May J.「Bittersweet Song Covers」インタビュー|YouTube「スナック橋本」を飛び出し歌い継ぐ往年の名曲

May J.が3年7カ月ぶりとなるカバーアルバム「Bittersweet Song Covers」をリリースした。

本作はMay J.が昨年立ち上げたYouTube公式チャンネルにて展開している、彼女がスナックのママを演じカラオケを披露するコンテンツ「スナック橋本」から生まれたアルバム。新録の6曲と再収録の6曲(2013年発表「Heartful Song Covers」より「元気を出して」、2016年発表「Sweet Song Covers」より「RIDE ON TIME」「木綿のハンカチーフ」「初恋」「異邦人」「想い出がいっぱい」)で構成されており、ジャズあり、シティポップあり、AORありのバリエーション豊かなアレンジで名曲をMay J.流の解釈に昇華している。

本作のリリースに際し、音楽ナタリーではMay J.にインタビュー。それぞれの曲への思い、カバーという表現スタイルへの取り組み方、ライブへの情熱などを語ってもらった。

取材・文 / 高岡洋詞撮影 / 星野耕作取材協力 / Amazon Music Studio Tokyo

May J. ママはお酒の作り方も知らない

──カバーアルバム「Bittersweet Song Covers」のジャケットにはウイスキーグラスが写っています。やはりMay J.さんがYouTubeで実施されているコンテンツ「スナック橋本」が母体になっているアルバムだと考えていいんでしょうか。

May J.「Bittersweet Song Covers」CD盤ジャケット

May J.「Bittersweet Song Covers」CD盤ジャケット

はい。去年、コロナ禍でライブができなかったときにYouTubeをやろうという話になって、「スナックやったら?」とスタッフさんから提案していただいたんですよ。スナックには1回しか行ったことがないんですけど(笑)、やってみようと思って。スナックってやっぱり80年代の曲が似合うじゃないですか。それで過去にカバーした80年代の曲をカラオケで歌ってみたら、意外と反響がよかったんです。私のリスナーの方にちょうど刺さる選曲だったんでしょうね。

──いくつか動画を拝見しましたが、堂に入ったママっぷりでした。

行かないから本当にわかんなくて、「こんな感じなのかな?」と手探りでやってました(笑)。お酒の作り方も知らないし。お客さんの悩み相談に答える寸劇を入れてますけど、もう本当に恥ずかしくて、自分では見れないですね。

──「あなた、今いくつなの?」とか。

「48? まだまだよー!」とか、誰だよって(笑)。

──カラオケには行きます?

たまーに。それも練習のためとかが多いですね。YouTubeの動画は実際にスナックで撮ってるので、どうしても音響に限界があって、「いい環境でちゃんと聴きたい」ってコメントをけっこういただくんですよ。「やっぱり大人はそう思うよね」と。

──May J.が歌う往年の名曲を存分にいい環境で聴けるのがこのアルバム、ということですね。ファンは80年代リアルタイム世代の方が多いんですか?

それが、けっこう若い子たちにも好評だったんです。「この曲、すごくいいですね」とか言ってくれて。「そうか、若い子たちには新鮮なんだな。最近のシティポップの流行もきっと“エモい”からなんだろうな」と思って、「スナック橋本」発という形でシティポップをカバーしたら面白いんじゃないかということで、歌ってみました。私自身そんなに詳しくないので、ライターの栗本斉さんからアドバイスをいただきながら選曲していきました。

──確かに、シティポップブームで再び注目されている曲が多いですね。「RIDE ON TIME」「ロンリー・チャップリン」「土曜の夜はパラダイス」など。

「埠頭を渡る風」と「土曜の夜はパラダイス」は私、知らなかったんですよ。

──世代的にかなり上ですもんね。でも「埠頭を渡る風」をご存じじゃなかったのは、ちょっと意外でした。

父が好きでしたけどね。これは難しかったんですよ。やっぱりユーミンさんの声に合う曲で、自分の声が生きる音域じゃないし。私の歌声が一番スパークする音って、もう少し高いところなんです。この曲はサビも低いから「どうやって山場を作ろうか」みたいな感じで、探りながら歌いました。それでもキーは上げてるんですけどね。

May J.

「フライディ・チャイナタウン」の英語には違和感を持っちゃダメ

──キーを合わせるだけですんなり歌えるというものでもないんですね。ブログに「私がリアルにカラオケで歌っていた大大大好きな曲も遂にカバーさせていただくことに...🤎」と書いてありましたが……。

どれだと思いますか?(笑) わかるかなー。

──えーっと……「メロディー」?

あー、「メロディー」も大好きでした!

──違うんですね(笑)。

正解は「フライディ・チャイナタウン」です。私、岡村隆史さんの「オールナイトニッポン」のイベント(「岡村隆史のオールナイトニッポン歌謡祭 in 横浜アリーナ」)に毎年呼んでいただいてるんですけど、2016年に歌ったのがこの曲なんです。そのとき初めて聴いて「めっちゃ面白い曲だな!」と思って。カラオケに行くたびに歌っていて、ライブで歌ったこともありますが、レコーディングはしてなかったので、この機会にやろうと。

──「It's So Fly-Day Fly-Day CHINA TOWN」という歌詞は、英語が話せるMay J.さんが聴くと、どう思うんですか?

2016年のイベントでは「Friday」の発音で歌っちゃったんですよ。「Fly-Day」という英語はないので。あとから「あ、違った!」と気付いて、今回のアルバムではちゃんと「Fly-Day」って歌いました。和製英語だから、意味を作るとしたら「浮かれる日」ですかね。

──そこはあまり違和感を持たないんですね。

持っちゃダメ(笑)。マインドを変えます。

May J.

「メロディー」は、ほとんど裸

──「ウイスキーが、お好きでしょ」で始まるあたりもスナック感があります。

テーマがテーマなので、そこはマストで。これだけの名曲たちをつなげるのは大変でしたね。今回はアップテンポな楽曲が多めなんですよ。やっぱりハッピーに、楽しく聴いてもらいたいから。スローな「メロディー」と「初恋」はくっつけて最後のほうにしんみり聴いていただいて、あと「フライディ・チャイナタウン」で「私も異国人ね」と歌ってるから、そこから「異邦人」につなげようと。「埠頭を渡る風」はユーミンさんが逗子で毎年やってたコンサート「SURF & SNOW」で最後に歌っていらした曲なので、ユーミンさんファンの方に気付いていただけたらうれしいなと思って、最後にしました。曲順決めはかなり悩んで、時間がかかりましたね。

──日本っぽい湿り気のある「初恋」やカラッとしたムードの「土曜の夜はパラダイス」、異国情緒漂う「フライディ・チャイナタウン」など幅広い作品になりましたね。

確かに、そう思うとすごいですね(笑)。これだけいっぱいカバーさせていただいてると当たり前のように感じますけど、考えてみたらやっぱりオリジナルとは全然違うんだなって思いました。

──きっとアレンジの影響もあるんでしょうね。例えば「異邦人」はビッグバンドジャズみたいな雰囲気だったりして。

原曲はもうちょっと切なさのある、素朴な歌い方ですけど、このアレンジだと音の存在感がすごいから、負けないように歌わなきゃいけないっていうのはありました。歯切れのいい「異邦人」だったかも(笑)。

──「メロディー」はピアノと歌だけで、ほとんど……。

裸ですね(笑)。これはYouTubeの「歌ってみた」企画で去年歌った音源で、一発録りなんですよ。コロナ禍でまだライブがほとんどできない時期で、半年ぐらい歌ってなかったので、思うように声が出なくて。それで一気に緊張しちゃって、呼吸も浅くなるし焦ったんですが「伝えるぞ!」と思いを振り絞るように歌いました。

──僕が「メロディー」をMay J.さんが一番歌いたかった曲だと勘違いしたのは、ある種のスペシャルな雰囲気を感じたからだったのかもしれません。

あははは。録音当時は「こんな歌でいいのかな」と思ってたんですけど、今聴いてみると、その緊迫感が楽曲の世界観に合ってると感じます。

──May J.さんはいつでも楽勝で歌えるのだと思っていました。

コロナ禍は本当に大変でしたよ。皆さんそう言いますけど、本当に大変。初めての経験でしたね。