眉村ちあきの新作EP「ラブソング史のはじめに」がリリースされた。
スタッフから言われた「20代にしてはラブソングが少ないですよね」という言葉をきっかけに、ラブソングをテーマにこのEPを制作したという眉村。今作のために彼女は、トオミヨウとの初タッグとなった「朗読」、眉村ちあきの音楽隊の一員である兼松衆を迎えた「季節風」、そして自身が作詞、作曲、編曲した「濾過」を制作した。
眉村はラブソングとどのように向き合ったのか? 「このEPで勝負をかける!」と宣言するほどの意欲作となった「ラブソング史のはじめに」の制作過程について、眉村本人に話を聞いた。
取材・文 / 森朋之撮影 / 梁瀬玉実
アメリカの実力社会に「アゲ!」
──まずは3月に行われた「SXSW 2024」(アメリカ・テキサス州オースティンで開催された音楽、映画、インタラクティブをテーマにした複合イベント)のことから。ライブの手応えはどうでした?
めっちゃバイブスが合って、最高でした! 歌えば歌うほど人が集まってきてくれて、会場がパンパンになって。ライブが終わったあとも「めっちゃよかった!」「すごい!」って褒められまくったんですよ。さらに自信が付いたというか、「このままやりたいようにやっていいんだな」と思いましたね。あと、友達もいっぱいできました。ミュージシャンだけじゃなくて、受付の人とか、自転車のキャブの人とか(笑)。
──(笑)。「SXSW」のような海外のイベントはパフォーマンスだけではなくて、世界各国から集まるミュージシャンや業界の人とどれだけつながれるかも大事ですからね。
そうなんですよね。「SXSW」に20年以上参加しているYellowさんという日本人アーティストの方と知り合って、いろいろ教えてもらったんですよ。「初日からどんどん行かないとダメ!」って言われて、私も“Say Hello”しまくって。目が合ったらチャンスだと思って、ハイタッチして、「ライブ来てね!」と言いまくりました。そのマインドで6泊8日を過ごしたから、めっちゃ疲れましたね(笑)。おかげでもともと1本だけだったライブを4本もやりました。リハもないし準備もできないから、今まで自分が積み重ねてきた土台で勝負するしかなくて。「めっちゃ実力社会だな! アゲ!」って気持ちでした。そもそもぶっつけな感じは好きなんですよ。日本でも音響設備がないところでやったり、いきなりブチッて音が止まったりしてたから(笑)、アメリカでも「ばっちこい!」って感じでしたね。
──「SXSW」を体験して、眉村さんの中で変化はありました?
「ここでやったら怒られるかな」みたいなことは考えないで、「迷ったらやろう!」と思うようになりました。何をやっても怒る人は怒るし、文句言う人もいるだろうけど、絶対に負けないようにしようと。もともとそういうタイプなんですけど、私は間違ってないことがはっきりしたというか。アメリカに行って「まだまだ気持ちが弱いな」と思ったし、もっとパワーアップしないと。3月から「劇団オギャリズム」(「CHIAKI MAYUMURA 2nd Tour 劇団オギャリズム」の振替公演)というツアーをやってるんですけど、常に「私は大スター」「自信満々よ」という気持ちでやってて。それはパフォーマンスにも絶対に出ると思うし、まったく遠慮がなくなりました。「SXSW」は本当に行ってよかったです。新曲のミュージックビデオを向こうで撮ったんですけど、めっちゃ美しい映像になってるので完成したらぜひ観てほしいですね。
女の子に憧れられたい
──では、新作EP「ラブソング史のはじめに」について聞かせてください。恋をテーマにしたEPですが、ラブソングに焦点を当てたのはどうしてなんですか?
aikoさんのアルバムを聴いていたときに、「あれ? さっきの曲にも“髪”って歌詞が入ってたな」と思って。「同じ言葉に違う意味を込めることができるんだな」と気付いたときに、1つの軸を決めて、それをいろんな角度から表現した作品を作るのって楽しそうだなと思ったんです。「どんなテーマがいいかな?」と考えていたときに、スタッフの方に「眉村さん、20代にしてはラブソングが少ないですよね」と言われて、「確かに」と思って。年齢を重ねると恋愛観も変わってくるだろうし、今のうちにラブソングを書いておくのもいいなと思ったんです。
──眉村さん、確かにラブソングは少なめですよね。
そうなんですよ。最近、ライブにJKや女子大生の子がめっちゃ来てくれるようになって。女の子に憧れられるお姉さんになりたいという気持ちもあるし、そのためにもラブソングを作りたいなと。女の子たちに聴かれやすいですからね、やっぱり。
──ラブソングを聴くことは以前から好きだったんですか?
好きです。自分で書こうと思ってからはちょっと意識が変わって、ラブソングをさらにじっくり聴いて、深読みするようになりました。パーソナリティをやっている「Roomie Roomie!」(TOKYO FM)でも、私にオススメしたいラブソングを紹介するコーナーを作ってもらったんですよ。そこでもいろいろ勉強でしたし、それがこのEPにつながったところもありますね。1曲1曲、まったく違うベクトルの曲になったので。
──EPに収録されているのは「朗読」「季節風」「濾過」の3曲ですが、もっとたくさん作ったそうですね。
8曲くらい作りました。私がEPの意味を勘違いしてたんですけど(笑)、「8曲入れたらアルバムになっちゃいますよ」と言われて。なのでスタッフの皆さんにお願いして、3曲に絞ってもらったんです。私は主観でしか判断できないので、広報のプロにお任せしたほうがいいなって。「え、こっちの曲は選ばないの? 絶対バズるのに?」とか言ってましたけど(笑)。曲を作るのも楽しかったですね。どんどんどんどんできました。
──ラブソングを書くときは、まず歌詞の内容を決めるんですか?
概念が先というか、最初に「こういう気持ち、こういう系の曲にしよう」というフワッとしたイメージを思い描いてましたね。今までは無心に楽器を弾いて、いいフレーズが浮かんだらそこを広げたり、歌詞を書きながら「この言葉はカッコいいな」と思ったら曲にすることが多かったんですよ。今回は最終形をイメージしながら作ったんですけど、それがすごく面白かったです。「私、こういう作り方もできるんだな」と思ったし、そこはもっとアピっていきたい(笑)。ほかのアーティストに提供したり、タイアップのために書き下ろすこともやってきたりしたので、そのおかげかもしれないですね。
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