Midnight Grand Orchestra「Starpeggio」で星街が提案した2つのキーワード、イノタクは“和”に挑戦

星街すいせいとTAKU INOUEの音楽プロジェクト・Midnight Grand Orchestraが2ndミニアルバム「Starpeggio」をリリースした。

2022年7月発売の1stミニアルバム「Overture」から今作までの間にも、TAKU INOUEはテレビアニメ「チェンソーマン」第7話のエンディングテーマとして人気を博したano「ちゅ、多様性。」のアレンジや、安斉かれん「人生は戦場だ」(2023年3月リリースのアルバム「僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。」収録曲)のプロデュースを担当した。一方で星街はフルアルバム「Specter」発表し、VTuberとしては初めて「THE FIRST TAKE」に出演するなど話題に。2023年、個々でも大活躍した2人に「Starpeggio」のこだわりポイントや、レコーディング時のエピソードを聞いた。

取材・文 / 杉山仁

焼肉屋で作戦会議

──2ndミニアルバム「Starpeggio」は「Overture」以来約1年半ぶりのミニアルバムですね(参照:Midnight Grand Orchestra「Overture」発売記念特集|星街すいせい×TAKU INOUE、先駆者が打ち鳴らす壮大な“序曲”)。

TAKU INOUE はい。確かにミニアルバムの発売自体はひさびさなんですけど、以前から「またライブをやろう」という話はしていたので、「ひさしぶりに集まった」という感覚はそれほどなくて、ずっと地続きな印象もありました。ちょうど、僕もギターで出演させてもらったすいせいさんの「THE FIRST TAKE」の収録が終わったあたりで、ライブをするためにも「そろそろ次の作品を作ろう」という話になったんですよ。

星街すいせい ホントにそんな感じでしたよね。またミニアルバムを作ることが決まっていたわけではないんですけど、「きっと作るんだろうな」という気持ちはお互いあったんじゃないかと思っていて。それで、「どんな作品にする?」と話すために焼肉に行ったんです。

──焼肉屋で作戦会議をしたんですね。

TAKU ミドグラの曲自体は僕に一任してもらっていますけど、「すいせいさん、今度はどんなのがよろしいでしょう?」と聞きたいな、と。それで話してみたところ、今回はすいせいさんから「和テイスト」と「コール&レスポンス」という2つのキーワードが出てきました。

──星街さんの中で何か考えがあったんですか?

星街 実はけっこう思いつきだったんです。「和風なものをやってきてないのでどうかな?」と(笑)。あと、「コール&レスポンスが好きなんですよね!」と言っていたら、その要素も入れてもらえました。

──コール&レスポンスはライブを意識していたからこそかもしれませんね。

TAKU そうですね。「ライブをやるならもっと盛り上がれる曲も欲しい」と思っていました。

「よし、練習してみるか!」「あれ、難しいぞ……!」

──ほかに「Overture」との違いとして、今回の作品では、以前のクラブミュージック的な要素よりもバンドサウンドが前面に出てきているようにも感じました。

TAKU それは僕の最近の好みでもあって。anoちゃんのライブでギターを弾く機会も増えているので、「ギター楽しいな」という気持ちが出てきていたのがあると思います。それで「Starpeggio」では生楽器もけっこう増やしていて。前回は基本的に打ち込みで、ところどころに生楽器を使う程度でしたけど、今回はビートを全部生ドラムにした曲もあります。

──最初はどの曲から作り始めたんでしょう?

TAKU 「Moonlightspeed」(2022年9月配信)は最初にあって(参照:ミドグラは挑戦の場、タイアップ曲「Moonlightspeed」の制作秘話を星街とイノタクが語る)、次に作ったのは「Midnight Mission」でした。実は僕、和風のサウンドを作るのが苦手なんですよ。でも「いい機会だな」と思って「和と言えばヨナ抜き音階だろう」と意識しながら作ってみたら、どちらかというと中華っぽい雰囲気の曲になっていって。「これはさすがに和テイストではないな」と思って、まずはこの曲に「アジア」という仮タイトルを付けて、すいせいさんに送りました。

星街 そうでした(笑)。最初、私は「これがイノタク流の和だ……!」と思って聴いたんですけど、別にそういうわけではなかったという。

TAKU 「和テイストにしたい!」という気持ちはあったんだけど、結果的には、中華風になりました(笑)。でも「これはこれでカッコいいからいいか!」と思ってます。あとは、この曲をすいせいさん歌えるのかな?と心配していましたね。

──「Midnight Mission」はかなり高いボーカルスキルが要求される曲ですね。

星街 言葉がぎゅうぎゅうに詰まっているので、実際に歌ってみるとすごく難しかったです。届いたものを「超カッコいい!!」と思って聴いて、「よし、練習してみるか!」と実際に歌い始めてみたら、「あれ、難しいぞ……!」と。

TAKU (笑)。「息吸うところがないぞ……?」ってね。最近は自分の中で「サビが早口なのってカッコいいじゃん!」と思っている部分もあるので、曲調として早口なものにしようということは最初から考えていました。

イノタクのマイブーム

──ボカロ文化などを経由して生まれた日本版のラップ的な表現と言いますか、“語り”と“歌”のちょうど中間のようなボーカルは近年すごく増えていますよね。

TAKU そうですね。まさにそういう歌になったらいいなと思って、サビを早口にしたり、あとは転調を意識したりしながら作っていきました。自分の場合、転調はこれまでの曲でほとんど取り入れてこなかったですし、特にサビで転調することなんて1、2回ぐらいしかやっていなくて。でも、今回は「新しいことをやってみよう」と挑戦してみたら存外楽しかったんです。結果、このアルバムの8曲中4曲はサビで転調しています。「Midnight Mission」ができてから、並行して作っていたミドグラじゃない曲でも、転調が増えていきました。

星街 イノタクさんの中でブームになっているんですね(笑)。

──星街さんは、「Midnight Mission」のボーカルで工夫したことはありますか?

星街 今はボーカロイドみたいに無機質な歌い方が流行っていると思うんですけど、この曲にもそういう機械的な歌い方が合うのかな、と思っていました。ただ、機械的な中にもニュアンスを出したいとは思っていたので、感情を出しすぎず、「秘密裏にコードそっとかわして」のところは静かに歌ったりしていきました。

TAKU 確かにそうなっていましたね。ミドグラの場合、ボーカルディレクションは基本的にしていなくて、歌い方はすいせいさんの裁量に任せています。なので、彼女が出してきてくれたものをそのまま生かして、整えていくという感覚で。もちろん、そういう方向性であることは抜きにしても何も言うことがない、めちゃくちゃカッコいい歌にしてくれました。

Midnight Grand Orchestra「Starpeggio」イラスト

Midnight Grand Orchestra「Starpeggio」イラスト

星街 確か、「難航するかと思ったけど、スムーズに録れた」という話をしましたよね。

TAKU そうそう。「今日は(時間が)かかるぞ……!」と思ってスタジオに行ったら、いつもと同じぐらいの時間で終わった楽曲でした。