正直、怖さもありました
──miletさんの曲を使用したアニメのPVも、「FGO」ファンから熱い反応がありましたね。
ホントに「Prover」は「FGO」に捧げた歌なので、この曲が合わないはずがないと思っていました。でも、正直怖さもありました。「FGO」を愛する皆さんから「いらん!」って突き返されたらどうしようと思って……歴代のエンディングテーマもすごいものばかりだったし。
──ファンだからこそ感じる怖さがあった。
はい。ファンの方は「FGO」シリーズを長年観てきただろうし、ゲームも深くプレイしていると思うので、すごく厳しい目を持っているだろうと。「FGO」に限らず、アニメというのは映像と音楽とストーリーと、いろんなものを凝縮したアートじゃないですか。ファンはそれを深読みする能力に優れているから、きっと音楽も深く理解してくれるという確信もあり、それなら今回は思いっきり深いところまで掘ろうと思いました。
──だからこそ、あの熱い反響が。
皆さん、深い深い穴の中まで付いて来てくださって、すごくうれしかったです。
──「Prover」というのは“証明者”という意味ですよね。
そうです。でも“prover”は普段はあんまり使わない言葉ですよね。私も今までの人生で一度も口にしたことがないかもしれない。でもなぜか、最初にメロディを作っている段階で、サビで自然と「I'm a prover」と歌ってたんです。歌詞のことは考えずメロディだけ作っていたのに、なぜかそこだけはっきりと。それで「私、proverって言ってるなあ」と思って改めて考えてみたら、「FGO」というのは、主人公やヒロインが人間の生きる道を証明していく話だと思って。そこで、「これだ!」と。
──曲に登場する舟というモチーフも印象的ですが、これはどこから?
それが私もわからないんです。この歌を作りながら出てきたのが、死から生にさかのぼっていくイメージで、三途の川のようなビジュアルが浮かびました。今作のジャケットやミュージックビデオに映っているのは小さな舟ですけど、もともと私がイメージした舟は、ノアの方舟のような巨大なものだった。その舟に乗って誰か1人でもどこかにたどり着けたら、そこからまた物語が広がっていくような感じがあって。
──「創世記」のように。
そうそう。ノアの方舟も終わりが始まりになっていて、生きていることと死んでいくことが1つの物語になっているから。
──なるほど……だからこの曲はゴスペル的なムードがあるんですね。
「人類に対する讃歌を歌ってほしい。どこまでも壮大にしていい」というリクエストをいただいたので、映画音楽のスケールで作りました。
──壮大なオーケストレーションも聴きどころです。
自分でも壮大なサウンドを使ったなと思います。でも、「FGO」の物語を包み込める歌を作りたいと思っていたら、物語が分厚すぎてこんなに大きくなっちゃった。特に手応えを感じたのが間奏部分です。ラストのサビを大きく聴かせるために終盤にグッとくる間奏を作りたいと思って、レコーディング当日のギリギリまで考え抜きました。ブースに入って間奏のコーラスが生まれたとき、ここがこの曲最大の見せどころだと思えるくらい自分が期待した以上のものができて、すごい達成感がありました。それを家に持ち帰り、繰り返し寝る前まで聴いて、「なんていい曲なんだろう」と……これはホントに自信がありましたね。
──miletさんと「FGO」の化学反応が起きた感じがしますね。
作品に引き出してもらったんだと思います。1人でピアノに向かって作り始めたときから、自分の内側から出てくる音楽とはちょっと違う色がある、異質な曲だなあと思っていました。私が作った感じが全然しなくて、これはもともと「FGO」の世界にあって、バビロニアの地表から湧き出てきた曲なんだと思います。
「今まで私の曲に出会ってくれた人がいる、もうそれだけでいい」
──2曲目の「Tell me」はどんなイメージで制作を?
劇中のめちゃくちゃ大事なシーン、神々の戦いのときに流れる音楽をイメージしました。実はこの曲はずっと前からデモとして存在はしていましたが、今回改めて「FGO」の世界に寄り添って歌詞を変えました。
──悲しみと喜びが同時に伝わってくる不思議な歌だと思います。
大切な人の最期を見届ける人と、見届けられる人の歌にしようと思って。生き続ける人は「ずっとここにいるよ」と言って、旅立つ人は「まだここにいたい」と思って……ちょっと後悔とか未練もあるかな。
──「見つけてくれた それだけでいいよ」というフレーズが泣けるんですよね。ここにはいろんな複雑な気持ちが込められているんだろうなと……。
そこは見せ場です! 「FGO」の世界に寄り添って作ったけど、ここには私自身の気持ちも込めました。「今まで私の曲に出会ってくれた人がいる、もうそれだけでいい」と思うから。
──でも、そんな言葉を最期のときに聞いたら、やっぱりまだここにいたいと思ってしまうでしょうね、強烈に。
そうですね、人は最後に何を思うのかな……もし後悔があったとしても、「出会えた、それだけでいい」と思える相手がいたと気付けたら、それだけでちょっと救いがありますよね。
私はできることは全部やりたい
──さて、今作も濃い4曲入りですが、4曲目の「レッドネオン」はカラッと乾いたカントリーサウンドで、これはまた新機軸だなと思いました。
ふふふ(笑)。これはデビューが決まる前、かなり昔の曲で、私の親友にあげた曲なんですよ。その友達も歌うのが好きで、「曲を交換こしようよ」っていう話になって、その人のことを思って作りました。自分でもすごく気に入ってて、手放すのをちょっと渋ったくらい(笑)。それをプロデューサーに聴かせたことがあるんですけど、最近になって「あの曲すごくよかったよね。収録したいんだけど……でもmilet、友達にあげちゃったんでしょう?」という話になり。それを友達に伝えたら、「マジか! いいよ、うれしいよ!」って言ってくれて。
──いい友達ですね。
その人に歌ってほしくて作った曲で、友達も好きになってくれて……それが時間を経て自分のもとに返ってきた。そして今、こうしていろんな人が聴いてくれる環境でリリースできるのがすごくうれしいです。
──「梅公行こうよ」っていうフレーズがいいんですよね。サウンドはウエストコースト的だけど、この言葉1つで一気に日本的な光景が広がる。
これ、京都の梅小路公園のことなんですけど、わかる人はわかるかな? 全編英語バージョンも試したんですけど、「ネオン」は英語の発声だと「ニオン」になっちゃうんですよね。それがどうしても気持ち悪くて日本語のままいこうと。
──miletさんは英語がかなり堪能だと思うんですけど、歌詞では誰もがわかる英語のフレーズを使いますよね。
やっぱりわかりやすい言葉が一番響くと思うので、そうするとストレートな英語の表現になりますね。頭の中に音として残る、繰り返したくなる言葉のほうが私の伝えたいメッセージを乗せやすい。ときどき海外の方とセッションすることがあって、そのときは日本の教科書にはないような言葉使いもするんですけどね。そういえばYouTubeで公開してる「Us」と「Prover」のミュージックビデオは自分で英語の字幕を付けたんですけど、隠しネタみたいな感じでちょっと日本語とニュアンスを変えた部分もあるので、よかったら英語字幕も見てもらえるとうれしいです。
──この「レッドネオン」はこれまでのmiletさんの楽曲とはまた違う感じがして、驚く人も多いでしょうね。
ですよね。私はいろんな方向に興味が向かって、まとまらない部分もあるんだけど、今はそれでもいいかなと思ってます。「miletはデビュー曲『inside you』のオルタナ系で行ったほうがいいよ」とか「いやポップス系のほうが」とかいろんな考え方があると思うけど、私はできることは全部やりたいし、それが一番楽しいから。いろんな世界を持っていようと思います。
──いよいよ3月からは初の全国ツアーも始まりますね。
こうして新しい曲もできたので、みんなの反応が楽しみです。またいい曲ができましたよー!(笑)
ライブ情報
- milet live tour 2020 "Green Lights"
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- 2020年3月6日(金)大阪府 BIGCAT
- 2020年3月14日(土)福岡県 DRUM Be-1
- 2020年3月15日(日)広島県 広島セカンド・クラッチ
- 2020年3月22日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2020年3月29日(日)愛知県 THE BOTTOM LINE
- 2020年4月5日(日)宮城県 darwin
- 2020年4月12日(日)東京都 マイナビBLITZ赤坂
- 2020年4月13日(月)東京都 マイナビBLITZ赤坂