私はすべてを音楽にしたい人ではない
──「inside you」に続くToruさんとの共作曲で、アルバムのラストを飾る「The Love We've Made」は特に印象的でした。
「The Love We've Made」はまだデビューも決まっていない頃、「inside you」と同時進行で作った曲なんです。Toruさんと共通のお友達にベイビーが生まれて、お祝いの曲を作りたいなと思って。私の曲には今までになかった柔らかさのある歌だなと思います。
──miletさんはこの曲のようにすごく無邪気に愛を表現する面もあれば、どこか達観して見えるときもあって、そのアンバランスさが面白いなと思います。
自分でもそう思うことがあります。感情の振り幅が大きくて、「その中間はどうした?」って感じ。でも、その達観した感じに、表現することをあきらめている部分が出ているのかも……ってときどき思うんです。なぜ自分がそんなふうに達観してしまったのか、その感情に至る確信みたいなものを形にできたらと思うんだけど。
──そのあきらめというのは、どうせすべてを音楽で表現することはできないんだから……ということですか?
それもあるとは思います。このアルバムを作ってるときにすごく疲れたんですよ。疲れ切って、なんの音楽も聴きたくないと思う時期もあった。そういう経験をして気付いたのは、私は音楽以外でも表現したいことがあるんだなということでした。例えば家族に何かを伝えるとき、私は家族に向かって歌うより、言葉で気持ちを伝えたい。つまり、私はすべてを音楽にしたい人ではないということがわかったんです。
──なるほど。
じゃあ逆に、私は音楽で何を表現したいんだろうということを考えるきっかけにもなったんですけど……だからこのアルバムは、音楽にしたいものと、したくないものの区別が付き始めた分岐点とも言えるかな。
──ミュージシャンにはいろんなタイプがいて、人生のすべてを音楽に捧げるような人もいる。一方でマイペースに自分の人生を歩んで、そこから枝葉のように音楽が生まれてくる人もいて、それもすごく魅力的ですよね。
自分ではそれがすごく不安だったんです。音楽を仕事にするなら、音楽は少なくとも10割のうち、9割とか8割を占めてなきゃいけないと思ってた。でも私はそういう人間じゃなくて、音楽が6割、自分の生活が4割くらいで成り立ってる。音楽を作る間はもちろん100%でやってるし、何よりも楽しいんだけど、終わった瞬間に“音楽がすべてじゃない人”になっちゃう。で、音楽から離れてみると、それはそれでメンタルが不安定になっちゃって。気持ちの持っていき方がけっこう大変で(笑)。
──音楽家としての人生と、個人的な人生がパラレルで進行して、そこを行き来するような?
そう、まさにパラレルワールドに生きてるみたい。ただ、今回わかったのは、私の人生において音楽の占める割合が6割だとしても、自信のある曲を作れるということ。これがもし音楽100%になってしまったら、私の生活は破綻すると思う。音楽じゃない4割の部分が私の音楽に投影されているから、それがなければ燃料を失ったようなもので、音楽に対する熱にもブレーキがかかっちゃうかもしれない。
──なるほど。そう考えると音楽って不思議ですよね。生きるうえで必要なものだというのはわかるんだけど。
そう、音楽なしでは絶対に生きられない。だけど酸素のようなものでもなくて。
──じゃあmiletさんにとって音楽とは?
正気を取り戻すためのもの、かな。私にとってクラシック音楽がそうですね。生まれたときから身近にあるクラシックを聴くと、小さい頃に家族から受けた愛情とかもフラッシュバックして、大切なことを思い出せる。原点に立ち返ることができるんです。どうして私はこんなに何度も原点を見直さなきゃいけないのかな……と思うんですけど、この仕事をしているとそれくらいいろんなものに引っ張られるし、自分を見つめて考えなきゃいけないことが多い。
──でも、誰かに心から愛されたとか、すごくいい景色を見たとか、そういう思い出も自分の中にはある。確かに音楽はそれを思い出すトリガーになりますね。
そう。音楽があってよかったです。
音楽を作る時間が自信と前を向く力をくれた
──ところで先ほど家族には歌じゃなく言葉で伝えたいというお話がありましたけど、それは日々伝えているんですか?
うん、手紙を書きます。家族みんな感情がコロコロ変わるタイプだし、昨日YESだったことが今日はNOになったりするので、気持ちを残しておきたいんです。私がどれほど感謝を感じているかということを。
──いいですね。手紙をもらうとうれしいですもんね。
うれしいと思います。私の場合、お返しはないんだけど(笑)。でも書いてるときも、やっぱりうれしいから。
──ポジティブな気持ちを伝えることが多いんですか。
そうですね。「ごめんなさい」を伝えるときはケーキとか甘いもの買っちゃう(笑)。それで、何事もなかったかのように振る舞います。
──そういう日常の何気ない出来事の1つひとつがmiletさんの音楽を作ってるんでしょうね。
人柄が出てますね、ホントに。だから自分の曲を聴くと落ち着かない気分になる(笑)。私も気持ちがコロコロ変わる人だから、コンディション次第では自分の作った曲に対して「何言ってんだ」と思うこともあるんですよ。落ち込んで前を向けないようなときは、「Again and Again」のようなポジティブな曲に対して「調子いいこと言ってんなあ」とか思う自分もときどきいたりする。そんなときは「Tell me」とか「Prover」のように、下から自分をすくい上げてくれる曲に耳を傾けます。でももちろん「Again and Again」に込めた思いは嘘なんかじゃなくて、聴きながら「まさしくそうだよね」と思うときもある。
──上がったり下がったり、人生それの繰り返しですよね。
そうなんです。このアルバムは、ホント、私の人生みたいなんですよ。でも最近の私は、以前より強くなった気がするんです。音楽に何度も打ちのめされながら立ち上がることで着実に強くなった。おかげでこれから先の人生、なんでも楽しめそうな気がする。きっと音楽を作る時間が、私に自信と前を向く力をくれたんだと思います。
ツアー情報
- milet live tour 2020 "eyes"
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- 2020年11月12日(木)大阪府 NHK大阪ホール
- 2020年11月13日(金) 大阪府 NHK大阪ホール
- 2020年11月23日(月・祝)東京都 中野サンプラザホール
- 2020年11月24日(火)東京都 中野サンプラザホール
- 2020年12月5日(土)愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
- 2020年12月6日(日)福岡県 福岡国際会議場 メインホール
- 2020年12月22日(火)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2020年12月24日(木)宮城県 Rensa
- 2020年12月26日(土)広島県 LIVE VANQUISH