これまでにBTS、安室奈美恵、BE:FIRSTなどさまざまなアーティストのプロデュースや楽曲提供を行い、MIYACHIとのコラボシングル「Famima Rap」がSpotifyのバイラルチャートで1位を獲得するなど、唯一無二の音楽で注目を浴びるMatt Cab。そんな彼がTikTokを中心にストリーミング世代から絶大な支持を得ている3人組アーティスト・BLOOM VASEとタッグを組み、新曲「SCRAMBLE」を配信リリースした。信号機の音をサンプリングしたキャッチーなトラックに、思わず口ずさみたくなるようなポップでメロディアスなラップと、2組の持ち味が十二分に発揮されたこの楽曲は、コロナ禍で疲弊した私たちの心にそっと寄り添いながら、新たな日常へと踏み出す力をくれるポジティブなメッセージソングだ。
音楽ナタリーは2組の対談をセッティング。数々の名曲を生み出してきたMatt CabがBLOOM VASEの楽曲に惚れ込み、直接コンタクトを取ったことから始まったというこのコラボの全貌に迫った。
取材・文 / 黒田隆憲撮影 / NORBERTO RUBEN
ヒップホップのよさを一般の人に伝える力
──今回のコラボは、Matt Cabさんの発案だったそうですね。
Matt Cab そうです。BLOOM VASEの音楽を初めて聴いたときのことはよく覚えていますね。自宅のテラスで運動しながらSpotifyをブラウズしていたら、彼らの楽曲「CHILDAYS」が上がってきたんです。「このジャケット、面白いデザインだな」と思って聴いてみたところ、イントロが流れ出した瞬間に「なにこれ!」と。
──どのあたりに惹かれたのですか?
Matt Cab 音楽の中にある感情が明確なうえに、スケールを感じるというか。ここ最近のヒップホップは、トラップなどを取り込むことによって“ハード”で“ダーク”かつ“クール”なサウンドがトレンドになっていると思うんですけど、「CHILDAYS」を聴いたときに、それとはまったく違う印象を受けたことがとても新鮮だったんです。そこからBLOOM VASEのことがめちゃくちゃ気になって、すぐにTwitterでDMを送りました。確かJiRO(JiROMAN)くんに直接メッセージを送ったんじゃなかったかな。
JiROMAN(BLOOM VASE) はい、めちゃくちゃうれしかったです。その連絡が来る少し前に、ちょうどマットさんについて3人で話していたんですよ。
RURU(BLOOM VASE) YouTubeに上げているリミックスなどを聴いて、「この人ヤバいよな」って。
Matt Cab あははは!
JiROMAN 「いつか一緒にやれたらいいよね」なんて話していた矢先の連絡だったので、「マジか!」と思いました。
Matt Cab 光栄です。僕も「CHILDAYS」を聴いてびっくりして、すぐにBLOOM VASEのトップページに飛んで。リストに並んでいる曲を頭から1つひとつ聴いていったら全部よかったんですよ(笑)。ここ最近は「TikTokなどでバズっても1曲しか売れてない」という現象が起きがちですが、BLOOM VASEの楽曲はすべてよかったことに驚きました。メロディラインも世界観もいいし、メッセージもあって。トータルで見て多くの人の琴線に触れる音楽だなと思いましたね。
JiROMAN・RURU・ove(BLOOM VASE) ありがとうございます。
Matt Cab ここ最近、日本のヒップホップシーンもすごい勢いで成長していると思うし、どんどんメインストリームに浸透してきているけど、それでもまだアメリカと比べるとちょっと“出遅れている感”があって。でもBLOOM VASEの楽曲には、ヒップホップのよさを一般の人に伝える力があるなと。しかもヒップホップだけではなくさまざまなジャンルのエッセンスが入っているんですよ。「この音楽をもっと世に広めたい!」と純粋に思いましたね。
両者に共通する、バラバラなリスニングスタイル
──今Matt Cabさんもおっしゃったように、BLOOM VASEにはいろいろなジャンルからの影響を感じますが、実際どのような音楽を聴いて育ったのでしょうか。
JiROMAN 僕はヒップホップより日本のポップスやロックをずっと聴いていましたね。ジャンルにはこだわらず、「自分が好きになった音楽が好きなジャンル」くらいの気持ちでいました。姉がジャニーズグループのファンだったので、ジャニーズの曲もよく聴いていたし、母親が好きなマイケル・ジャクソンも大好きでした。ほんまバラバラですね(笑)。
RURU 僕もJiROと同じくいろんなジャンルを聴いてきたんですけど、JiROが聴いていないところではK-POPやボカロなども好きで。そのうち、気付いたらヒップホップにハマっていました。
ove 僕は外国人の友達から洋楽をめちゃくちゃ教えてもらって、それをずっと聴いていました。でも英語はよくわからないので(笑)、「たまには日本語詞の曲でも聴いてみよう」と思って邦楽をいろいろ聴いたときに、歌詞の持つ力を改めて強く感じてハマっていって。自分が作る曲も、できる限りわかりやすく伝わりやすいものにしようと、そのときに思いましたね。僕らは本当に三者三様というか、まったく違うリスニングスタイルを持っていると思います。
Matt Cab たぶん、そのバラバラな感じが自分とも似ているから、こんなにも彼らのことが気になるのでしょうね。僕自身はシンガーで活動していたときはR&Bを歌っていましたが、当時からR&B以外の曲もかなり幅広く聴いていたんです。例えば父は昔のロックやパンクをずっと聴いていたし、母はクラシックも大好きで。そんな環境だったので、ジャンルはまったく気にしていなかった。同じメロディでもちょっとアレンジしたら、ロックやヒップホップあるいはジャズになるんですよね。
世の中のすべての音を音楽に変えてしまう
──ちなみにBLOOM VASEの皆さんは、マットさんのどんなところに「ヤバさ」を感じたのでしょうか。
ove 今回の楽曲だったら信号機の音とか、世の中にあるどのような音でも音楽に変えてしまうところです。そこは僕らBLOOM VASEとしても見習いたいところですし、強いリスペクトを抱いていますね。
JiROMAN 「CHILDAYS」も、確かoveがトラックを聴いたときに「おもちゃっぽいね」というコメントをくれて、そこから「子供の頃のことをテーマにしよう」というアイデアが生まれたんですよ。
──確かに、そういう発想からは2組の共通点を感じますね。例えばマットさんがMIYACHIさんとコラボした楽曲「Famima Rap」では、ファミリーマートの入店音をフィーチャーし大きな話題となりました。こういうアイデアはどんなところから思い付くのでしょうか。
Matt Cab あの曲はいろんなタイミングが重なってできたんですけど、おそらくもっとも影響が大きかったのは息子が生まれたことですね。それによって自分の発想も子供のようになったというか。ファミマの入店音もそうですが、毎日の生活の中で何気なく聞いていた音に対し、息子がめちゃくちゃ新鮮な反応をしている様子に感動したんです。日常に埋もれていた面白さに、別の角度からの新たな発見が加わったんですよね。
──子供と一緒にいると、人生を生き直すような感覚になるというか。見慣れた風景も、それを初めて目にした子供の反応を見ることによって、そのよさを再発見することがありますよね。
Matt Cab まさにそんな感じでした。それをもとに、「心のリニューアル」をテーマにした曲を作ってシェアしようと思い、PLAYSOUNDという日常にあるさまざまな音をサンプリングして新たな楽曲を作り出すプロジェクトをスタートさせました。
──サンフランシスコ出身のMatt Cabさんにとって、電車のアナウンスや商店街のBGM、テレビから流れる効果音など、日本で日々流れている音はどのように感じますか?
Matt Cab 特に東京はユニークな音であふれ返っていますよね。音のトイストアという感じ。個人的には楽しい環境だなと思います。コロナ期間中はとにかくなんでもサンプリングしまくって「これも曲になる!」と思ったらトラックに落とし込んでいました。ちょっとした筋トレみたいな感じで、トラックメイキング力を鍛えるいい機会だったと思います。
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「僕が作ったトラックが響いてないのかな……?」