ナタリー PowerPush - Mayumi Morinaga
交通事故&借金生活からたまアリのステージへ躍進!波瀾万丈の歌姫が半生を告白
さいたまスーパーアリーナで1万7000人を前に鳥肌が立ちっぱなし
──そういう体験を経てヒョイっと歌える人になった割に、Morinagaさん名義でのリリースは2008年の2ndシングル「DRIFT OF THE WIND」を最後に、2011年の「Exp.」まで期間が空きますよね。
UTO 包み隠さずお話してしまうと、デビューシングルの売り上げが1000枚くらい。「Morinagaさんの地元の方々に殺されるんじゃないか」っていう数字だったので(笑)、次は失敗できなかったんですよ。で、ちょうどその頃、EXIT TUNESでリリースした「SPEED アニメトランスBEST」(アニトラ)っていう、独立UHF局の深夜アニメのテーマソングを中心にトランスバージョンでカバーするコンピが8万枚くらい売れたんですね。だったら、このパワーを今後のMorinagaさんの活動のステップとして生かせないだろうか、逆にMorinagaさんにこのシリーズのパワーになってもらえないだろうか、っていうことで、そのシリーズで歌ってもらうことにしたんですよね。
Morinaga ええ。それで、MAKIとPRIMっていう名義で歌わせてもらうことになったんですけど、アニトラが3カ月に1枚くらいリリースされていた上に、音楽の授業で習う曲や音楽会で合唱する曲をトランスミックスした「学校トランス」っていうコンピにも参加させてもらっていたので、とにかく曲を覚えるのが大変でした(笑)。
UTO 結局、全部で400曲くらい歌ってますよね。
Morinaga しかも、学校トランスは基本的に合唱曲だから、主旋律だけじゃなくて、副旋律も私が歌わなきゃいけなくて。当時は、詰め込みすぎで覚えられなくなっちゃうくらい、ホントに忙しかったんですよ。
UTO 当時、レコーディングエンジニアから言われましたもん。「Morinagaさん、録音するとき笑いながら泣いてるんだけど」って(笑)。
Morinaga そうだ! 「もう覚えられません!」って泣きました(笑)。曲を覚えなきゃいけないのもそうなんですけど、MAKI、PRIMとしてはものすごいペースでリリースしていたものの、彼女たちが私であることは秘密だったんで、親や地元の知り合いからは「あんた、まだCD出さないの?」って訊かれ続けていて。そのプレッシャーに耐えられなくなっちゃった部分もありましたから。
──なぜ正体をカミングアウトしなかったんですか?
UTO 例えば、深夜アニメや動画サイトを観ている人にとって「らき☆すた」はすごく有名な作品なんだけど、別に親が知っているわけではないじゃないですか。実はこれってテクノやトランスのシーンに似てるんですよ。アンダーグラウンドに巨大なシーンが広がっているんだけど、知る人ぞ知る音楽という状況が。そのマッチングの良さがアニトラのウケた理由のひとつだと思っていたので、いずれはMorinagaさんとMAKIをひも付けするつもりではいたんですけど、2007~08年の時点では、アニトラにメジャー感は持たせないほうがいいだろう、という判断があったんです。
Morinaga 私にとっても、いろんな方の楽曲を歌わせてもらうことで、いろんな歌い方や表現の仕方をマスターする経験を積ませてもらえた部分はあるので、パンクしそうになりながら400曲歌ったことは、マイナスではなかったですね。KONAMIさんの音ゲー「beatmania」で一番人気のクリエイターであるRyu☆さんに、その「beatmania」用の楽曲のボーカリストとして誘っていただけたのも縁ですし。
UTO そう思っていただけてるならホッとしました(笑)。Ryu☆くんとStarving Trancer(スタトラ)っていうトラックメーカーが作編曲した「朧」が、同じくKONAMIの音ゲー「pop'n music」で1位になったりと、アニトラで歌っていただいたことで新たな一歩を踏み出せたのは事実なんですよね。
Morinaga 「beatmania」での名義はmoimoiでしたけど、その後、Ryu☆さんやスタトラさんのソロアルバムや、お2人が組んだAnother Infinityっていうユニットに、Mayumi Morinagaとして参加させていただいたくようにもなって。また個人の名前で活動できるようになったきっかけでもあるんですよ。
──それはいつ頃ですか?
Morinaga だいたい2010~11年頃ですね。
UTO ちょうどその頃Morinagaさんが「いつになったら私の次のシングルは出るんですか!」とついにキレたんですよ(笑)。このままだと実家に帰られちゃいそうな勢いだったんで、そろそろ個人名義での活動を、って。
Morinaga 確かに不安でしたけど、キレてはいないですよ!
UTO そうでしたっけ? ただ、次の展開を考えろっていう指摘はごもっともな話ではあって。Morinagaさん自身には「歌スタ!!」の頃から揺るぎない実力がある上に、音ゲーの分野でも文句ナシの実績を作ったわけですから。ちょうどその頃、僕がボカロPの方々ともお仕事を始めていて、ボカロシーンを拡大したいという思いもあったので、Morinagaさんの世界と音ゲーの世界と、新興勢力であるボカロの世界を結びつけたら面白いだろうな、という戦略を立ててみたんです。
Morinaga そしてRyu☆さんやスタトラさん、Another Infinity、それから40mPさんや164さんといったボカロPと一緒に作ったシングル「Exp.」「EXTRA Whipping Cream」(ともに2011年)、「天ノ弱」(2012年)をMayumi Morinaga名義でリリースさせていただき、この5月には、さいたまスーパーアリーナで行われた「EXIT TUNES ACADEMY」っていうフェスで1万7000人の前で歌わせていただいた、と。
──大観衆を前に歌ってみた感想はいかがでした?
Morinaga ステージ袖にまで「モイモイー!」っていう歓声が聞こえてきていたので、歌い始める前から鳥肌が立ちっぱなしでしたね。
UTO 今となってはそう言うんですけど、Morinagaさんに限らずアーティスト全員、当日まで何度も僕に訊いてましたからね。「やっぱりお客さん、入ってないんですよね?」って。「大丈夫ですよ」って言うんだけど、全然信用してくれないし(笑)。それでなくともシンガーさんってストレスで声が出なくなることもあるので、逆に心配だったんですよ。
Morinaga だって、私のファンなんかいると思ってないじゃないですか!
UTO こっちはチケットの発券もやってて、1次先行の段階でアリーナ席がソールドアウトしていることも知った上でそう答えてるんだから、少しは信用してくださいよ!(笑)
1stソロアルバムのコンセプトは「Mayumi Morinagaの歴史」
──そしてこの6月にリリースされた1stソロアルバムですが、初回限定盤と通常盤では、収録曲こそ同じものの、タイトルが「Glitter」「神巫詞」とそれぞれ異なる上に、曲順も違いますよね。限定版の「Glitter」は1曲目が「Glitter」で、通常盤の「神巫詞」は1曲目が「神巫詞」になっています。
Morinaga どっちも、いわゆる「A面」にしたかったんですよ。元々「Glitter」はEXIT TUNESがコミケに出展したときに販売したイベント限定用CDだったんですけど、その日のうちに完売して。
UTO デビューシングルの「ONE MILLION MILES」が一般流通に乗せて「歌スタ!!」の力も借りて売り上げ1000枚なのに、「Glitter」は1000枚即日完売しちゃったんですよ。
Morinaga そうやってたくさんの方が手渡しで買っていってくださった思い出深い作品でもあるし、私自身大好きなアニメでもある「FAIRY TAIL」のエンディングテーマに選んでいただけていた楽曲でもあるので「これはA面だろう」って。もう1曲の「神巫詞」も、大好きなボカロPであり、ギタリストでもある164さんが「ぜひぜひ」って快く作ってくださった上に、「メディアミックスプロジェクトを立ち上げるから」って主題歌に推薦してくださった曲なんですよ。なので、ワガママを言って、ジャケットも「FAIRY TAIL」の真島ヒロ先生の描き下ろしと、左さんの描き下ろしの2パターン、曲順も2パターンにしてもらっちゃいました(笑)。
──その他の楽曲の選曲の基準は?
Morinaga 選曲のコンセプトは「Mayumi Morinagaの歴史」ですね。「Mermaid Girl」や「XANADU OF TWO」「Follow Tommorow」のような音ゲーものを中心に、デビュー曲を始めとしたシングル曲や、スタトラさんの「SW」みたいな、私が参加した他のアーティストさんの楽曲、それから「MONEY NO TRANCE」に収録されていたUTOさんの「NO CHALLENGE, NO SUCCESS」のカバーがありつつ、今の私の気持ちや歌い方をパッケージした書き下ろしの曲もあるっていう感じなんですよ。
──そうやってさまざまなクリエイターさんが参加しているからか、UTOさんやAnother Infinityによる正調トランスから、164さんによるギターロックまで、バラエティに富んだ18曲が出揃いましたよね。
Morinaga しかも、限定盤に付いてくるDVDには、アルバム収録曲以外のPVも入ってるという。アルバムだけでも18曲、DVDと合わせると全部で30曲くらい入っていることになるので、これだけでMayumi Morinagaの全てがわかる作品になったとは思っています。
──制作中、苦労はなかった?
Morinaga 全部が録り下ろしではないので「このアルバムを作っているときに」ではないんですけど、歌い方について悩んだ時期はありましたね。トランスみたいな4つ打ちの曲ってボーカルのリズムもキックにピッタリ合ってないと気持ち悪くなっちゃうんですけど、佐賀時代に歌っていたソウルやR&Bやバンドサウンドって、ちょっとモタってるくらいの後ノリのほうがカッコいいじゃないですか。だから、デビュー当初はキックに合わせて歌うっていうのが本当に難しくて。ちょっとでも感情を込めて歌うと、とたんにズレちゃうので。ところが、アニトラを経験したおかげで4つ打ちの歌い方をマスターしたら、今度は164さんの作る楽曲のようなギターロックっぽい歌い方が苦手になっちゃうし(笑)。Mayumi Morinagaの歴史でもあるアルバムなので「そんな紆余曲折があったんだなあ」なんて思いながら聴いていただいても面白いのかもしれませんね。さすがにレコーディングブースに入ってからは自信を持って歌ってますし、実際、カッコいい仕上がりになった自信もあるので、だからこそそんな歴史も感じてもらえるとうれしいです。
──最後に今後の目標ってありますか?
Morinaga 昔から人生の夢を日記に箇条書きにするようにしてるんですけど、大抵のことはUTOさんが叶えてくれちゃったんですよ。「歌手になりたい」とか「英語をマスターしたい」とか「海外で活動してみたい」とか。あと残ってるのは「お金持ちになりたい」くらい(笑)。
UTO つまり「おい、金が足りないぞ。どうにかしろ!」と?
Morinaga いやいやいや! ちゃんと食べていけるくらいはいただいてるんで大丈夫なんですけど、もうちょっと欲しいかなあ、って(笑)。
UTO 頑張ります!
ニューアルバム「Glitter / 神巫詞」」/ 2012年6月6日発売 EXIT TUNES
収録曲
- Glitter (Starving Trancer Remix) feat.Another Infinity
※初回限定盤では1曲目、通常盤では10曲目に収録 - dreamin' feat.Ryu☆
- STARS(Ryu☆Remix RRver.) feat.Another Infinity [REFLEC BEAT limelight]
- Follow Tomorrow (for future mix rearrange ver) / HHH×MM×ST [beatmaniaIIDX 19 Lincle]
- Mermaid girl (Extended RRver.) / Cream puff [beatmaniaⅡDX 18 Resort Anthem]
- XANADU OF TWO feat.T.Kakuta With Starving Trancer -BEYOND THE ETERNAL XANADU MIX-beatmania IIDX 18 Resort Anthem]
- 朧 / HHH×MM×ST [pop'n music 20 fantasia]
- 夢現 feat.Another Infinity [jubeat plus]
- 響音-kotone- feat.Another Infinity
- 神巫詞 feat.164
※初回限定盤では10曲目、通常盤では1曲目に収録 - Delta feat.40mP
- Love Material feat.Another Infinity
- SW feat.Starving Trancer
- Don't be afraid feat.Starving Trancer
- ずっとみつめていて feat.DJ UTO vs. Starving Trancer
- ONE MILLION MILES feat.DJ UTO
- NO CHALLENGE, NO SUCCESS(MK Remix)
- Caramel Sugar feat.Another Infinity
初回限定盤 DVD収録内容
- 「Glitter(Starving Trancer Remix) feat.Another Infinity」PV
- テレビアニメ「FAIRY TAIL」ノンテロップED映像
- 「神巫詞」フルアニメーションPV
- 「Don't be afraid feat.Starving Trancer」PV
- 「天ノ弱 feat.164」PV
- 「ビフォーアフター feat.164」PV
- 「Delta feat.40mP」PV
- 「MY BABE BEE feat.Ryu☆」PV
- 「シリョクケンサ feat.40mP」PV
- 「ニセモノトレジャー feat.糞田舎P」PV
- 「砂漠の蝶 feat.monaca:factory」PV
- 「ONE MILLION MILES feat.DJ UTO」PV
Mayumi Morinaga(まゆみもりなが)
佐賀県出身のダンスミュージック系シンガーソングライター。2006年に日本テレビ系オーディション番組「歌スタ!!」に出演したことをきっかけに、翌2007年にシングル「ONE MILLION MILES」でデビューした。2008年にはラジカセ1台を持って世界各国で路上ライブを敢行し、カバーコンピ「パギャル! トランス」にてマンガ家の浜田ブリトニーとコラボレートした「NIGHT OF FIRE / 森永真由美 feat. 浜田ブリトニー」を発表。Cream puffのmoimoi名義で音楽アーケードゲーム「beatmania IIDX」に楽曲を提供するほか、MAKI、PRIMなどさまざまな名義で精力的に活動している。2012年6月にはテレビ東京系アニメ「FAIRY TAIL」のエンディングテーマ「Glitter」などを収録した1stアルバム「Glitter / 神巫詞」をリリースした。