自信ある楽曲を集めた「.A」
──「.A」「.B」「.C」という3作品を連続リリースするに当たって、それぞれどのようなコンセプトにしようと考えたんでしょうか?
松岡 まず3作品すべてにわたって、松岡侑李という人間をいろんな角度から見てもらいたいという総合的なコンセプトがありまして。先に3作品の色、赤と青と紫で出すというのは決めていたんです。1作品目は鮮烈な赤。松岡侑李のデビュー作として「これが松岡侑李です」と言い切れる、自信のある5曲を詰め込んだのが「.A」という作品ですね。「.B」のテーマは挑戦。初めて作詞をさせていただいた「まだ見ぬ僕らの世界へ君を連れ出してみようか」や、初めてダンサーさんと一緒に踊るミュージックビデオを撮らせていただいた「Louder! Louder!」など、挑戦的な内容の曲が多いです。最後の作品「.C」はプログレス、進歩を表現したアルバムだと思います。短いスパンながらも「.A」「.B」を経て確実に成長した松岡侑李を感じてもらえるはずですし、楽曲的にも少し大人びた曲が多いのが「.C」ですね。
尾澤 今思えば「.A」のときのレコーディングの空気感と「.C」のときのレコーディングの空気感が全然違うんですよね。「.A」のときは緊張感が漂う現場でした。
松岡 松岡侑李として初めて歌うレコーディングだったので、自分もある程度緊張していたんだと思います。聴き返してみると初々しさもあるけれども、それはまた「.C」とは違ったパワフルさもあるんですよね。
──レコーディングの中で印象に残っているエピソードはありますか?
尾澤 「.A」の「Burn!」という曲には、けっこう長めのセリフが入っているんですけど、これを読んでもらったときは興奮しました。セリフの量が多くてそもそも尺が入るかも怪しかったのに、完璧に読んでもらったうえにそれが笑っちゃうくらいカッコよくて(笑)。俳優や声優としての活動の賜物だと思います。
松岡 お芝居のお仕事をさせていただいた経験が生きました(笑)。何か新しいことをしようとするとき、技術不足であきらめるのってすごくもったいないし、悔しいと思うんです。だから歌はもちろん、セリフを読む部分もけっこう練習しました。
尾澤 本当に努力家だよね。アーティストによってはあえてレコーディング前に歌い込まないようにする方もいるんですよ。でも松岡さんはしっかり練習を重ねて、仮歌からかなり進歩した状態でレコーディングに臨むんです。
松岡 家に機材があるので、レコーディング前日は自分の中で一度歌を完成させるのが恒例になっているんです。それをやらないと気が済まなくなっちゃうくらいで……。
尾澤 一度仕上げてきてもらってはいるんですけど、すごく柔軟性もあるんですよ。飲み込みが早いというか、理解力が高いというか。ディレクションで入るとちゃんと歌に反映されるので、いろんな歌い方を試せたと思います。
初の作詞曲を収録した「.B」
──「.B」の収録曲「まだ見ぬ僕らの世界へ君を連れ出してみようか」での初の作詞はいかがでしたか?
松岡 “産みの苦しみ”というのを初めて味わいました。
尾澤 ははは(笑)。
松岡 難しいだろうとは思っていたんですけど、ここまで時間がかかるものだとは思ってなくて。松岡侑李という名前は俳優、声優名義として使ってきたものなので、これまでは“演じること”に徹してきたんです。そんな松岡侑李が演じず、飾らないで作詞するとして、どんな言葉を並べればいいのかを悩みました。尾澤さんは歌詞を書くとき、何を考えてますか?
尾澤 私は曲先で詞を書くことが多いから、楽曲のイメージを自分の中に落とし込んで、それを手がかりに言葉を探していく感じですね。ただ例外もあって、「Mind Bounce」は曲のイメージと歌詞がほぼ同時に湧いてきた感じかな。松岡さんは歌詞をどうやって書いたの?
松岡 自分はまず、頭の中で1枚の絵を完成させました。「どういう思いを伝えたいか」っていうのを頭に入れつつ。「まだ見ぬ僕らの世界へ君を連れ出してみようか」で言えば、ピーターパンのような空を飛べる少年が、女の子に手を差し伸べて「一緒にいこう」と空に旅立とうとしてるイメージ。背景に月が浮かんでいて、遠くには街並みも見えて……今回はイラストに落とし込んでから歌詞を考えるという方法にたどり着くまでに時間がかかってしまったので、次回からはもう少し早く書けるようになるかもしれませんね。
尾澤 歌詞の中で「ダイスキ」って言葉が使われているんですけど、この言葉にすごく惹かれたんです。ピュアでストレートな言葉なんだけど、ちょっと照れ臭さも感じさせる、不思議な言葉の使い方だと思ったし、すごく感心しました。
松岡 作詞って思った以上に自分の中身を見られている気がするんですよね。もちろん歌やお芝居でも自分の内面をさらけ出している感覚はあるんですけど、それは部分的なものであることが多くて。作詞は自分の性格や育ってきた環境、今思っていることすべてが包み隠さずに表れているような気がして、実は書き終えて少し気恥ずかしさもありました。
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ディレクションに悩まなかった「.C」