予定調和では絶対終わらない
──現時点でヒャダインさんが特に気になるキャラクターは?
今後活躍するんだろうなと思うのは、未認可地区でギアを作っているおっさんですね(笑)。あと僕は闇社会を舞台にしたマンガが好きなので、地下の賭けメガロボクスを取り仕切る男、藤巻の敵なのか味方なのかわからない感じがたまらない。
──悪人の描き方がわかりやすい悪ではなくて、ちょっとファジーですよね。少しいいところもあるけど、でも結局は悪い人、というところがリアルに描かれています。
そうそう。実際の人間はそうですよね。この人はいい人、この人は悪人とはっきり分かれているわけではなくて、全員ファジーですもん。そのファジーさが生々しくていい。このあときれいなストーリーを描くなら藤巻が途中で改心してジャンクドッグに対して「がんばれ! 応援するぞ!」というポジションになると思うんですけど、きっとそんな予定調和では絶対終わらないと思う。藤巻には最後までクズであってほしい(笑)。
──ははは(笑)。
ボクシングトレーナーの南部贋作もクズじゃないですか。借金にまみれて、その借金を返済するためにジャンクドッグに八百長をさせて。でもその南部からジャンクドッグは離れられないっていう、妙な共依存みたいな関係性も感じますね。あと女性キャラが少ないですよね。これ以上男ばっかり出てきたら、もっとダンディズムが濃縮されていくんだろうな。
「あしたのジョー」から引き継ぐものは
──作中には「立て、立つんだジョー!」と韻を踏んだような「立つな、立つんじゃねえ!」というフレーズや、「“明日のため”になんて俺らにはねえ!」といった、明らかにオリジナルの「あしたのジョー」を意識した台詞も出てきます。
でも南部のおっさんが「立つな、立つんじゃねえ」と言っちゃうところが、原作をそのまま引き継いでるわけじゃなくて、あくまでもオマージュですよね。このアニメが原作から引き継いでいるのは、ディテールじゃなくて“ダンディズム”という言葉だと思うんですよ。それも1960年代、70年代のダンディズムじゃなくて、2018年におけるダンディズムというものをちゃんとアップデートして受け継いでいる。勇利が住んでる部屋もカッコよくてダンディですよね。「SENSE」みたいな男性ファッション誌とコラボしてほしい(笑)。
──確かに汗臭い方向のダンディズムではないですよね。
そうなんですよ。汗臭さを排除してるのは、ギアの存在もあるのかな。メカ要素が加わることによって、一気にサイバー感が出て「汗、努力、涙」だけの世界観ではなくなる。ギアについては、話数が深まっていくにつれてもっと意味合いが出てくると思いますね。ギアと本人の関係性においてのメッセージもあるんだろうなと。ただいいギアを付けていればいいってものじゃないだろうし。これからどうなるんだろう……でも1、2話の雰囲気を見る限り「あしたのジョー」をオマージュしすぎないんだろうな。だから、原作と同じように主人公が灰になるとは限らないと思っています。
キャラクターのメンタルまですくい上げてる
──「メガロボクス」の音楽についても感想を聞かせてください。アニメの劇伴はmabanuaさんが手がけています。
音楽についてもホントに過不足ないですよね。アニメチームと音楽チームの連携がしっかり取れているんだろうなと思います。流れている音楽の温度はずっと低めなんですけど、温度が低い中で“暑い”“寒い”を表現している。どうやったらそんなことできるんだろう……ただシーンを盛り上げるだけなら簡単なことだと思うんですよ。ストリングスでジャジャーン!ってやればいいわけだから。でも、そういう安直な方向に頼っていない。
──確かにアニメチームとどういうふうに話をすり合わせて、こういった音楽ができあがったんだろうというところは気になりますよね。
そうなんですよ。音楽のジャンルも幅広いですし、曲単体としてめちゃくちゃカッコいい。
──第2話の未認可地区を描いたシーンでは、女性ラッパーのCOMA-CHIさんによるジャンクドッグの心境を代弁するかのようなラップ曲が使われています。
ヒップホップって、そもそも人々の反骨精神から生まれた音楽ですよね。そういったヒップホップの理念とアニメの作品性がバッチリ合ってる。「こいつを倒す」っていう。未認可地区のグラフィティの雰囲気ともすごく相性がいいと思います。グラフィティのディティールもまた素敵なんですよね。未認可地区のシーンで「ようこそ」っていう変な看板が描かれているのが、生活に困ってる人たちが変にダサいことをやっているみたいな……うまく説明できないけど、地方の廃れたショッピングモールが付け焼刃でやっている感じ(笑)。ただ汚く貧民街を描いてるんじゃなくて、そこに住む人々のメンタルまでもちゃんとすくい上げてるんですよね。
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“明日を選ぶのは自分自身”ということ
- テレビアニメ「メガロボクス」
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放送情報
- TBS:2018年4月5日(木)より毎週木曜25:28~
- BS-TBS:2018年4月14日(土)より毎週土曜25:00~
- ※BS-TBSの初回放送のみ第1話23:00~、第2話25:00~
- ※放送日時は予告なく変更になる場合あり。
ストーリー
今日も未認可地区の賭け試合のリングに立つメガロボクサー“ジャンクドッグ”。実力はありながらも八百長試合で稼ぐしか生きる術のない自分の“現在(いま)”に苛立っていた。
だが、孤高のチャンピオン・勇利と出会い、メガロボクサーとして、男として、自分の“現在”に挑んでいく──。
スタッフ
- 原案:「あしたのジョー」(原作:高森朝雄、ちばてつや / 講談社刊)
- 監督・コンセプトデザイン:森山洋
- シリーズ構成・脚本:真辺克彦、小嶋健作
- 音楽:mabanua
- キャラクターデザイン:清水洋
- アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
- 製作:メガロボクスプロジェクト
キャスト
- ジャンクドッグ:細谷佳正
- 南部贋作:斎藤志郎
- 勇利:安元洋貴
- 白都ゆき子:森なな子
- サチオ:村瀬迪与
- 藤巻:木下浩之
©高森朝雄・ちばてつや/講談社/メガロボクスプロジェクト
- 「メガロボクス」Blu-ray BOX 1
- 2018年7月27日(金)発売 / バンダイナムコアーツ
- 「メガロボクス」Blu-ray BOX 2
- 2018年9月26日(水)発売 / バンダイナムコアーツ
- 「メガロボクス」Blu-ray BOX 3
- 2018年11月22日(木)発売 / バンダイナムコアーツ
- ヒャダイン
- 1980年生まれの音楽クリエイター。本名は前山田健一。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身につける。京都大学卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。前山田健一として倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」などのヒット曲を手がける一方、ニコニコ動画などの動画投稿サイトに匿名の「ヒャダイン」名義で作品を発表し大きな話題を集めた。2010年5月には自身のブログにてヒャダイン=前山田健一であることを告白。その後もヒット曲を量産し、2011年4月にシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でヒャダインとしてメジャーデビューを果たし、2012年11月には初のソロアルバム「20112012」をリリース。以降も郷ひろみ、椎名林檎、SMAP、関ジャニ∞、Kis-My-Ft2、スフィア、超特急、たこやきレインボー、でんぱ組.incほか多彩なアーティストの作品を手がけているほか、テレビ朝日系「関ジャム 完全燃SHOW」などさまざまな番組に出演している。
2018年7月13日更新