくことが多いんですけど、「ロトスコープをやったことがない」というから、それだけで成り立つ作品を作ってみようという話になって、ずっと実験してたんですよ。でも、しばらくして「やっぱり無理」ってことになって(笑)、今は彼女のいつものやり方で作ってます。
マスヤマ 今、何か観れるものある?
ガビン さっき「今から送る」って連絡があったんですけど……。
マスヤマ 蕎麦屋の出前みたいだな(笑)。もちろん僕も水尻さんの作品を観てるから、センスの素晴らしさはわかってるんですけどね。「僕らが作った音楽、歌詞からどういうふうに外してくるか?」というのが楽しみで。
ガビン (PCを見ながら)あ、来ました。僕も初めて観るんですけどね。
(※制作途中の「回れ右、逃げるんだ」のPVをチェック)
マスヤマ あ、いいですね。ここまでできてれば大丈夫。
ガビン 順調です(笑)。
──水尻さんの新作が観られるということ自体が貴重ですよね。
ガビン そうですね。彼女は「布団」のあとに「かまくら」という作品を作ってるんですけど、それはYouTubeなどでは公開せず、基本的には上映という形式で発表したので。こういうふうに(WEB上で)全部見られる新作というのはひさしぶりなんですよね。
チップチューン=教習所のクランク!?
──ガビンさんが手がけた「ハートブレイカロイド」のビデオクリップのほうは、どんな感じですか?
マスヤマ 僕も全然知らないんですよ。2、3日前にブックレット用に自動車教習所の写真が送られてきただけで。
ガビン (笑)。まず、実写でやりたいというのがあったんですね。去年、今年と何本か実写のビデオクリップを撮ってるんですけど、実写の作品では、スタッフやエディターがすごく重要なんですよ。「このチームで何ができるのか。どういうリクエストをすると、どうなるのか?」ということを把握するためには、何回か繰り返さないとダメだなっていう個人的な理由もあり。
マスヤマ なるほどね。
ガビン 今回の「ハートブレイカロイド」はチップチューン的な曲だから、まず、「チップチューンってなんだろう?」ということを考えたんですね。で、矩形波(シンセサイザーで使用される波形のひとつ)やサイン波を合成して音を作るというのが気持ちいいんじゃないかなと思って、そういうものを探していたら「(教習所のクランクを指して)ここにあるじゃないか!」って。
マスヤマ ハハハハハハ!(笑)
──教習所のクランクやS字カーブが音の波形に似てる、と。
ガビン これだ!と思って(笑)。あとは時間の操作ですよね。
マスヤマ それは最初から言ってたよね。ソニーの新しいハイスピードカメラがいいって。
ガビン 今回は後藤武浩くんというカメラマン、エディットしてくれたぐーぽん(ビジュアルエンジニアの宮本拓馬)と僕の3人で意見を出しながら作ったんですが、後藤くんが新しいハイスピードカメラを買ったんですよ。で、都内を車で走りながらテスト撮影をいっぱいやって。(タナカ)カツキさんの家にいきなり行って、ボールを貸してもらって、近所のお寺でいろいろと実験してみたり(笑)。ボールが跳ねるところを下手なアニメーターが描くと、ぜんぶ等速度で動かしちゃったりするんですよ。そういうふうに自然現象的な動きをあえて等速になるように編集してみたらどうだろう?とか。そこから「限られた場所の中で、同じような動きが繰り返されるところってどこだろう?」と思って、いろいろと探しているうちに教習所にたどり着いたという。で、これがラフの映像なんですけど…。
(※2人で映像をチェック。教習所の自動車、パワーローダーなどが曲に合わせて動く)
マスヤマ いいね。これ、最初に言ってたことに近いんじゃない? 編集でスピードを変えるっていう。
ガビン そうですね。シバリとしては「速度の調整しかやらない」というのがあって。多少は合成してますけどね。
マスヤマ うん、面白い。曲の内容と全然関係ないけど(笑)。
ガビン 関係ないかも、そう言えば(笑)。
マスヤマ (笑)。真面目な話をちょっとだけすると、ビデオクリップというのは、The Beatlesの時代から音楽との同期というがテーマになってきたんですよね。そのテーマ自体は大昔からあるんだけど、実写を使って、しかもタイミングだけがネタっていうのは、あんまり観たことがないかもしれない。これは映像のダジャレだよね、言ってみれば(笑)。
ガビン そうですね。
マスヤマ あとは「何が観たいか?」ということだろうね。例えば安室奈美恵のビデオクリップだったら、安室奈美恵が出てないとダメだろうし。mishmash*も「Julieちゃんをもっと出して」と言われるんだけど、僕が出したくないんですよ。(アーティストが)顔を出さないで、面白いことができないかなっていう……。このビデオは面白いけど、観てる人は楽曲のほうに意識がいかないんじゃない?
ガビン 大丈夫です。最終的にはいい感じになるので。
- ニューアルバム「セカンド・アルバム / The Second Album」 / 2013年12月5日発売 / [ダウンロード用パスワード+ブックレット] / 1829円 / mishmash* / mmpx-39
- ニューアルバム「セカンド・アルバム / The Second Album」
収録曲
- 起電力ロマンス
- 回れ右、逃げるんだ
- ハートブレイカロイド
- リバーブの奥に [34423 mix] / 34423
- 恋のタマシイ [COR!S mix] / COR!S
- ゴー・ファービー・ゴー [COR!S mix] / COR!S
- 3分シェイクスピア [sawako mix] / sawako
- グラドルを撃たないで [Tomohiko Gondo mix] / 権藤知彦
- Scattered / Go-qualia
- Electromotive Romances
- Do a 180
- Heartbreakeroid
mishmash*(みしゅましゅ)
Corneliusのサウンドプログラマーを務める美島豊明と、ゲームや出版、映像などさまざまなカルチャーコンテンツを手がけてきたマスヤマコムによる音楽ユニット。作品ごとに異なるクリエイターをフィーチャーすることをコンセプトに掲げている。2012年12月リリースの1stアルバム「mishmash*Julie Watai」および2013年12月リリースの2ndアルバム「セカンド・アルバム / The Second Album」では、写真家として活躍する元アイドル / モデルのJulie Wataiをフィーチャーしている。
伊藤ガビン(いとうがびん)
1963年生まれの編集者 / ゲームデザイナー。女子美術大学短期大学、京都精華大学などで教鞭をとる。デザインユニットNNNNYのメンバーであるとともに、映像作家としても活躍しており□□□やbomiらのPVの制作に携わっている。