ナタリー PowerPush - mishmash*Julie Watai

勝負曲「起電力ロマンス」を紐解く

フランスは“作品”から入ってくれる

マスヤマ タカハシさんは、絵を描いているときは音楽は聴いてるの?

タカハシ 聴いてるんですけど、耳に入ってないかもしれないですね。密閉空間の作業場で、片手で食べられるものを用意して、トイレ以外は動かないっていう感じなので。

マスヤマ そう言えばJulieちゃんも「タカハシさんはマジメな人ですから」って言ってましたね(笑)。

タカハシ 工業高校だったから、ひたすら製図を書いてたんですよ。細かい作業が好きなのかもしれないですね。

マスヤマ その頃はアートっぽい感じじゃなかったんだ?

左からタカハシヒロユキ、マスヤマコム。

タカハシ 絵を描くのは好きだったんですけどね、小さいときから。小学校のときも「絵を描く仕事をしたい」って書いてましたから。全部独学ですけどね、絵は。

マスヤマ 誰かに習ったらこういう絵にはならないですよね。あと、タカハシさんの絵はフランスですごく人気があって。

タカハシ そうなんですよね。たぶんわかりやすいんじゃないですかね。

──海外の人に「これが日本のポップカルチャーだ」という印象を与えるということ?

タカハシ それもあると思いますね。

マスヤマ でも、そこまで意識してるわけでもないんでしょ?

タカハシ そうですね。最初にフランスに行ったときは、テキスタイルデザインやファション系だったんですよ。デザインの中にキャラクターっぽいイラストを使ってたんですけど、それが「日本から来たアーティスト」っていうアイコンになったんですよね。マンガっぽい絵って他の国の人には描けないし、「これは武器になるな」と思って。

マスヤマ フランスにはどれくらい行ってたんですか?

タカハシ 行ったり来たりですけど、2年くらいですね。日本だったら、絵ってカテゴリ分けから入るんですよ。この人は現代アート、この人はイラストレーター、この人は油絵っていう感じで。油絵の人が水彩画を描いたり、イラストレーターがアートっぽいことをやるといろいろ言われたりとか。フランスはそうじゃなくて、いきなり作品から入ってくれるんです。誰が描いたものであっても、いいものはいいっていう。去年の2月にフランスでワークショップに参加したんですけど、パンフレットの同じページに僕のイラストと大友克洋さんの作品が載ってたりとか。

マスヤマ 権威や名前ではなくニュートラルに扱うってことですよね。mishmash*もそうだけれど、タカハシさんの絵は海外の一部で強くウケるタイプだと思います。

絵と音をリンクさせる作業が楽しい

──タカハシさんはこれまでにも音楽とコラボレーションした作品を発表していますが、音楽と絵の関係についてどんなふうに捉えてますか?

タカハシヒロユキ

タカハシ 僕の中では、音楽と絵はほとんど同じなんですよね。音楽は言葉が生まれる前からあったし、絵も文字が生まれる前からあったわけだから。そこは世界中どこでも共通してるし、差はないと思うんですよね。絵を描くときもリズム感を気にしてるし、実際の音とリンクさせる作業もすごく楽しいんです。配色にしても、音をカタチにするっていう感覚があったり……。実際、音楽との仕事って相性がいいんですよね。ファッションだとお互いの我がぶつかっちゃうことあるんだけど。

マスヤマ ファッションと絵は両方ともビジュアルですからね。

タカハシ あ、そうですね。音楽とはまったくぶつからないし、いつも楽しくやらせてもらってます。ライブペインティングをクラブでやることも多いんですけど、音の中に身体が溶けていくような感覚になることがあるんですよ。それはすごく気持ちいいし、今回のビデオクリップの制作もまさにそういう感じだったんですよね。

マスヤマ 「起電力ロマンス」のビデオクリップは実写あり版も作る予定です、テレビでオンエアしてもらうためには、やはり実写で歌ってる場面が欲しいと言われるんです。そういえばJulieちゃんが「タカハシさんにボディペインティングしてもらいたい」って言ってましたよ。

タカハシ あ、それは面白いですね。肌がちょっと荒れちゃいますけど(笑)。

「起電力ロマンス」に込められたメッセージ

マスヤマ もう1つ「起電力ロマンス」の歌詞についてですが、この曲をリリースするにあたって、いろいろと調べてみたら「電気を自分で作る」ことを実践している人がけっこういるんですよね。この曲は2011年の原発事故の前からあった曲で「原子力、反対」みたいなことを歌ってるわけではないけど、「電気くらい自分で作ろう」っていうのはいいなって思うんですよね。エネルギー問題は賛否両論が分かれるテーマだけど、「電気を自分で作ろう」っていうのは賛成しやすいというか。

マスヤマコム

タカハシ すんなり聴けますね。

マスヤマ そうそう。僕自身は「携帯の電波が入らないところとウォシュレットのないところには行きたくない」ってよく言ってるんだけど……。

タカハシ ハハハハハ!(笑)

──快適さは大好きっていう。

マスヤマ というか、後には戻れないですから。

タカハシ そうですね。エコだって、何かプラスαがないと進まないだろうし。

マスヤマ うん。「起電力ロマンス」はメッセージソングではないんだけど、結果的にメッセージを伝えることになってると思うんですよね。「電気だって 自分で作ろうよ アハハン」だから(笑)。

配信シングル「起電力ロマンス」 / 2013年5月27日配信開始 / 200円 / mishmash*
配信シングル「起電力ロマンス」
収録曲
  1. 起電力ロマンス

mishmash*(みしゅましゅ)

Corneliusのサウンドプログラマーを務める美島豊明と、ゲームや出版、映像などさまざまなカルチャーコンテンツを手がけてきたマスヤマコムによる音楽ユニット。作品ごとに異なるクリエイターをフィーチャーすることをコンセプトに掲げている。2012年12月リリースの1stアルバム「mishmash*Julie Watai」では、写真家として活躍する元アイドル / モデルのJulie Wataiをフィーチャーしている。

タカハシヒロユキ

カラフルな色使いのキャラクターやデザインを得意とするアーティスト。デザイン専門学校卒業後、数年間のデザイン事務所勤務を経てフリーに。テレビや雑誌などで注目を集め、2007年にテレビ朝日ミュージックと契約し上京する。その後、パリの国際テキスタイル見本市「Premiere Vision」に参加し、これを機に海外での活動を開始。現在は国内外で活躍しているほか、ファッション系およびデザイン系の専門学校で講師も務める。