必要なのはバンドサウンドとエレクトロの要素のバランス感(保本)
──サウンド的にもかなり大きく変化してますが、それも今の時代の新しいファンにアピールするため?
保本 そうです。
──以前の三上さんの音楽にはまず三上さんの歌詞と曲があって、それに合わせてサウンドを作っていったという印象があるんですが、今回は音像のイメージが先にあって、そこにインスピレーションを得て詩曲を作っていった、ということもあったのかなと思いました。
保本 それもありましたし、彼女が作り貯めていたものもありましたし、ケースバイケースですね。彼女がもともと作っていった曲に対して、ちょっとアレンジで趣向を変えて……。
三上 全然違うものになったり(笑)。
保本 バンドサウンドって昔から、ある種普遍的なものじゃないですか。でも電子音やシンセといったエレクトロの要素って「時代の音」ですよね。そのバランス感覚が大事だと思ったんです。どっちが強すぎてもダメだし、そのバランスをうまく取り込んだときに、三上ちさこを新しく変えられると思った。そこはどの曲に対しても、すごく意識しましたね。バラードだからピアノとアコースティックでやるんじゃなく、バラードだからリズムボックスを使うとかノイズを入れるとか。変化を付けたいと思ったんです。
三上 1人でやってると自分節みたいなのばっかりになっちゃうんです。私も新しい要素が欲しいと思ってたときに保本さんと出会って。会った次の日に私をイメージして曲を作ってくれたのが今作の1曲目の「1004」だったんです。それがもう、どストライクで。
──三上さんに最初にお会いになったイメージが、あのアッパーなエレクトロファンクだったわけですか。ちょっと意外です。
三上 あははは!(笑)
保本 ネタ明かしをすると、「ドラゴン・タトゥーの女」という映画の主題歌が、Nine Inch Nailsのトレント・レズナーとYeah Yeah Yeahsのカレン・OによるLed Zeppelinの「移民の歌」のカバーだったんですよ。
──ああ、ありましたねえ!
三上 そのMVが保本さんから送られてきて、観たら「おおーカッコいい!」ってなって。
保本 とにかくそれがカッコよくて、こういうのを三上さんと一緒にやりたいと思ったのが最初のきっかけですね。
三上 「1004」は最初は音しかなかったんですけど、音を聴いた瞬間に言葉とかイメージがぶわーっと浮かんできたんです。手が追い付かなくなるぐらい、世界観が浮かんできて。
保本 僕がプロデュースするときに意識していることは、「音を聴いて画が浮かぶかどうか」ということ。今って配信が主流になって、歌詞カードがない。昔は歌詞を読みながらじっくり聴けたけど、それがない。なので歌詞じゃなく音でイメージしてもらえればいいと思って、そこをすごく心がけるようになったんです。そこで入れる音も厳選していって。深い闇を歌っているんだったら、そのリズムは心臓の鼓動音にしたらもっと深く聴こえるんじゃないかとか、そういうことを意識するようになった。
三上 それを聞いて歌詞を書き直したり。
同じ境遇の人にとっての道筋になれたら(三上)
──単なるシンガーソングライターとアレンジャーという関係性ではなく、もっと深くお互いの作品世界に入り込んで作っていったと。
保本 うん、そうですね。そうしないとダメだと思ったんです。単に彼女の曲をアレンジしてサウンドプロデュースして出すのは簡単ですけど、それをやったら、アルバム出ました、レコ発ライブやりました、で終わるんです。ストーリーを描けない。もっと深く入り込んだところで作り込まないと、と思ったんです。
──逆に言ったら、そこまで深く関わると責任もめちゃくちゃ大きくなりますね。
保本 そうなんです。リスクもすごくある。僕はもう1人、新津由衣というアーティストのプロデュースもやってるんですけど、彼女と三上さんだけはどうしても自分が声かけてやりたいと思ったから、責任も取らなきゃいけない。なんとかしなきゃいけないと思ったから、自分でレーベルも作って、そこからリリースすることにしたんです。
三上 (保本が)声をかける人の選び方にも意味と目的があって。私もそうだし、新津由衣ちゃんも1回世に出たけど、ソロになってからは当時ほどの結果を残せていなかった。普通だったら、もっと若くて才能ある子に声をかけてやったほうがいいんじゃないかと思うんです。でも保本さんはそうじゃなくて、一度世に出てそのあと活動が停滞してる人をもう一度持ち上げてシーンに戻そうとしてくれる。だから私たちはきちんと結果を残すことである種の道筋みたいなものを作って、同じような境遇にいる人に勇気を持ってもらえたらと思うんです。
保本 僕、fra-foa時代の三上さんに憧れてたんですよ。だから「こんなに才能あるのに、なぜ今の音楽シーンにハマってないんだろう」って思ってて。メジャーでやるのに年齢なんて関係ないと本気で思ってるから、それを体現しなきゃいけない。言うだけじゃなく形にしなきゃ説得力がないと思ったから、本当に才能を感じて、自分が何かを引き出すことができれば現状を変えられるかもと思える人に声をかけたんです。
──あ、そうですか。
保本 うん。昔の自分はほんと、クソみたいな生活をしてたので、三上さんのように輝きを放っていた人には憧れがあって、そういう人たちとやってみたいという気持ちもあります。そのとき自分がいいと思ったものは今の時代でもまだ通じると信じているので、そういう意味では自分にとっても挑戦なんですよね。
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三上には段違いの何かがあった(保本)