ナタリー PowerPush - May'n×kz(livetune)

相思相愛コラボの裏側+アルバム解説

May'nの2014年は、ニューシングル「今日に恋色」と通算4枚目のフルアルバム「NEW WORLD」の同時リリースでスタートを切った。「今日に恋色」は彼女がもともと大ファンだったというlivetuneとタッグを組んだナンバー。またアルバム「NEW WORLD」でもJazztronik、矢野博康といったクリエイターとの新たなコラボレーションが実現した。

来年のデビュー10周年に向けて勢いよく駆け出したMay'n。今回の特集は、kz(livetune)とのシングル「今日に恋色」にまつわる初対談と、アルバム「NEW WORLD」とデビュー10周年に向けての思いを聞いたMay'n単独インタビューの2本立てでお送りする。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 笹森健一

May'n×kz(livetune)対談

満を持しての初コラボ

左からMay'n、kz(livetune)。

──昨年末のイベント(参照:May'n、2013年最後のステージでkzと新曲コラボ)ではお2人ともコラボを望んでいたとお話されていましたが、今回改めて「今日に恋色」でのコラボについて詳しく聞かせてもらえたらなと。そもそもどういうきっかけでお互いの音楽を知ったんですか?

May'n 私は初音ミクが好きなんですけど、最初は見た目から入ったんです。まずはフィギュアを集め始めました(笑)。もちろんそれから楽曲も聴き始めたのですが、livetuneさんは初音ミクの音楽を語る上で欠かせない存在ですから、もちろんそこにたどり着いて。

kz(livetune) 僕は「マクロスF」が大好きで、シェリル・ノーム(May'nが「マクロスF」劇中の歌声を担当したキャラクター)の歌でMay'nさんの存在を知りました。僕の音楽を知ってらっしゃるとは人づてに聞いてたんですけど、実際お会いしてお話するまでは冗談だろうと思っていて(笑)。

──kzさんはMay'nさんの歌声にどのような魅力を感じたんですか?

kz 2009年の「七夕ソニック」(2009年7月7日開催「YOKO KANNO SEATBELTS 超時空七夕ソニック」)で初めてMay'nさんの生歌を聴いたんですが、そのときの印象がすごくて。あのさいたまスーパーアリーナという空間で……僕はけっこう後ろの席だったんですけど、そこまで歌が突き抜けて一直線に向かってくるパワーを感じました。僕はどちらかというとパワーのあるボーカリストよりも、柔らかい印象の歌い手さんをプロデュースすることが多くて。だから僕がMay'nさんのように力強い歌声を持った人をプロデュースするとしたら、どういう音楽になるだろうなあってのは前からよく考えてましたね。

──では逆に、数ある初音ミク関連楽曲の中で、livetuneのどんなところがMay'nさんのアンテナに引っかかったんでしょうか。

May'n まずメロディがすごくキャッチーなことです。切なさを感じるメロディが私はすごく好きなんです。kzさんの作るメロディにはいつもキュンキュンさせられていて(笑)。楽曲に恋愛などのキーワードがなくても、どこかキュンとする、心をつかまれるメロディなんです。すごく綿密に作られた、こだわりのあるデジタルサウンドも大好きな部分です。じっくり聴いてみたらこんな音も入っていた!みたいな。私、シュワシュワした音が大好きなので。

kz シュワシュワ(笑)。シュワシュワさせてますね、確かに。

May'n シュワシュワと言えばlivetuneさんなので(笑)。自分の作品を制作する上で「この人と一緒にやってみたいです」という意思はいつもスタッフの皆さんにお伝えしていて、livetuneさんの名前もずいぶん前から挙げさせていただいていたんです。でもlivetuneさんはアーティストとしてしっかりと自分のカラーを持っている方だから、May'nの軸がちゃんとないと、それは私の曲ではなくなってしまうと思うんです。

──なるほど。「livetune adding May'n」ではなく、May'nの作品として出すからにはしっかりとした軸が必要だと。

May'n どんなに違うジャンルでも、自分が表現したいものはなんなのか、しっかりとした軸があればどんな方と一緒に作ってもちゃんとMay'nの作品になると思うんです。それを去年1年間の活動を通して改めて感じることができたし、それができるアーティストになっていきたいという思いが強く芽生えたので、だからこそ今livetuneさんとのコラボレーションに挑戦するのは意味のあることだと思いオファーさせていただきました。ちょうどオファーをしたのと同じタイミングでアニメ「いなり、こんこん、恋いろは。」のお話をいただいたんです。この作品は、今までのMay'nにはなかったハッピーな恋のお話なので、キラキラした青春サウンドを歌うのならばもうkzさんしかいない!って。運命的なタイミングでした。

Dメロは僕の中にある“May'n節”

──曲作りはどういう感じで進めていったんですか?

kz 僕はけっこう投げっぱなしだったかもしれない(笑)。今回はアニメのテーマソングだから、May'nさんと僕だけではなくアニメのための音楽だというところもあるので、そこのバランスは僕なりに考えつつも、かなり自由に作らせてもらった印象ですね。

左からMay'n、kz(livetune)。

──May'nさんとしては、アニメを意識しつつもあくまで「livetuneのサウンド」を求めていた?

May'n はい。最初の打ち合わせのときにも「livetuneさんのこの曲のこの部分を」「あのアーティストさんに提供されていたあの曲のブレイクが好きなんです」とか具体的に説明させていただきました。「だけど……livetuneさんのサウンドにさえなればなんでもいいです!」とお伝えしました(笑)。

kz そうそう(笑)。前置きだけはいっぱいあって、1時間ぐらいみっちり話し合った上で結論として「なんでもいいです!」っていう(笑)。

──でもlivetuneマニアが言う「なんでもいい」だから、ある意味ハードル高いですよね(笑)。

kz そうですね(笑)。でも僕の曲としては珍しく、あまりデジタルっぽくないサウンドに落ち着きました。アニメの舞台が京都で神様を題材にした作品だから、自然とアコースティックな方向に寄っていったんです。

──確かに第一印象は意外でした。なんとなくこの2人が組むんだったら力強いデジタルサウンドになると想像していたので。

kz アニメと合わさったときに違和感を感じるようだと、たとえいい曲だったとしてもアニメソングとしてマイナスだと思うんですよ。アニメの印象とMay'nさんの歌声を考えたら、自然とこういうサウンドになりました。

May'n 私もアニメのテーマソングのときは作品とのリンクが一番大切だと思っているので、できあがったデモを聴いたときはすごくうれしくなりました。原作のファンだったら必ずグッときてしまう歌詞や曲の世界観が表現されていて。自由に作っていただきつつ、唯一強く「これだけは!」とお願いしたのが、イントロのピアノです。

kz ああ、そうですね。

──作品全体を印象付ける重要な要素ですよね。では最初のデモ段階から一番大きく変わったところは?

May'n 大きく変わったところはないです。ほとんど最初の印象通りです。かなりスムーズなレコーディングでした。

──歌入れもスムーズに?

kz はい。歌入れではソフトに歌うことを意識してもらいました。May'nさんはパワフルな歌が多いから、ここでこういう一面もあるんだということを見せたいというのは、僕もスタッフの皆さんも共通の意見で。May'nさんのマイルドな持ち味が出せるように、というのをみんなで話し合いながら。

May'n こういう表情で歌う楽曲が私にもできたなんて、という驚きはありました。

kz 単に丸くてまろやかな歌声じゃなく、彼女ならではの芯を残した上でのマイルドな歌になったので、いいバランスの声がレコーディングできたなと思っています。もともと僕がMay'nさんのファンだというのもあるから、新しさを出しつつもMay'nさんらしさは絶対に残しておきたかったんです。メロディラインはいつもボーカルの方の声質をイメージして書くんですけど、この曲で言うとDメロは僕の中にある“May'n節”をかなり出したつもりです(笑)。

──なるほど、わかります(笑)。

kz 僕が想像するMay'nさんの楽曲の一番盛り上がる感じというか。節回しというか、楽器で言うと手クセみたいなものだと思うんですけど、彼女の曲ならこういうふうに歌われるんだろうなっていう、そこにギリギリ引っかかるようなメロディを考えました。あとは転調の感じだったり。そこが伝わるとファンとしてはうれしいですね。

ニューシングル「今日に恋色」/ 2014年1月29日発売 / FlyingDog
初回限定盤 [CD+DVD] / 1890円 / VTZL-74
通常盤 [CD] / 1365円 / VTCL-35170
CD収録曲
  1. 今日に恋色
  2. Soliste~ソリスト
  3. Dear YES><NO
初回限定盤DVD収録内容
  • 「今日に恋色」Music Video
ニューアルバム「NEW WORLD」/ 2014年1月29日発売 / FlyingDog
DVD付き限定盤 / [CD+DVD] / 3570円 / VTZL-75
ライブCD付き限定盤 / [CD2枚組] / 3360円 / VTZL-76
通常盤 [CD] / 3045円 / VTCL-60360
CD収録曲
  1. Lose My Illusions
  2. Chase the world
  3. Mr. Super Future Star
  4. わたしのしるし
  5. 決意の朝
  6. あの日の歌
  7. IN THE AIR
  8. Run Real Run
  9. アオゾラ
  10. ViViD
  11. MOONWALKER
  12. ROCK YOUR BEATS
DVD付き限定盤 DVD収録内容
  • 「Lose My Illusions」Music Video
  • 「Chase the world」Music Video
  • 「Mr.Super Future Star」Music Video
  • 「Run Real Run」Music Video
  • 「ViViD」Music Video
ライブCD付き限定盤 ライブCD収録内容
LIVE CD~from May’n Hall Tour 2013
「LIVE!CAVE!DIVE!」
  • DOLCE
  • My Lovely Thing
  • Giant Step
  • ナンバーワン!
  • Brain Diver
May'n(めいん)

May'n

1989年10月21日、愛知県名古屋市生まれ。幼い頃から歌手を目指し、中学生のときに「ホリプロタレントスカウトキャラバン」に合格しデビューのきっかけをつかむ。2008年1月1日に本名から「May'n」へと改名し、同年4月より放送されたアニメ「マクロスF」で作中に登場する歌姫シェリル・ノームの歌声を担当。「シェリル・ノーム starring May'n」名義によるシングル「ダイアモンド クレバス / 射手座☆午後九時 Don't be late」が大ヒットを記録した。2010年1月には初となる日本武道館単独コンサートを開催。同年3月には初のアジアツアーを大成功に収めた。2014年1月にはテレビアニメ「いなり、こんこん、恋いろは。」のオープニングテーマとして書き下ろされたニューシングル「今日に恋色」と通算4枚目のフルアルバム「NEW WORLD」を同時リリース。2月からは2015年のデビュー10周年に向け、日本全国47都道府県ツアーを含む世界規模のツアー「May’n Road to 10th Anniversary Japan & World Tour 2014-2015『dots and lines』」が行われる。

livetune(らいぶちゅーん)

音楽プロデューサーのkzによるユニット。2007年9月、ボーカロイド「初音ミク」を使用して制作したオリジナル楽曲「Packaged」を動画サイトに投稿し一躍注目を浴びる。2008年8月にアルバム「Re:package」でデビューしたのち、さまざまなアーティストの楽曲の作詞、作曲、リミックスなどを手がける人気クリエイターとして活動する。2011年12月に「Google Chrome “あなたのウェブを、はじめよう。”キャンペーン」のCMソングとしてlivetune名義の新曲「Tell Your World」を制作。YouTubeで公開されたCM映像は1週間で100万再生回数を超え、大きな話題を集める。2013年3月には初音ミクのボーカロイド楽曲のベストアルバム「Re:Dial」を発表し、同年6月にはFukase(SEKAI NO OWARI)をボーカリストに起用したシングル「Take Your Way」をリリース。2014年3月にはlivetune adding Yuuki Ozaki(from Galileo Galilei)名義によるニューシングル「FLAT」を発表する。