milet|「ヴィンランド・サガ」から導かれた愛の歌

フェイクは初めてやりました!

──アニメのエンディングらしい曲調というのは考えましたか?

それは全然考えなかったです。オープニングにもエンディングにもふさわしい歌にしたかった。あと、バラードにはしたくなかったんですよね。私が「ヴィンランド・サガ」に感じたのはバラードじゃなかった。地面を踏みにじるくらい強い足取りで進んでいくイメージだったから。

──「ハッハッ」という荒い呼吸のようなコーラスから、命ギリギリの感じが伝わります。

極寒の地で、白い息を吐きながら歩いているイメージ。自分でもこの曲を聴くと、ちょっと切羽詰まる感じがします。

──歌い方も変えていますよね。

自然とですけど、レンジ(音域)が自分に合ってたので、“自由演技”がしやすかったです。いろんな感情を入れることができたし、力を込めて踏ん張りやすかった。そうそう、制作中に「ヴィンランド・サガ」チームの音楽センスの鋭さを感じたエピソードがあるんですよ。ボーカルを入れるときに、シングルにするかダブル(※同じ音程(ユニゾン)のボーカルトラック2つを重ねるミックスの手法)にするかを決めるんですけど、今回はアニメを盛り上げるためにも、サビはダブルにしたほうがいいのかなと思って、ダブルのテイクも録ったんです。

──そのほうがパッと聴いた感じ華やかで、耳を引きますよね。

そうなんです。でも「ヴィンランド・サガ」チームから、「ここはmiletさんの声の強さを引き立たせたいから、シングルでお願いします」という要望をいただいて。そんなこと初めて言われたから、ドキッとしました。

milet

──音を盛らないmiletさんのスタイルを知ったうえでの言葉という感じがしますね。

そうそう。「ああ私の曲を聴いてくれてるんだ」と思って、うれしくて。サビのボーカルをシングルにしたことで1人で歩いている感じが出せたし、コーラスもたくさん重ねることができて、最後の掛け合いもすごく映えました。

──終わりにかけて一気にコーラスが厚みを増していく。

最後はすごい凝縮感がありますよね。フルで聴くとブリッジの部分もカッコいいんですよ。

──そのブリッジを挟んで最後のサビがきて、ガツンと盛り上がると思いきや、一瞬アコースティックギター1本だけになるっていう展開にもびっくり!

そう、音を抜いて一度落ちてから、強めのフェイクですよ! フェイクは初めてやりました、楽しかった!

──あそこはゾクッときますね。歌うときは主人公の気持ちになるんですか?

いえ、私の心境です。一度はトルフィンのものとしてあげたけど、私のもとにまた戻してもらうという感じで。歌詞を作るときは主人公に寄り添ったりもするけど、私にも重なる歌詞しか書けないので、歌うと私のものになります。

セッションをするような撮影の楽しさ

──「Drown」のミュージックビデオはどこで撮影を?

アメリカのアラバマ・ヒルズです。西部劇などの映画も撮影されたところで、砂漠とモーテルしかなくて、めちゃ暑かった。

──曲のタイトルは「Drown」ですが、海じゃなくて砂漠なんですね。

この曲は海のイメージだけど、ドライな印象もあって。ビートも乾いた感じだし、声もギターもちょっとドライに処理してます。MVは初めて現地の制作チームと組んだんですけど、日本のチームとは何もかもが違って面白かったです。

──どんな違いが?

基本的にはすごくラフで、お菓子を食べながらとか、寝そべりながらモニタチェックしたり。日本のスタッフさんは礼儀正しくて、こっちが集中できるように少し距離を置いてくれるんですけど、外国チームの人たちはずーっとしゃべってる(笑)。お互いの家族の話とかして、すごく仲よくなって、でもいざ撮影が始まるとテキパキ進む。その切り替えがすごいんですよ。

──なるほど。

あとすごいと思ったのは、何をどういう順番で進めて、最後はどういうビジョンになるか、みんなの頭の中にしっかり入ってるんです。車のドライバーさんまで次に何のシーンを録るかわかってるし、私が疑問を投げかけたら、誰もが答えられる。アイデアもその場でどんどん出して、カメラマンさんがこういうシーンを撮りたいといったら、監督が「それいいね!」って採用して、またそこから新しいアイデアが生まれてくる。そのやり方が私はすごく合うなと思いました。

──セッションみたいですね。

そうそう、ジャズのセッションみたいで、すごく楽しかった! 夜はスタッフみんなと一緒にごはんを食べて、朝もダイナーで会って。アメリカはいろんな人種がごちゃまぜの国だから、みんな受け入れる態勢がオープンでラクだし、「milet、アメリカでめっちゃ生き生きしてたよ!」って周りのスタッフに言われました。私、アメリカにいると適応能力が上がるかもしれない(笑)。

タイアップはプレッシャーより楽しさのほうが大きい

──もう1つの表題曲「You & I」は柔軟剤のCMタイアップ曲です。メロディに抜け感がありますね。

最近スタジオ作業に慣れたっていうのもあるかもしれないけど、すごくリラックスして曲を作れるようになって。これまではヴァース、ブリッジ、サビとかパートを分けてメロディ候補を作ってたんですけど、「Drown」と「You & I」はヴァースからサビまで一連の流れで作っていきました。だから流れがすごくいい。

──これはどんなイメージで作ったんですか?

キスして、2人で弾けるようなイメージ。それほど高いキーの歌でもないし、ちょっと重心低めの曲だけど、あまり重くなりすぎずに走り出したくなるようなリズム感がほしいなと思って作りました。この曲は“&”がキーワードなんですよ。「フレア フレグランス &SPORTS」という商品名なので、“&”をキーワードにしたいと思って。

──柔軟剤からラブソングを生む発想がすごい(笑)。

でもいい香りって自然と恋を連想しませんか? 私もいい匂いをさせて、いい恋愛がしたい(笑)。

──(笑)。そんなさわやかなラブソングがある一方で、4曲目の「Imaginary Love」はちょっと怖い曲だなと感じました。

この曲を作ってた頃、夜眠れなかったんです。それですんなり眠れるワザを自分で編み出したんですけど、それが疑似恋愛を想像して、リラックスしたまま夢の中に入っていくっていう方法で。

──「inside your bones」っていうフレーズとかホラーファンタジーな感じですよね。

そう、私はあなたの血だから、体の中を巡って、なんでも知ってるみたいな……これはもはやラブソングにしちゃいけないかもしれない(笑)。なんか、私、こういう“クセ担当”みたいな曲を作品の最後に置きがちですね。

──3曲目の「Fine Line」はまた違って、自立した2人のラブソングです。

こういう軽やかな曲も必要なんですよ、バランスを取るために。夏フェスで「Rewrite」や「Diving Board」のような明るい曲を歌って、すごく楽しかったんです。私こんなに跳ねたりするんだ!みたいな発見もあって。これからライブもあるし、ツアーをしたりするかもしれないから、こういう曲を作るのにすごくいいタイミングだなと思って。

──本格的な曲作りを始めて1年経ちましたが、自分の中で変化はありますか?

あんまり変わらないかな。去年からプロデューサーのドック(Ryosuke "Dr.R" Sakai)やTomoLowさんとセッションでいっぱい作って、その流れのままやってきたので。

──タイアップも続きますね。

タイアップは、1つのキャンバスが提示されて、そこで絵にしていく楽しさがあります。うん、プレッシャーより楽しさのほうが大きいですね。最近ね、いいメロディが出てくるんです。セッション中にいろんなパターンが生まれるようになってきて、すごいんです、ふふふ(笑)。

──おお!

自分の波とか、「私はこの音からこの音に行くと感情が揺さぶられるんだな」とか、ちょっとずつコツをつかんできました。

──逆に言うとこれまでは、そういうノウハウなしでやってきた?

全然なかったです(笑)。最近は自分でも普段から聴きたくなるようなデモの曲がいっぱい増えて、それがすごくよくて。実際にやってることはあまり変わってないんですけど、手応えが増えてきたという感じがしています。

milet

ライブ情報

milet「milet first live "eye"」
  • 2019年11月7日(木)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2019年11月11日(月)東京都 LIQUIDROOM