Matt Cab×BLOOM VASE対談|世の中のすべての音を音楽に、コラボ曲「SCRAMBLE」完成 (2/2)

「僕が作ったトラックが響いてないのかな……?」

──では、ここからは今回のコラボ曲「SCRAMBLE」が生まれた経緯を教えてもらえますか?

Matt Cab まず、4人でのセッションを7月くらいに行いました。ちょうどBLOOM VASEが東京に来たタイミングで一緒にスタジオに入ったんですけど、そのときに僕が作ったデモトラックをいくつか聴いてもらって。その中で3人が気に入ってくれたのが、のちに「SCRAMBLE」になる曲でした。

JiROMAN 聴かせてもらった中で、サウンド的にも一番インパクトがあったんです。デモ段階から信号機の音が入っていて、そのアイデアも面白いなと。

Matt Cab 実はそのときがBLOOM VASEとの初顔合わせだったんだけど、スタジオでは3人とも緊張していたみたいで(笑)。リアクションが少なかったので、「僕が作ったトラックが全然響いてないのかな……?」と不安に思っていたんですよ。

ove すみません!(笑)

Matt Cab あははは。確かライブの翌日だったんですよね。ちょっと疲れていたようにも見えたし、二日酔いもあったのかな?(笑)

JiROMAN 緊張していたのと、僕とRURUは二日酔いもあり……(笑)。ライブの疲れもあって、頭が全然回んなかったんです。

Matt Cab (笑)。僕はアーティストたちとスタジオでフリースタイルを繰り返しながら曲を形にしていくことが多いので、その日も「ちょっと(フリースタイルを)やってみない?」と提案したら、「今日はちょっと……」と断られたんです。「ああ、やっぱりビートが気に入らなかったのかな」と思っていました。

一同 (笑)。

Matt CabとBLOOM VASE。

Matt CabとBLOOM VASE。

Matt Cab でも、次の日にJiROくんがスタジオでサビのメロディを歌ったら、もう完璧な仕上がりで。「これはヤバい!」と思いましたね。それで思ったのは、「やっぱりこの3人は音楽をちゃんとわかっているな」ということ。完璧なインスピレーションが降りてこないときに無理やり作業するよりは、次の日に改めてチャレンジしたほうがいい場合もあるし、そういう意味で初日に彼らがフリースタイルを断ってくれたのは、今となってはよかったとさえ思っています。そういう妥協しない姿勢は尊敬しますね。ちなみにあのJiROくんのサビはどうやって思いついたの?

JiROMAN まずトラックに信号機の音が使われていたので、そこから東京の街をイメージして。それで最初に出てきた「スクランブル」というワードをテーマに、自分の日常や街の雰囲気をシンプルな言葉で描写していきました。歌詞はわりとすぐできあがりましたね。「スクランブル」には渋谷のスクランブル交差点と、人の心情が「混じり合う」「かき回される」という意味を込めました。けっこう激しめのラップが似合うトラックだったので、あえて正反対の歌い方を試してみたらしっくりきました。メロディとリリックはほぼ同時にできて。最初のワンフレーズを歌ってみたらいい感じにハマったので、そこから発展させていきました。

Matt Cab 歌詞とメロディがちゃんとリンクしているところがJiROくんのいいところだと思う。この曲に限らず、BLOOM VASEの楽曲はどれもメロディとリリックが深いところでつながっている感じがしますね。

世界中の人が共感するテーマ

──「生憎のRainyも自分次第でいい日」というラインは、コロナ禍で沈みがちな人々へのメッセージとも取れますよね。

ove ここは僕が考えたんですけど、どうなんやろ……実はこの部分はレコーディングの10分前まで何も思い浮かばなくて(笑)。JiROがサビを歌ってくれた瞬間にいろいろ言葉が降りてきた感じなので、特にコロナ禍とかは意識せず、出てきた言葉をそのまま乗せただけなんですよね。でも、あとから読み返すと若干コロナ禍での気持ちのようなものも入っているのかなと僕も思いました。

ove

ove

Matt Cab oveくんのことで印象に残っているのは、レコーディングのときに「裸足になってもいいですか?」と言われたこと(笑)。すごくピースフルだけど、こだわるところは本当にこだわっていて、妥協しないアーティストだなと思いましたね。あとコロナ禍の話で言うと、冒頭のリリックに映画「魔女の宅急便」のキャラクターであるキキとジジが出てくるけど、キキが魔法を使えず飛べなくなってしまう状態は、コロナ禍で思うように行動できない僕らの状態と重なる部分があるなと。

ove その部分に関しては、リリックの方向性をどうしようか悩んでいたときに、マットさんがInstagramにあげていた「魔女の宅急便」のテーマ曲のリミックスを聴いて、そこからヒントを得ました。「音楽を届ける」というこの曲のテーマも、「宅急便」とかかっているなと思って。「みんなにこの曲が届くといいな」という思いを込めたつもりです。

Matt Cab 長く音楽活動をしていると、インスピレーションがまったく降りてこない日が続いたりすることもあるんですけど、そういう個人的な経験とも通じるものがあるなと思います。なので、oveくんのこのバースの部分が僕は大好きなんですよね。

ove うれしいです。

Matt Cab あと、RURUくんのバースに「自分なりのGoal まるであみだくじの様」とあるじゃないですか。僕、「あみだくじ」というものを知らなくて。こういう日本独特の文化を入れつつ世界中の人が共感するテーマを歌っているのがすごくいいなと思いました。このバースはスタジオで録り終わったときに、RURUくんが「もう少しチャレンジしたい」と言って、家に持ち帰って作り直したバージョンなんですよ。すごくよくなっていたからびっくりしました。

RURU ありがとうございます。そこは、JiROのフックにインスパイアされつつ、東京にいる間の実体験を混ぜながら作りましたね。

Matt Cab 地元(滋賀)と東京を行き来しながら活動するのは大変じゃない?

JiROMAN 自分たちはこのやり方が合っていると思いますね。東京に住むのはちょっと違うのかなと。

RURU 地元の方が落ち着くし、移動もあまり苦だと思ってないので。

RURU

RURU

1人でも多くの人に届いてほしい

──では最後にコラボ曲「SCRAMBLE」を作り終えた今の心境を聞かせてもらえますか?

JiROMAN マットさんにいろいろアドバイスというか、「こうしたらいいんじゃないか?」ということをおっしゃっていただき、イメージ通りの曲ができたなと思っています。

RURU 僕のリリックができあがってマットさんに送ったら、そこからさらにトラックをブラッシュアップさせてドラムンベースっぽい展開が生まれたんですけど、それが今まであまりチャレンジしていないアプローチですごくよかったですね。

Matt Cab 僕もRURUくんのバースとドラムンベースの部分、めちゃくちゃ相性がよくて気に入っています。

ove マットさんのトラックのメッセージ性みたいなものを、僕らなりに噛み砕いて歌詞に落とし込んだらめちゃくちゃいい曲に仕上がったので、シンプルにうれしいです。

Matt Cab 最初にデモトラックが完成したときに想像していた完成形を、遥かに超えたものになったと思っています。とにかく1人でも多くの人に届いてほしいし、この曲を聴いて元気になってもらいたい。みんなの感想が今から楽しみです。

プロフィール

Matt Cab(マット・キャブ)

サンフランシスコ出身、日本で活動する音楽プロデューサー兼アーティスト。2013年にYouTube Music Awardsで「世界のクリエイター50人」に日本から唯一選出され、アメリカ・ニューヨークで開催されたアワードに出演。またアリシア・キースが全世界で開催したリミックス・コンテストでグランプリを獲得しグラミー賞に招待されるなど、ワールドワイドな活躍を見せている。近年はBTS、安室奈美恵、AI、JP THE WAVY、Awich、BE:FIRSTといったアーティストへの楽曲提供を行っており、RADWIMPS「天気の子 Complete Version」の英訳など多岐にわたるプロデュースも手がけている。また自身のニュープロジェクト・PLAYSOUNDでは、街にあふれる音やアニメの効果音をサンプリングしてビートを新たに構築し、TikTokをはじめとしたSNSで話題に。NIKE、JAL、富士サファリ、全日本空手道連盟といった企業や団体とのコラボレーションを展開している。2021年1月にリリースされた、MIYACHIとのコラボシングル「Famima Rap」はSpotifyのバイラルチャートで1位を獲得した。

BLOOM VASE(ブルームベース)

滋賀県出身のRURU、ove、JiROMANからなる3MCアーティスト。もともと別のクルーで活動していた3人が2019年に結成した。2020年にリリースした音源作品「BLOOM iSLAND」の収録曲「CHILDAYS」がTikTokで火が着き、Spotifyの2020年国内バイラルチャートで4位にランクイン。「BLOOM SQUAD」の収録曲「Bluma to Lunch」は2021年TikTok上半期トレンドミュージック大賞を受賞した。なおoveはsloppy dimとしても活動している。