milet|敬愛する原恵一とコラボ 夢が叶った旅立ちの新作

デビュー作にしてドラマタイアップ曲を3曲収録した「inside you EP」が話題となったシンガーソングライターのmilet。鮮烈なデビューから2カ月を経て、早くもメジャー2枚目の作品「Wanderland EP」が完成した。

今作では「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」や「河童のクゥと夏休み」などで知られるアニメーション監督・原恵一とのコラボレーションが実現。原監督の最新映画「バースデー・ワンダーランド」の主題歌「THE SHOW」と、同作のイメージソング兼挿入歌「Wonderland」を含む5曲が収録されている。音楽ナタリーではmiletにインタビューを実施し、新作制作の舞台裏を聞いた。

取材・文 / 廿楽玲子

こんなに早く夢が叶うの⁉

──今回は映画「バースデー・ワンダーランド」とのコラボレーションという大きなトピックがありますね。

そうですね、原(恵一)監督が新しい映画を制作されるという話はいちファンとしてけっこう前から知っていたんですけど、もちろんそれに関われるなんて想像もしていなくて。主題歌を、という話になったのは去年の秋頃でした。最初はメインテーマとなっている「THE SHOW」(オーストラリアのシンガーソングライター・レンカが2008年にリリースした楽曲)の日本語訳カバーだけを歌う予定だったんですけど、監督にお会いしたら「もう1曲お願いできませんか」と言われて。

──それはびっくりですよね。

「えっ!?」という感じです(笑)。私、アニメーション監督の中で一番好きなのが原監督で、大大大ファンだったんです。だから「こんなに早く夢が叶うの⁉」という驚きでいっぱいでした。「THE SHOW」の日本語歌詞は監督に原案をいただいて共作したんですけど、原監督はまだ全然キャリアのない私に対して、1人の対等なアーティストとして接してくださって。「これでお願いします」とかじゃなくて、「こんなのはどうでしょう?」と投げかけてくださる感じですごくうれしかったし、それに応えなきゃという気持ちがありました。

──曲を作り始めた時点で、ある程度の映像はできていたんですか?

いえ、まだ絵コンテの段階でした。この「バースデー・ワンダーランド」が原監督のファンタジーへの新たな挑戦であることが伝わってきたので、私も作品がよりよくなる成分を作り出せたらなと思って、今までにない興奮を覚えながら作りました。ワクワクしましたね。

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──歌詞はどんなふうに共作を?

初めに原監督の中で和訳のアイデアがあったので、そこに私の日本語訳を混ぜながら、私なりの原監督への気持ちも込めていきました。「主人公のアカネちゃんの目線に立って歌ってください」というお話だったので、原作と絵コンテからイメージを膨らませて。

──原作の「地下室からのふしぎな旅」では、アカネちゃんは小学校高学年くらいですね。

そうですね、私はアカネちゃんくらいの子ってまだ子供だと思ってたんですけど、そうでもないんですよね。結婚とか仕事とか、けっこう大人っぽい、現実的なことも考えているし、いろんなものを目で見て自分なりに理解する力もあるんだなって。

──恐らくそう遠くない未来に“現実”が待ち受けていることを知ってますよね。

そうなんです。そういうことを曲を作りながら自分でも発見しました。小学生の女の子というのは、私たちみたいな大人も共感できる部分をちゃんと持ってる。子供だからと変に意識しないで、1人の人と接する気持ちで言葉を選ぼうと思いました。

──この楽曲の主人公は、miletさんと重なるところもありますよね。

うん、あると思います。私は大人になった今でも非現実的なところがあって、夢を抱いたりしてるので。

──歌詞にある「好きな絵を描いて」とかは、絵を描くのが好きなmiletさん自身のことなのかなって。

あ、そこは原監督への気持ちです。好きな絵を描いて好きな色を塗ってる、監督のことを思って書きました。そんなラブレターも込みの曲なんです。

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絵コンテを見て浮かんだ「Wonderland」

──そしてもう1曲、原監督と映画のイメージソング兼挿入歌「Wonderland」を共作されていますね。

この曲は絵コンテを見ながら、「このシーンで使いたいんです」というお話をお聞きして。それが原作でもクライマックスのシーンだったんですよ。「えっ、私に任せてもらっていいのかな?」という気持ちもありました。

──プレッシャーですよね。曲のアイデアはすぐに浮かびました?

それが一瞬で、打ち合わせ中に浮かびました。

──ええっ⁉

絵コンテを見ていたら自然と頭の中にメロディが渦巻いて。最初に監督からオーケストラの音や子供のコーラスを入れたいという希望もお聞きしていたので、その時点でオーケストラのアレンジも浮かびました。まだ絵コンテの段階ではあったけど、原監督が映像で描くイメージが自分の中にストンと入ってきて、同時に曲が流れてくるという、不思議な経験でした。

──私にはもうそれ自体がファンタジーに思えるんですけど(笑)。

不思議ですよね(笑)。さすがにそれは私にとっても初めての感じでした。でも今思うと、たぶんその音楽は絵コンテの中にもともと存在していたものだったような気がするんです。それを私の目が捉えて、音楽として出てきたというような。

──監督と共鳴したということでしょうね。

私が原監督の大ファンで、全作品を観て、インタビューも読み漁っていたので、監督の求めるものがなんとなく思い描けていたのかもしれないです。監督にとって「バースデー・ワンダーランド」は新しい挑戦だと思うんですけど、それと同時に根幹をなすメッセージは全作品に共通しているんです。実際お会いした監督はやっぱりすごく優しくて、でもストイックなところもあって。そんな監督が求める表現の“硬度”みたいなものがなんとなくわかるというか、強いけど優しいものを作ろうという思いが私も最初からありました。