ナタリー PowerPush - ミドリカワ書房
J-POP界の無頼派が茂木淳一と語る「みんなのうた」ヒストリー
ミドリカワ書房が約1年4カ月ぶりのニューアルバム「みんなのうた4"ever"」を、1月1日にリリースする。今回も性同一性障害、引きこもり、家族の死、夫婦喧嘩、単身赴任など、市井の人々の抱える問題を冷徹な目で見据えた楽曲が勢ぞろい。曲間に収録された盟友・茂木淳一によるシュールなドラマトラックも、楽曲の世界観を引き立てている。
2004年より続く「みんなのうた」シリーズの“最終章”と銘打たれた今作のリリースを前に、ナタリーではミドリカワと茂木による対談を企画。これまでの作品を振り返るとともに、彼らの関係やアーティストとしてのスタンスの変化について語ってもらった。
取材・文/伊藤雅代 撮影/中西求
出会いの記憶がほんっとにない
──ミドリカワさんと茂木さんが最初に出会ったきっかけは何だったんですか?
茂木 ミドリカワさんのデモテープをある人からもらったんですよ。それを聴いてみて、「こんな内容を歌っていいんですか?」ってショックを受けたのが最初でしたね。2002年か2003年だったと思います。
ミドリカワ あ、ちゃんと聴くんですねそういうの。僕もらってもあんまり聴かないですよ。
茂木 いや、そのころはテープもらうことがあんまりなかったから(笑)。で、そのテープが弾き語りだったから、この人はフォークの人なんだと思って「フォークって音楽はこんなに厳しいものなのか?」ってびっくりしましたね。
──そのときはテープを介しての接触だったんですね。実際に会われたのはいつごろでしたか?
ミドリカワ テープを聴いてもらったしばらく後で、場所は確かレコード会社でしたね。「この人が茂木さんだよ」って紹介してもらって。でも、僕は「アンティノスTV」(Sony Music Online Japanが運営していたネットTV。茂木が司会を務めていた)で茂木さんを見ていたんで、千葉レーダ(茂木のソロプロジェクト)としての茂木さんしか知らなかったから、普段着姿との落差に驚いた記憶があります。
──茂木さんはミドリカワさんの第一印象はいかがでしたか?
茂木 ……覚えてないなー。出会いの記憶がほんっとにないんですよ。
ミドリカワ 失礼ですね(笑)。
大人の意思で茂木さんのトラックを入れることに
──そんなうっすらとした初対面から、どうして1stアルバムに参加してもらうことになったんでしょうか?
茂木 あなたの意思じゃないでしょ?
ミドリカワ そうですよ、なんか組織の力で茂木さんのトラックを入れることになったらしく。そもそもレコーディングのときには茂木さんに会ってもいないんですよ。
茂木 大人にやらされたわりには、お互いうまいことマリアージュしましたよね(笑)。
──そうやって大人に仕組まれてコラボレーションしたのに、どうしてその後も続いたんでしょうかね?
茂木 私はやってて面白かったからですね。あとはミドリカワさんがどう思っていたかですけど。
ミドリカワ 私だってそりゃ面白かったですよ。お客様方も「茂木さんのナレーション面白いわねー」なんて言ってらしたし、「じゃあ続けてもらいましょう」っつって続けたんですよ。
茂木 でも冷静に「次作るときは茂木なしがいいな」って思ったこともあったんじゃない?
ミドリカワ ありましたね、それは(笑)。どうせファンの人たちも茂木さんのトラックは最初しか聴かないんですよ。iPodでも飛ばして私の歌しか聴かない。でもまあ「みんなのうた」って銘打っている以上、ささやかな「おまけ」っつうか。
茂木 それはプロデューサー的な目線なんですかね? だっていちアーティストとしては、間にノイズ入ってることになるじゃない。
──ノイズって(笑)。
茂木 「それでも成り立つんだからミドリカワってすげえな」って言わせたい、ていうのはあるわけでしょ。
ミドリカワ うーん……まあそうなのかな。最近はあんまりすげえって言われてる自信もないんですけど。
CD収録曲
- ~殿様食品『しっとり大名』TVCM
―「余はしっとりじゃ」篇― - 愛なるは
- ~にょきにょき本気!?
- ミドシンを聴きながら
- ~ギガビットパーセコンド
- 大丈夫
- ~北口の母
- 自信があるんです
- ~髑髏と蟷螂
- 妹の日記
- ~生クリーマー
- 泊まっていけよ
- ~どぶろくフィズ
- 夢が叶った男
- ~Takanori Makes 朝寝坊
- 喧嘩口論
- ~ドクターマウス氏による基調講演
- 馬鹿姉妹
- ~昼ドキ!五臓六腑 <阿実毛海岸>
- 転校生
- ~特急ヒデリ29号
- さらばグッバイ
※奇数トラックは茂木淳一による導入ドラマトラック
ミドリカワ書房(みどりかわしょぼう)
1978年生まれ、北海道出身。自ら「J-POP界の無頼派」を名乗る異色シンガーソングライター。2004年12月にインディーズレーベルよりアルバム「みんなのうた」を発表。翌2005年7月に「みんなのうた+α」でメジャー進出を果たす。思わず口ずさんでしまうメロディに清涼感あふれる歌声、それと相反する社会や人間の闇に切り込んだ詞世界が持ち味。歌詞のテーマは「死刑」「ひき逃げ」「離婚」「万引き」「DV」など多岐にわたり、すべてが物語調になっている。しばらくメジャーで活動していたが、2008年に所属レコード会社との契約が切れインディーズに拠点を移す。精力的にライブを行いつつ、2009年6月には主催フェス「ミドフェス 2009 ~ミドシンだらけの梅雨フェス~」を代官山UNITで開催。出演をオファーしたアーティストから断られたため、出演者6組をすべてひとりで演じるというそのユニークな内容が笑いを誘った。