ナタリー PowerPush - 遊佐未森
すべての時間が歌につながる 25周年を祝福する2枚組ベスト
デビュー25周年を迎えた遊佐未森が、2枚組ベストアルバム「VIOLETTA THE BEST OF 25 YEARS」をリリースした。DISC 1は遊佐本人がセレクトしたオールタイムベスト、DISC 2は親交の深いアーティストたちと新アレンジでレコーディングしたセルフカバー集という充実の内容。ナタリーでは制作を終えた遊佐をキャッチし、作品に込めた思いと今の心境を聞いた。
取材・文 / 唐木元
DISC 1はベストアルバム、DISC 2はライブアルバム
──まずはデビュー25周年と、25周年ベストアルバムのリリース、おめでとうございます。
ありがとうございます。
──今回のベストはDISC 1は過去音源が時系列で並んでいて、DISC 2は新録のセルフカバーがシャッフルされているという、「ただのベストじゃないんだな」っていう感じが伝わってきました。それだけに曲を選ぶのは骨が折れる作業だったろうな、と。
そうですね、すごい大変でした。もうなんか、けっこう悩んで(笑)。基本的には(25年間の)作品全体から選んだ形ですけど、どれは昔のままでどれは録音して、ということもありますし。
──いつ頃から取りかかっていたんですか?
いつからだろう、今年に入ってすぐに全体の準備が始まって、スタジオ入ったのは3月……4月くらいからでしょうか。今年はずっとこれやっていた感じですね。
──こういう構成の2枚組になさった意図を伺えればと。
DISC 1については時系列で並んでいたほうが聴いてくださるファンの方も楽しいでしょうし、私自身も自分で聴いていて「ああ、このときはこうだったな」って時代を振り返れますから。「振り返るベストアルバム」という意味では、この並び順がいいだろうっていうことで。
──DISC 1は「振り返るベストアルバム」。そうするとDISC 2は?
ちょっとこう、ライブアルバム的な印象もあるのがDISC 2ですね。ここ数年よく一緒にライブをやっているメンバーと(過去の曲を)レコーディングしたいということでやりました。録り方もほとんどセッションみたいな感じ、ちょっと荒い部分を残したかったので、通常のレコーディングとは全然違う作り方をしてます。
──なるほど、ライブアルバムとして聴くと、曲順が時系列じゃないのも当然というか。
DISC 2は新しい録音でやると決めた最初の段階から、シャッフルというか、ライブを聴いたような曲順にしようっていうのは思っていました。
お客さんが見えてるようなイメージで歌っていましたね
──今おっしゃられた少し荒さのあるレコーディングというのは、具体的にはどういう。
曲によっては一発録りというか、それぞれ別のブースに入ってはいるんですけど「せーの」って同時に演奏して。しかもテイクワンでOKになった曲もいくつかありますね。
──オケだけじゃなく歌入れもそのとき同時なんですか?
はい。「桜、君思う」なんかがそうですね。
──それで「せーの」感が出てるんですね。初期の曲だといろんな状況が変わってきていると思うのですが、節回しのニュアンスを変えたりはなさったんでしょうか。
あんまりしてないです。ただ自分の中ではライブ盤みたいなイメージを持っていたので、そのときそのときの生まれるニュアンスを大切にしました。
──1曲目に「暮れてゆく空は」を持ってこられたのは。
これはアレンジしてくださった渡辺等さんの愛情をものすごく感じたというか、(プレイヤーの)みんなに、音で「おめでとう」って言ってもらったような気がしたんですね。すごくこうパッとしたサウンドで。普通はきっともっと……。
──ああ、25年経ってしっとり歌いました、みたいな。
静かめにしてみたり、大人っぽいアレンジ、シックな感じとかあると思うんですけど、「なんか派手じゃん」みたいな(笑)。
──ブライトな音でしたね。当時より明るいくらいのサウンドで。
それでみんなバンバン弾いてくれてもいて、何か勢いのある、力のあるサウンドを奏でてくれて、それがすごくうれしかったですね。
この「潮見表」が録れたことが、どれだけ今後の指針になるか
──それでパパーンと「暮れ空」が鳴ったあとで、「潮見表」が2曲目に置かれていて。
どうでした? これ。
──いやー、どうもこうもなかったです、アルバムの中でも一番感動したくらいで。オリジナルよりずっと曲のスケールが大きくて。
このアルバムでね、「潮見表」のこのテイクが録れたことが、どれだけこれからの指針になるかっていう……力をもらった曲になりましたね。最初はもっと原曲に近い感じだったんですけど、「いや、ちょっと違う感じでやりたいです」って作り直してもらって。それで今のアレンジをデモでいただいたときに「来た、来た!」っていう感じがして。
──リテイクした甲斐が。
このテイクを録ってるときは、もう本当に私がムービーのカメラマンだったらよかったのに、っていうくらい、みんなカッコよかったんですよ。でも私もみんなから見えるブースで歌っていましたので、撮るわけにもいかず……。
──残しておきたいほどの。
iPhoneで撮りたいよーって思いながら(笑)。でも撮ったらたぶん空気が変わってしまうし。なにしろこれ一発OKなんですね。
──そうなんですか。
不思議ですよね、それまでは難しい曲だと思ってたのに。当時はまだ自分自身ちゃんと歌えてなかったのかもしれないって今思うんですけど。それがこのアルバムのための新しいアレンジで録ったときに、一緒にスタジオにいるメンバーと、すごく尊いところに行けた気がしたんですよね。それはたぶんメンバーみんなも感じていて。終わったあとはみんな笑顔で、そんないっぱいしゃべる人たちじゃないんですけど、とても充実した時間と空気が流れていましたね。
──音数が多いとかではないですけど、すごい大きな何かを感じさせるというか。
なんかね、やっぱりこれがあるから音楽は面白いよねっていう。その日そのときに生まれてくる音楽が。震災のあとは、私が仙台出身で、いろいろ被災地で活動をやってるっていうのもみんな知ってくれてるし。メンバーの秘めたる思いみたいなものが伝わってきました。「潮見表」はこの地球のことを歌った歌で、ささやかな暮らしを大切にしたり、明るい何かに向かって歩き出したいっていうようなメッセージも込めて、みんなで演奏できたような気がしています。
- ニューアルバム「VIOLETTA THE BEST OF 25 YEARS」
- ニューアルバム「VIOLETTA THE BEST OF 25 YEARS」 / 2013年9月11日発売 / 4410円 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ / YCCW-10202~3
DISC 1
- 瞳水晶
- 地図をください
- 0の丘 ∞の空
- 僕の森
- Silent Bells
- Island of Hope and Tears
- Floria
- ポプラ
- 眠れぬ夜の庭で
- オレンジ
- クロ
- Tell me why
- ミナヅキ
- 欅 ~光りの射す道で~
DISC 2
- 暮れてゆく空は
- 潮見表
- 一粒の予感
- poetry days
- 街角
- 桜、君思う
- 君のてのひらから
- ブルッキーのひつじ
- Theo
- 夏草の線路
- I'm here with you
遊佐未森(ゆさみもり)
宮城県仙台市出身の女性歌手。1988年にアルバム「瞳水晶」でデビュー。1989年に「日清カップヌードル」のCMソングに採用された「地図をください」がヒットを記録し、幅広い世代の注目を浴びる存在となる。その後も数々のオリジナリティあふれる作品を精力的に発表。みずみずしく透明感のある歌声と上質なポップスで独自のスタンスを確立する。2009年発売のアルバム「銀河手帖」の収録曲「I'm here with you」はNHK「みんなのうた」で放送されたほか、長編アニメーション「川の光」のメインテーマとなった。2011年の東日本大震災以降は、被災地でライブを行うなど積極的に支援活動を展開。2013年9月11日、デビュー25周年を記念した2枚組のベストアルバム「VIOLETTA THE BEST OF 25 YEARS」をリリースした。