ナタリー PowerPush - mishmash*

実験的ユニットが放つカルチャーミックス作品

Corneliusとは違うものを作ろう

──美島さんは作曲の際にどういう作り方をされるんですか。

インタビュー写真

美島 曲の骨格になるリフを最初に作って、それに対してメロディをどういうふうに動かしていくか、という感じで作っていくんです。構築していく形ですね。だから風呂に入って鼻歌で作る、なんてことができない。

──昔からそういうやり方なんですか?

美島 いや、それは小山田くんとやり始めてからですね。

──ああ、音を組み立てていくスタイルですね。

美島 そうそう。Corneliusもそうなんですけど、あれもメロディが先じゃないから。メロとか一番最後ですからね。

──でも彼も最初からそういう作り方だったわけじゃないですよね。

美島 それも多分僕と一緒にやり始めてからですね。シーケンサーの画面を見ながら作る。画面を見てるとわかるんですよ。ここにその音が来たときに、この音を乗せるとハマるとか。

──ある意味、非常に論理的に作ってるわけですね。

美島 そう。構築的に。

──今回のmishmash*でも、音色とかフレージングとか、Corneliusに共通するものが感じられますね。

美島 僕がCorneliusの音を全部やってるんで、同じっちゃあ同じですよね(笑)。使ってる機材が全く同じですから。Logic Pro使ってるし、ソフトウエアもプラグインも全く一緒ですから。それで使ってる人も同じだから、そりゃ似てきますよね。ただ、なるべく違うものを作ろうとは思ってるんですけどね。3拍子はやったことなかったから、やってみたかった。あとシャッフル系もあまりやったことないから、ちょっとハネたビートを使ったりしてます。

Julieちゃんはいい意味で素材

──Corneliusの場合は当然、まず小山田くんがやりたいものが最初にある。mishmash*の場合は……。

美島 マスヤマさんからお題が出てきますね。小山田くんほど具体的じゃないけど、もうちょっとざっくりした指示がある。「アキバのカヒミ・カリィ」とか。

インタビュー写真

マスヤマ あと「恋のタマシイ」って曲は、美島さんがビートルズ好きだから、「ビートルズっぽい曲作ろうよ」って言ったんです。ざっくりしてますけど(笑)。そうしたら65~66年ぐらいのビートルズっぽい曲が届いて。「これ『ラバー・ソウル』のころの感じですよね」ってなって。「ラバー」で「ソウル」だから、「恋のタマシイ」ってタイトルにしましたね(注:正確にはTHE BEATLESの「ラバー・ソウル」は「Lover Soul」ではなく「Rubber Soul」)。

──キーワード的なものを美島さんに投げかけて。

マスヤマ そう。あとはモータウンっぽい感じの、とか。そうしたら美島さんに「俺の中にモータウンやR&Bっぽいものはない」と言われて、出てきたのが「グラドルを撃たないで」という曲だったり。

──美島さんにこれをやらせたら面白そうっていうアイデアなんですか?

マスヤマ いや、もっとプロデューサー的な視点ですね。全体のバランスとかバリエーションとか。最初は3拍子のマイナーだったから、次はメジャーの曲とか、アップテンポの曲も欲しいし。最初から6曲入りのものを考えてたんですよ。放っておくと好きなものばかりやっちゃう傾向はあると思うんですけど、そこで納得しないように。

──全体のコンセプトの中で、必要な曲を考える。

マスヤマ そういうことは考えてましたね。もちろん美島さんがアイデアを持ってくる場合もあるし。あと、これは美島さんのソロプロジェクトなので、Julieちゃんはあくまでもフィーチャリングボーカリスト。いい意味での素材だというコンセンサスはとっている。

──ひとつのアイコンとして捉えている。

マスヤマ そう。ライブでトークしないとか。ボカロっぽいとかレプリカントっぽいとか言われるけど、そういう狙いだから。

言語が違うと聴こえる周波数帯が異なる

──そしてアルバムには全曲の英語バージョンが入ってますね。

マスヤマ そうですね。元々僕は10代の頃から日本とアメリカを行ったり来たりする生活をしてたので、日本だけのことを考えるタイプではなくて。音楽も洋楽で育っているし。日本語だけというのはイメージできないので、英語もあって当然なんですよ。何やるにしても。

──美島さんは作るときに海外のことは意識されたんですか。

インタビュー写真

美島 いや、特には意識してないですけど、英語版はあったほうがいいと思ってました。僕って日本語の曲を聞いても言葉、歌詞が全然入ってこないんですよ。僕だけかと思ったら教授(坂本龍一)も同じことを言ってて。でも語感で日本語じゃない言葉が入ってくると耳に残るんですよ。耳に引っかかってくる周波数帯が違うんですよね。だから同じ曲で違う言葉っていうのは、実験的で面白いなと。同じ楽曲で、同じ人が歌ってるのに、違う言語っていうのは、どういうふうに聴こえるのかと。

──それは興味深いですね。複数の言語で歌うこと自体に意味がある。

美島 そうそう。聴こえ方が違うっていう。

──実際作っていて、日本語バージョンと英語バージョンでは違いました?

美島 違いました。ミックスするときも、EQのポイントが違うんですよ。

Julie へえ……。

──そういう実験性も含んだ、でも、あくまでもポップなアルバムということですね。

美島 そういうことです。

mishmash*Julie Wataiは文化的価値へ投資

──で、そうして音が全てできた段階で、ビジュアルやマンガなどのメディアミックスが進んでいったと。

マスヤマ そうですね。日本語バージョンは去年の夏の段階で全てできあがっていたので、そのあといろいろ仕込んでいきました。

──マンガのストーリーは大暮さんが考えたんですか?

マスヤマ そうです。ほとんどお任せ。絵も、ワイルドだったり裸だったりしますけど、Julieちゃんにお伺いを立てたら「裸も2次元ではOKです!」ってことだったんで(笑)。「もう思い切りやってください、でないとインディーズでやる意味がないんで」と言って。結果として素晴らしいものができましたね。

Julie 大暮先生らしいです!

マスヤマ ここまで描き込んでいただけると思わなかった。大して儲かりもしないのに(笑)。ただ新しいものをやりたい、という情熱だけですよね。大暮さんだけでなく、そういう人たちが手弁当でいっぱい集まってきて、これだけ面白いプロジェクトになった。多分メジャーのレコード会社がやったら数千万円かかるようなプロジェクトですよ。でもその数分の一でできた。僕の本業は投資家なんですけど、これは投資なんですよ、文化的価値への。リターンはみんなが楽しめるということ。音楽を聴いて楽しむ、ライブを見て楽しむ。マンガを見て面白いと思う。Julieちゃんを見てカワイイと思う(笑)。そういう文化的価値は数字では測れないですからね。

インタビュー写真
CD収録曲
  1. リバーブの奥に
  2. 恋のタマシイ
  3. ゴー・ファービー・ゴー
  4. 3分シェイクスピア
  5. グラドルを撃たないで
  6. 砂に消えた涙
  7. Veiled by Reverb
  8. Roll of Love
  9. Go Furby Go
  10. 3 Minute Shakespeare
  11. Don't Shoot Me. I'm Only the Pin-up Girl.
  12. Un Buco Nella Sabbia
  13. グラドルを撃たないで(濱田祐子アレンジ版)
mishmash*(みしゅましゅ)

Corneliusのサウンドプログラマーを務める美島豊明と、ゲームや出版、映像などさまざまなカルチャーコンテンツを手がけてきたマスヤマコムによる音楽ユニット。作品ごとに異なるクリエイターをフィーチャーすることをコンセプトに掲げている。2012年12月リリースの1stアルバム「mishmash*Julie Watai」では、写真家として活躍する元アイドル / モデルのJulie Wataiをフィーチャーしている。