ボカロ曲は国境を越える

──halyosyさんとminatoさんは曲の作り手として活動をしているわけですが、自分のボカロ曲がどんどん再生されてたり、いろんな人に歌ってもらうのってどういう感覚なんでしょうか？

minato　単純に歌ってもらうこと自体ものすごくうれしいんです。僕としては「どんどんやってください」っていうスタンスなので、特に「magnet」は、ものすごい数の方々に歌ってもらえて、スペイン語のカバーとかもあって（笑）。

halyosy　国境を越えるのうれしいですよね。

minato　ニコニコ動画は基本的に日本語が多いですけど、YouTubeだと英語でコメントがいっぱい付いて。韓国とか台湾の方から「聴きました」って書き込みがあるんですよ。

halyosy　僕、以前に「桜ノ雨」っていう卒業ソングを書いたことがあって、この曲が学校で実際に歌われたんですよ。そのとき「すごいことが起きてるかもしれない」って実感が湧いて。最初はそんな合唱されるとは思ってなかったんですけど、投稿したら「合唱したい！」って人とか、楽譜を作ってくれる人が出てきて。家の中でポツポツ作ってた曲が実際のリアルな世界で歌われてるんだっていうのを実感して、あのときは泣きました（笑）。

そらる　「桜ノ雨」買いましたよ。CDに譜面が入ってるんですよね。

halyosy　そうです。CDはそういう動きがあってから作ったんですけど、それだけ持ってればすぐに先生とか学生の皆さんが聴いて合唱しやすいかなと思って。

そらる　ピアノの伴奏が書かれてるだけじゃなくて、パート分けもしてあって。

halyosy　作っているときには想像もしてなかったことが起こるんですよね。そういうときに、やっぱり曲作っててよかったなあってしみじみ思います。

ニコ動は幸せな時間泥棒

──先ほど「曲は国境を越える」という話もありましたが、最近のニコニコ動画はプロの方が動画をアップしたり、逆にりぶさんやそらるさんのように歌い手がCDデビューを果たしたり、単なるアマチュアシーンの発表の場ではなくなってきたと思います。皆さんは“ニコ動カルチャー”の最近の動向についてどう思っているんでしょうか？

そらる　以前、20年くらい芸能界にいる方が「ニコニコ動画が音楽業界や音楽やる人間の最後の希望」だって言ってたのを聞いたことがあるんです。その人はニコ動で活動している人じゃないんですけど、CDなんて売れたところでたかだか知れてるし、そもそも売れないっていう状況で、事務所とか所属とか関係なく音楽がやれて、たくさんの人に聴いてもらえる場所ってニコ動くらいだって言っていて。そういうふうに見てる人もいるんだなって思ったんですよね。

りぶ　ニコニコ動画とかSoundCloudとかYouTubeって、本当に1人の力で音楽が発表できる場なんですよね。そういうシステムが生まれてきたのって、音楽の歴史で見るとごく最近のことで。今まではCDっていうパッケージで売り買いされていたものが、インターネットを通じて自由にやり取りされるようになってきて、ネットとリアルの垣根がなくなってきているんじゃないかなって個人的に思っています。

──minatoさんは現在、ニコニコ動画の外で活躍しているわけですが、ニコ動カルチャーをどう見ていますか？

minato　僕がニコ動で曲を発表していた5、6年前よりもいろんな意味で自由になっていて、いろんなことを選べるようになってるなって思います。例えばメジャーでやりたいだとか、インディーズでやりたいとか、とにかく広く曲を聴いてほしいとか。作る側が自分で向かいたい方向を決めてそのためのツールとしてネットを利用していて、すごくいいなって思ってるんです。

halyosy　僕は作曲家を目指して東京に出てきたんです。でも当時はネットもそこまで普及してなくて自分の曲をお披露目する機会って本当になかったんですよ。今は歌い手さんだったりボーカロイドの力を借りて自分の曲を聴いていただける機会を得てるので、こんなに幸せなことはないなって思っているんです。ただ、今ってどんどんクオリティが上がりまくってますよね。僕らが投稿し始めたときって静止画1枚で、PVなんてないし、歌詞もないみたいな（笑）。

──歌詞は視聴者がコメントで付けてくれるみたいな文化がありましたね。

りぶ　今はもう絵が動いてますからね（笑）。

halyosy　そうそう。もうこれ以上クオリティは上げられないかなって思う反面、まだ何かありそうっていう期待感もあって。今ニコ動とかで再生数が伸びてる人たちって、そういう新しいアイデアを見つけてきた人だと思うんですよ。

そらる　halyosyさんが言ったとおり、今ってメジャーの人がニコ動に動画をアップしたり、逆に“歌ってみた”の人がメジャーに行ったり、お互いに行き来するのが当たり前になりつつあって、動画のクオリティがすごく上がっているんですよ。“歌ってみた”の人に専属ミキサーがいたりしますからね。

halyosy　そうそう。

そらる　「ミックスしてもらえないと投稿できない」みたいに思っている人も多いんですけど、そんなことは全然ないんです。自分も「ミックスってなんだよ」みたいなところから始めてますし。作曲だって、初めて曲を作るのがボカロ曲って人たちがいっぱいいるんですよ。そういう人たちがたくさんいるからこそ盛り上がってきた場所だと思うから、自分たちで勝手にハードルを上げるのはもったいなくて。怖がらずになんでもやってほしいんです。

halyosy　最初自分がニコ動にハマったときって「メルト」を毎朝聴いたり、イラストを描く様子を早回しで再生する動画を観たり、とにかく時間を取られたんですよ。ニコ動のせいで睡眠時間とか削られて（笑）。それくらい面白いものがいっぱいあるんですよね。だからニコ動という場所は、これからも幸せな時間泥棒であってほしいなって。

りぶ　僕はhalyosyさんやトゥライさん、そらるさんたちに憧れて“歌ってみた”を始めた、いわば2世なんです。こういう流れをどんどん受け継いでほしいですね。ハマれる音楽があるのってすごい幸せなことだと思うんです。例えば3、4年経ったとしても、どこかでその曲を聴くと当時のことを鮮明に思い出せたりするじゃないですか。そういう意味で音楽ってタイムマシン的な役割も果たせるんだなと思っていて。だから未来の子供たちにもタイムマシンを持っていてほしいというか、音楽を通じて歌い手もリスナーもつながっていきたいですね。