水瀬いのり×カノエラナ|アニメ「アクロトリップ」主題歌で深まる2人の縁

10月よりTOKYO MX、BS日テレにて放送されるテレビアニメ「アクロトリップ」のオープニング主題歌に水瀬いのりの新曲「フラーグム」、エンディング主題歌にカノエラナの新曲「リバーシブルベイベー」が使用される。

「アクロトリップ」は、街を守る魔法少女・ベリーブロッサムのことが大好きな主人公・伊達地図子が、悪の総帥・クロマに見込まれ、魔法少女と敵対する悪の組織に勧誘されることから始まる“本末転倒・推し活コメディ”。水瀬は本作に声優として出演し、ベリーブロッサム(乃苺佳寿)役を担当する。

このアニメを彩る「フラーグム」は8月21日に“オリジナルハーフアルバム”としてリリースされた水瀬の最新作「heart bookmark」に収められており、「リバーシブルベイベー」は10月30日に6thシングルとしてリリースされる。カノエは自身の楽曲だけでなく、「フラーグム」の作詞も担当。今回のタイアップを通して2人の活動が交わることになった。レーベルメイトながらこれまで大きな接点がなかった水瀬とカノエはお互いにどのような印象を抱いているのか。そして「アクロトリップ」の主題歌2曲はどのようにして完成したのか。音楽ナタリーでは2人にインタビューし、それぞれの思いを語り合ってもらった。

取材・文 / 西廣智一撮影 / 小川遼

ご本人様を見ると私が消え飛んじゃう

──お二人の初対面はいつ頃か覚えていますか?

カノエラナ 私が水瀬さんのライブ(2023年秋開催の「Inori Minase LIVE TOUR 2023 SCRAP ART」)にお邪魔したのが最初だったと思います。

水瀬いのり なので最近のことですね。

──お会いする前はお互いにどんな印象がありましたか?

カノエ キラキラした方なので、会ったら私が消え飛んじゃうんだろうなって(笑)。

水瀬 いえいえ(笑)。私の中では、カノエラナさんの実像とその歌声のイメージがなかなかつながらなくて、文字情報だけでは特定できない面白みのある方だなと思っていました。「KING SUPER LIVE 2024」でMCを拝見させていただいたときは、「歌っていないときってこういう方なんだ」という発見があって。私にとって新しいお顔、新しい色という印象だったので、本当に多彩な方なんだなと思いましたし、実際にお会いしてからはその思いがさらに濃いものになりました。

左から水瀬いのり、カノエラナ。

左から水瀬いのり、カノエラナ。

カノエ 今日初めてしっかりお話しさせていただいているんですけど……なんて言えばいいんでしょうね。いのりさんの楽曲を発表された順にばーっと聴いたときに、本当にいろんな色を持った方だなと感じて。めちゃくちゃロックな曲もあれば、すごくかわいらしい曲も、優しく包み込むようなタイプの曲も歌われているんですけど、その中にしっかりした芯があるという。凛とした旋律を奏でているというか、声というよりは楽器みたいな感じで聞こえてきて、それが楽曲の印象としてすごく強いんです。ご本人様を見ると私が消え飛んじゃうのであまり目を見て話せないですけど(笑)。

水瀬 いやいや、見てください(笑)。

カノエ あ、はい……見ました(笑)。あの、拝見したライブがクールな感じだったので、以前から知っていたかわいらしくて優しい感じのいのりさんのイメージがそこでグルッと変わって。最初にフードを被ってステージに登場したとき、そのカッコよさにグッと心をつかまれました。

──水瀬さんの歌声を楽器に例えていましたが、それはすごく理解できます。これまでいろんなタイプの楽曲を歌っていますが、声優さんということもあってか、1曲1曲異なる主人公を演じるようにして声色や発声の仕方を変えているのかなと。

水瀬 いただいた曲のイメージや、曲の中で何を伝えたいかというところは常に大切にしていて。元気もかわいいも1種類じゃないので、一辺倒にならないようにいろんなニュアンスを付けることはデビューしてからずっと意識しています。声優としてキャラクターを演じるときも同じことを意識していて、やっていて楽しいし、自分のやりがいにつながっているのかなと思います。

──カノエさんの楽曲も、ご自身の声を使って遊んでいる印象が強くて。そこも楽器に例えることができるのかなと思います。

カノエ 私は歌っているとメロディに飽きてきちゃうので、「とにかく遊ぼう」みたいな意識が強いですね。レコーディングして完成した曲もライブで披露すると全然違うものになりますし、そこは生きものとして扱うような感覚があるんです。もちろんレコーディング自体もすごく楽しいので、優しいパターンを録ったあとにちょっとがなるパターンを録ったりと、同じフレーズでも数パターン作って、どれが一番聴き心地がいいかで選択することも多いです。もしかしたらキャラクター性というか、曲の主人公がどう思っているんだろうと考えるアプローチと同じなのかもしれないですね。

「アクロトリップ」を表すうえですごく説得力のあるオープニング曲

──アニメ「アクロトリップ」で水瀬さんがオープニング主題歌、カノエさんがエンディング主題歌を担当するという縁が生まれましたが、お二人は最初にこの話を聞いたときにどう思いましたか?

水瀬 原作が「りぼん」で連載されていたということで、まずそのことが素直にうれしいです。自分も子供の頃、よく手に取って読んでいたマンガ誌ですし、そこにはキラキラした女の子たちの夢が詰まっていて。「こんなふうになれたらな」という淡い思いを寄せながら読む物語がたくさんある中、その1つがこの「アクロトリップ」で。その作品に声優として携わることができるのもうれしかったですし、さらにオープニング主題歌を担当することでまた自分の新しい扉を開けられるんじゃないかとワクワクしました。アニメのテーマソングを担当するたびに毎回いろんな学びが得られているので、今度はこの「アクロトリップ」という作品を通して新しいアプローチができそうな気がしました。

カノエ 私はアニメ作品に関わること自体がずっと夢で、今回また新しい作品に携わることができるのが本当にうれしいです。エンディング主題歌を歌わせていただけることが決まり、まずどんな内容の作品なのかをスタッフさんに聞いたら、「魔法少女もので推し活っぽさもあるんだけど、めっちゃギャグテイストも入っている」と言われ、その瞬間にガッツポーズでした。私はギャグマンガが大好きで、アニメの資料が届くより先に原作を全巻そろえて一気に読んだくらいうれしい気持ちでいっぱいでした。

──オープニング主題歌「フラーグム」の作詞を担当することは、どのタイミングで決まったんですか?

カノエ 確か、エンディング主題歌の「リバーシブルベイベー」のほうがちょっと早く完成したのかな。私がノリにノってすぐに完成させたら、そのあとで「よかったらオープニング主題歌の作詞も担当してもらえませんか?」というお話をいただいて。「えーっ、やらせていただけるんですか!? やります!」と即答しました。

──水瀬さんが歌う楽曲ということで、作詞にあたってどんなことを意識しましたか?

カノエ 基本的には原作をベースにして書きたいなと考えたんですけど、いのりさんが歌われるということもあって1番と2番でちょっと違う切り取り方をしてみようかなと。1番は主人公の成長過程を意識して、2番以降は背中を押す側というか、少し成長して後ろに立っている余裕がある、そういう姿を書きたいなと思ったんです。いのりさんも最近はカッコいい印象がありますし。さらに、作品に合わせてちょっと幼い要素も入れたいなと思ったので、あまり難しくない歌詞にすることを意識しました。

──水瀬さんは「フラーグム」に対して、最初に曲が届いたときにどういう印象を持ちましたか?

水瀬 「アクロトリップ」では主人公の地図子が魔法少女のベリーブロッサムに憧れを抱いて、「こんなときめき、初めて!」という、今まで感じたことがなかった感情に出会うわけですが、オープニングテーマで私が演じるベリーブロッサムにかけて苺と表現する、その発想が本当にすごすぎて(「フラーグム」はラテン語で「苺」の意味)。ベリーブロッサムは地図子から推される側で、地図子のことをほほえましく思っている部分がある一方で、ベリーブロッサム自身も決して完璧ではなくいろんな迷いとか不安があって、それをひた隠しにしながら魔法少女をまっとうする。その彼女のがんばりにも寄り添った歌詞になっていたので、「アクロトリップ」という作品を表すうえですごく説得力がありました。

カノエ うれしい……。

水瀬 私もこれまで何曲か作詞をさせていただいたことがあるんですけど、伏線回収の仕方も鮮やかで自然だし、カノエさんがおっしゃたように素直で難しくない言葉だからこそスッと入ってきて、かつ希望に満ちた言葉が並んでいるので、多くの人に語弊なく届くんじゃないかなと思います。私自身も「この仕事に就きたい、こんなふうになりたい」という思いを経て今の自分があるので、幼い頃を思い返すような歌詞にも感じられますし、自分が今迷っていることを一掃してくれるようなところは魔法少女のカッコいい部分、頼もしい部分にもつながっていて。1人の女の子が曲の中で成長している、そういう過程を感じられる歌詞がこの作品にぴったりで、かつ私が歌ってもちゃんと意味を持つ言葉が紡がれていて、本当にうれしかったです。

左から水瀬いのり、カノエラナ。

左から水瀬いのり、カノエラナ。

カノエ よかった。ありがとうございます!

水瀬 仮歌も歌ってくださって。

カノエ 「いのりさんが聴くんだよな……どうしよう……」と思いながら歌わせていただきました(笑)。

水瀬 そのバージョンもいつか皆さんに聴いてもらいたいです。

カノエ いやいや。メロディが難しいので……。

水瀬 仮歌、完璧でした。そのおかげでレコーディングでも迷わず歌えたので、豪華すぎるガイドボーカルでした。ぜひいつか歌ってくださいね。

カノエ ……消え飛んでしまいそうです(笑)。