クリス・ハートは奥ゆかしくて、とっても誠実
──「土曜の夜はパラダイス」のミュージックビデオはワンカット撮影ですよね。何回ぐらい撮ったんですか?
3回だったかな。リハーサルは2回ぐらい。私自身は大したことはやってないんですけど、ワンカット撮影は段取り命なので、カメラマンもカメラを構えて後ろ向きで階段を降りたりして大変そうでした。特にダンサーが大変だったと思います。立ち位置とタイミングと振りを頭に入れて動かなきゃいけないから。
──「ロンリー・チャップリン」のミュージックビデオも拝見しましたが、デュエット相手のクリス・ハートさんがMay J.さんのほうをチラチラとしか見ないのが印象的でした。シャイな人なのかなと。
(笑)。シャイですよ。クリスって面白くて、意外に思うかもしれませんけど、あんまり表に出たがらないんです。ライブも「バンドの後ろで歌いたい」と言ってますね。奥ゆかしくて、とっても誠実な人です。
──あのデュエットはMay J.さんが引っ張っているように聞こえました。
この曲の主人公の女性が懐の広いイメージで、それを演じるみたいに歌ったからですかね。私の解釈だと「あなたは好きなように生きてなさい。わたしは待ってるから、いつでも帰ってきていいのよ」みたいな感じです。
カバーって大変ですよ
──曲の主人公を演じるように歌われるんですね。
カバーのときはけっこう演じてますね。自分じゃない歌い方をしないと、曲の雰囲気に合わなかったりするので、すっごく神経を使います。ビブラートひとつとっても、かけるかかけないかで歌い方が全然変わるんですよ。歌ってみて「ここ気持ち悪いな」と思ったら、その部分を直すという手順で調整していきました。
──当然とはいえ、ご苦労があるんですね。
カバーって大変ですよ。自分の得意なメロディばかりでもないし、音域も違うし。歌えない曲、向いてない曲もいっぱいあります。避けてるだけです(笑)。歌ってみて「ちょっと微妙だね」ってことでボツになったりとか。
──「埠頭を渡る風」が難しかったとのことですが、ほかに苦戦した楽曲は?
「RIDE ON TIME」はテンポをつかむのが難しかったです。シンコペーションが効いていて、「この曲どうなってんの?」みたいな。玄人好みのアレンジっていうんですかね。一度つかんじゃえば歌えるんですけど、つかむまでに時間がかかりました。(手で拍子をとりながら)「あおいー、すーいへいせんーを」……って歌いながら「これで合ってるのかな? あー、合ってた!」みたいな(笑)。決めも多いし、サックスソロのあとの歌が入るタイミングもすごく難しい。「どこ? どこ? あー、ここかーい!」っていう感じです(笑)。
──逆に歌いやすかった、素直に楽しめた曲はありますか?
いや、どれも難しかったですね。どの曲にもその時代の特徴が入ってるので、そこは変えたくない、崩したくないっていう気持ちもありましたし。
──崩して自分の歌い方に変えちゃう人もいますよね。
いらっしゃいますね。そういうのも「すごいな」と思いながら聴きますけど、私にはできないです。原曲の世界観を崩したくないって思っちゃうから。
ライブで興奮と感動を与えられたとき「死んでもいい」と思う
──12月には東京、神奈川、大阪のBillboard Liveを回るツアー「May J.azzy Christmas Billboard Live Tour 2022」が行われます。
ジャズバンドをバックに、このアルバムの曲はもちろん、クリスマスソング、ジャズソング、オリジナルといろいろ歌いたいなと思ってます。ベテランのおじさま方の演奏は、音の1つひとつに重みがあるんですよ。すごいです、本当に。来てくださる方も、音だけでも楽しめると思います。
──「コロナ禍は大変だった」とおっしゃっていましたが、ライブができないというのはどんな気分なんですか?
目標がない感じですね。筋トレとかって何か目標があるからがんばれるじゃないですか。それと一緒で、見せ場がないと思うと、歌のトレーニングをしなくなるんですよ(笑)。
──やっぱり本番をイメージしないと難しい?
そうですね。ひさびさにライブが決まってからは毎日お風呂で歌ってたんですけど、全開で歌ってるつもりでも、いざステージで歌うと「使う筋肉も神経も全然違うじゃん!」みたいな。お客さんが聴いてくれてるのと、聴いてないのとでは何から何まで違うので、「練習してたのに全然ダメじゃん」という感じでした。やっぱりライブってすごいと思いますね。日常生活で例えられるものがないかもしれない。本当に非現実的で、神聖な場所。
──歌っていて一番やりがいを感じるのは、やっぱりライブでお客さんが喜んでくれたときですか?
はい。それがすべてです。お客さんが「はあ……!」と圧倒されているときが一番うれしいですね。冷静に「ああ、よかった」じゃなくて「はあー、よかったあー!」と感じてくれたときは、もう本当に死んでもいいと思う。
──興奮と感動を同時に与えられたときですね。
逆に手応えがないとモヤモヤして、「今日はダメだったー」って思います。
──観客の反応ってステージからよくわかるものですか?
表情まで見えなくても、なんとなくわかりますよ。あと、スタッフさんの顔を見たらわかる(笑)。自分がすっごくいい歌を歌えたと思ったときは、スタッフさんの顔も違うんですよ。一番身近でいつも聴いてくれてる人たちが「今日はヤバかった」って言うときは、本当によかったんだなって。それが基準でもあります。
──そんなライブができないコロナ禍で、前作となる2021年リリースのオリジナルアルバム「Silver Lining」が生まれ(参照:May J.が「求められている姿」から脱却、新アルバム「Silver Lining」で伝えたかったこと)、YouTubeチャンネルが始まり、このカバーアルバムが完成したということですね。
うん、全部つながってますね。コロナ禍がなかったら、YouTubeもやってないと思います。「そんな時間ない」と言って。
──ちなみに、僕は「Silver Lining」がすごく好きで、今後はオリジナルの路線で行くのかなと思っていたら、新作がカバーだったので軽く驚きました。
(笑)。それがMay J.です。
──パラレルでやっていかれるんですね。
歌うことが好きなんですよ、やっぱり。私の中でそこに境目はなくて、ミュージカルもやるし、ジャズもやるし、オーケストラもやるし、J-POPもやるし。それはたぶん今後も変わらないですね。
ライブ情報
May J.azzy Christmas Billboard Live Tour 2022
2022年12月1日(木)東京都 Billboard Live TOKYO
[1st]OPEN 17:00 / START 18:00
[2nd]OPEN 20:00 / START 21:00
2022年12月6日(火)神奈川県 Billboard Live YOKOHMA
[1st]OPEN 17:00 / START 18:00
[2nd]OPEN 20:00 / START 21:00
2022年12月20日(火)大阪府 Billboard Live OSAKA
[1st]OPEN 17:00 / START 18:00
[2nd]OPEN 20:00 / START 21:00
プロフィール
May J.(メイジェイ)
日本、イラン、トルコ、ロシア、スペイン、イギリスのバックグラウンドを持ち多彩な言語を操るマルチリンガルアーティスト。幼児期よりダンス、ピアノ、オペラを学び、作詞、作曲、ピアノの弾き語りもこなす。2006年7月にミニアルバム「ALL MY GIRLS」でメジャーデビュー。2014年には大ヒットを記録したディズニー映画「アナと雪の女王」の日本版主題歌「レット・イット・ゴー ~ありのままで~」を担当し、同年の「NHK紅白歌合戦」に出場した。2015年に自身初となる東京・日本武道館の単独公演を開催。2017年には東京・東京文化会館にて自身初のフルオーケストラコンサートを行った。2021年、篠田ミル(yahyel)を制作陣に迎えた4カ月連続リリース企画を経て、12月にオリジナルアルバム「Silver Lining」をリリース。2022年11月にYouTubeの企画「スナック橋本」から生まれたカバーアルバム「Bittersweet Song Covers」を発表した。同年12月には3都市のBillboard Liveを回るツアーを開催。さまざまなミュージカル作品にも出演している。
May J. (@MayJamileh) | Twitter