Matt Cabが語るプロデュース業の流儀と新プロジェクトに込めた思い、目指すはカルチャーの架け橋 (2/3)

例えばYOASOBIとダベイビー

──ファミリーマートの入店音をサンプリングしたMIYACHIとのコラボ曲「Famima Rap」(2021年1月リリース)は、PLAYSOUNDの一環として生まれたものなんですか?

最初はPLAYSOUNDの一環という意識ではなく、MIYACHIと純粋に曲作りをしようと思っていたんです。その前にMIYACHIが「アンパンマン REMIX」を作ってくれたので、彼とは同じ感覚でこういう遊びをやれるなと思っていて。MIYACHIとインタビューで一緒になったことがあったんですけど、その流れで「このあと、何か作らない?」と誘って、曲作りを始めたんです。そのときに、「近くにファミマがあるから、入店音をサンプリングしてみない?」というアイデアが出て。最初はそんな軽いノリでした。トヨタ自動車とSTARBASEが立ち上げた「Drive Your Teenage Dreams.」とのコラボ企画「HIACE SOUND STUDIO」で車のハイエースから出る音をサンプリングしてMIYACHIと曲を作ったことも、PLAYSOUNDでさまざまな企業とコラボするきっかけになりました。

──PLAYSOUNDと通常の楽曲制作では、曲を作るうえで意識の違いもありますか?

どっちもアートなんですけど、PLAYSOUNDはわかりやすさや、聴いている皆さんの共感を優先していますね。「この音はみんながいつもどういうシチュエーションで聴いているものか」と考えていて。「Famima Rap」も、「みんながわかる音」ということでコンビニの入店音を選んだんです。PLAYSOUNDは周囲にある音に僕のセンスを足していく感じで、通常の楽曲制作は、自分の中から出てくるものを大事にしています。

──世の中に無数にある音の楽しさ、その音を使った遊び方を提示したいというような意識があるのでしょうか。

“音の楽しさ”というよりは“考え方”かな。「こういう考え方があるんですよ」と提示したい。「自分に見えているこのテーブルは確かにテーブルなんだけど、テーブルだけではないよ」みたいな。「アングルを変えると新しい発見があるんだ」ということを、音を使って表現している感覚です。僕はカルチャーとカルチャーをつなげる架け橋になりたいんですよね。ヒップホップとポップスもそうだし、もっと大きく言えば国と国もそう。例えばYOASOBIとダベイビーをマッシュアップするのは(Matt Cabは2020年12月にYouTubeにてYOASOBI「夜に駆ける」と ダベイビー「ROCKSTAR」のマッシュアップを公開した)、本当はやっちゃいけないことかもしれないけど(笑)、1つの曲の中に2つのカルチャーが同時に存在するということに面白みを感じるんです。そういう考え方を世の中にもっといろいろ発信したいと思っています。

──異なるカルチャーをハイブリッドしていきたいと。

カルチャーとカルチャーもそうだし、時代もそう。この前Vaundyとジャスティン・ビーバーの曲をマッシュアップしたんですが、そこにThe Killersの「Mr. Brightside」という20年前くらいの曲を加えたんです。そうすると時代と時代をつなぐことにもなる。

Uber Eatsの音楽版

──YouTubeも積極的に活用していますが、マットさんにとってYouTubeはどんなメディアですか?

YouTubeは1人ひとり、自分の部屋から配信できるというのが強みだと思います。そのぶん自分のユニークな部分や自分のセンス、自分にしか作れないものを出していかないといけない。そうじゃなかったらYouTubeで発信する意味がないと思うんです。

──マットさんはYouTubeを使った活動を開始するのが早かったですよね。2010年のデビュー時からYouTubeにいろいろな動画を投稿していました。

でも、内容がシンガーのときのままだったので、現在進行形の活動とリンクしていなくて、ジレンマを感じていました。YouTube自体は素晴らしいメディアなので「もっと活かしたい!」と思って。それで2019年くらいから「何をすればいいかな?」と考えて、ほかの人のYouTubeをたくさんリサーチして、2020年から今の内容にしていったんです。

──ご自身のチャンネルにはさまざまな動画をアップしていますが、活用するうえで大事にしていることはなんですか?

YouTubeが、自分と世の中をつなぐ窓口になっていると思うんです。だからこそ、僕が出したい情報や作品が、ちゃんと自分のセンスにマッチしているものかどうかは大事だと思っていて。そこをキープしないと、自分のイメージもブレていくと思っています。

Matt Cab

Matt Cab

──最近は新たにUBER BEATSというプロジェクトも始められたそうで。こちらはどのようなプロジェクトなんですか?

Uber Eatsはレストランで料理したものを配達員がデリバリーして、それをお客さんが食べる。UBER BEATSは、そこから着想を得たプロジェクトなんです。僕が用意したサンプルネタとアカペラをいろんなプロデューサーたちに送って、そのプロデューサーたちに新たにビートを作ってもらうというシリーズ企画です。先日リリースしたBLOOM VASEとのコラボ曲「SCRAMBLE」のミュージックビデオも、UBER BEATSのコンセプトをもとに撮影していて、その曲でサンプリングした信号機の音などをプロデューサーたちに渡して、新たな曲を作ってもらおうと。それを皮切りに、今後YouTubeでシリーズ化していこうと思っています。

──プロデューサーをシェフとするなら、サンプリングネタはじゃがいもや人参みたいなことですね。その材料でカレーを作るのか、シチューを作るのか、という。

まさにそうです。いろんなプロデューサーが同じネタでビートを作る企画動画が海外で流行っていて、それをUBER BEATSのコンセプトとミックスして新しい企画を作ろうと考えたんです。

──サンプリングネタを料理するという点ではPLAYSOUNDと地続きになっている企画のようにも思えます。

僕はほかの人のサンプリング方法にも興味があって。「この人だとこういうファッションになるんだ」ということをもっと伝えたいと思ったんです。

──PLAYSOUNDは日常の音をサンプリングしてマットさんが洋服を着せる。UBER BEATSはマットさんの音に洋服を着せてもらうということですね。

そうです。UBER BEATSを見て、「こういう作り方なんだ」とインスパイアされて音楽を作る人が増えたらいいなと思っています。もっと誰もがサンプリングで音楽を作れるようになったら面白い。日本がちょっと遅れていると思うのは、「ちゃんとしたミュージシャンやプロデューサーじゃないと音楽を作れない」と考えている人が多いところ。決してそんなことはなくて、現代はテクノロジーが進化していて誰でも音楽を作れるようになっている。そういうことを伝えたいという思いもUBER BEATSにはあるんです。