今初めて「バンドって楽しいんだな」って思ってる
──ここからはベストアルバム「THE BIBLE 1」の話を聞かせてください。まず選曲はどなたが?
基本、僕が歌いたい曲を選んで、参加メンバーに意見を聞いたって感じですけど、ほとんど異論はなかったですね。
──「月かなしブルー」の収録曲が多いですよね。
たぶん「月かなしブルー」で僕のやりたいことは全部終わってるんですよね。「月かなしブルー」が僕の一番のピークですよ、たぶん。僕が二十代に残せたものってあの1枚だけです。
──どういうことですか?
音楽をやってて、僕にとっても誰かにとっても何かしらの影響を与えられたものって、僕の中ではあの1枚だけだと思うんですよね。そのあとはずっと、「どれだけ自分を表現し続けられるか」ということを追求してた感じ。で、「深まる日々に、微笑みを。」(2010年1月発売のGENERAL HEAD MOUNTAINの4thアルバム)を作ったくらいで「このバンドで作るものはもうないや」と思って、そのあと解散した。
──でもそのあとJELLYFiSH FLOWER'Sをまた始めて。それも「自分を表現し続けられるか?」の続きだった?
そうですね。GENERAL HEAD MOUNTAINでは作るものはもうないなと思ったけど、違う形での表現を求めた。
──だからJELLYFiSH FLOWER'Sを始めるときに「音楽人生最後のバンドになる」と宣言したんですか?
今だから言いますけど、ぶっちゃけ、当時そんなことは思ってなかったです。
──え、どういうことですか?
ただのリップサービスです。復活感あるじゃないですか。あとはメンバーの意識を高めようと思って言っただけです。
──ということは、もしかしたらあのあとも別のバンドを組んでいたかもしれない?
そうですね(笑)。
──でも実際に今回はソロ名義になったので、嘘から出た誠と言うか……(笑)。
今、僕とSABOTENのキヨシさん(G)、ircleの仲道良くん(G)、EGG BRAINの内田雅人(Dr)の4人でライブをやってるんですけど、今が今までで一番バンドっぽいんですよね。GENERAL HEAD MOUNTAINは僕が8割くらいやってて、JELLYFiSH FLOWER'Sは僕とナカハラコウタ(G)が4割ずつくらいやってて。今はキヨシさんという先輩がいるからか、引っ張ってもらってる状態でライブができていて、いい意味で力を出してないって言うか。なんかみんなが平等に力を出してる感じがして、ソロ名義のくせに一番バンドっぽいんですよ。このメンバーで“松尾昭彦”っていうバンドにしてもいいんじゃないかとすら思ってます。すごくしっくりきてる。今初めて「バンドって楽しいんだな」って思ってるところです。
──これまでいろんなバンドをやってきたのに。
3人共付き合いが長くて、尊敬できる。これがバンドっていうものなんでしょうね、きっと。
日本一耳のいいircle仲道良をプロデューサーに
──今回リリースされたベストアルバムは仲道さん、内田さんと共にレコーディングしています。仲道さんはプロデュースも担当されていますが、仲道さんにプロデュースを依頼したのはなぜですか?
僕、病気が完治していないので自分ではプロデュースができなくて。日本の中で、僕が一番耳がいいなと思う男が良くんなんです。付き合いも長いし。良くんと出会ったのは僕が19歳で、あいつが16、17歳くらいの頃。その頃から聴いてくれてるヤツの頭とか耳とか心には、僕の曲がどういう形で残ってるんだろう?と思っていたのでそれを確認したかったというのもあって、プロデュースをお願いしました。やっぱり僕が思ってた形と違うんです。
──具体的に言われて印象的だった言葉はありますか?
「ずっと思ってたんですけど、歌詞変えましょう」と言われました。「青」の「通り過ぎるその度に前髪が揺れた」のところ、「その」を抜いてくれと。最初は「歌詞いじる?」と思ったんですけど(笑)、実際に「その」を抜いてみると、そっちのほうがメロディがよくて。「やっぱりこの人、耳いいな」と思いましたね。
──そのほかに改めて再録してみて気付いたことはありますか?
「紅色」だけ、マジでまったく歯が立たなかったですね、昔の自分に。
──どういうことですか?
この歌を歌うべきじゃない男になってしまったんだろうなと。作ったときの自分にしか歌えない歌だったんだなと思いました。
──逆に言うとそれ以外は昔の自分に勝ってる?
はい、特に「ブレーメン」は圧勝ですね。
──確かに「ブレーメン」が一番、原曲との違いを感じました。ギターソロに仲道さんらしい荒々しさが出ていて、曲にすごく合っていますよね。
あのギターはヤバいですよね。ちょうどレコーディングしてた頃、僕が布袋(寅泰)さんの映像作品をよく観ていたので、良くんに「『BAD FEELING』入れられない?」って冗談半分で言ってみたらこんな感じに(笑)。
──なるほど。印象的なギターソロでした。
そう言えば、今回入ってる曲で唯一「ブレーメン」だけ、僕がベースじゃなかったときの曲だ。
──ああ、JELLYFiSH FLOWER'Sの後期は4人編成になって松尾さんがギターボーカルを務めていましたもんね。
そう、(岩城)弘明がいたから。だから今回、ベースとドラムを録り終えた段階で、もうすでにこの曲は全然印象が違って。そのうえで良くんにもガラッと変えてもらいました。
コントロールルームで歌録り
──今作は全体的に松尾さんのシャウトが強くなってる気がしました。
今回、録り方がめちゃくちゃだったんですよ。僕はヘッドフォンが嫌いなので、ヘッドフォンをせずにマイクを手に持って……いろいろ試行錯誤した結果、最終的にコントロールルームで歌ってました。
──普通はレコーディングブースでレコーディングしたものを、エンジニアさんがコントロールルームでチェックするんですよね。
そうですそうです。そういえば「月かなしブルー」のレコーディングのときもヘッドフォン使ってないんですよ。でも以降は、エンジニアさんが嫌がるから我慢してヘッドフォン付けてレコーディングしてたなあ。その臨場感がよかったのでいつかアナログ盤を出したいなって思ってます。
──それはベストアルバムのアナログ盤ですか?
いや、また別の作品で。三十代の「残さなきゃいけないもの」はそのアナログ盤になるんじゃないかと思ってます。初期衝動はそこで使い切っちゃうような。また詳細決まったらお知らせします。
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「さよなら」を浄化して「さよなら」へ
- 松尾昭彦「THE BIBLE 1」
- 2017年11月22日発売
Wisteria Music Entertainment -
[CD]
2300円 / DDCZ-2175
- 収録曲
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- エンター
- 青
- 紅色
- 緑
- 群青
- 散歩道
- 本当のこと
- ブレーメン
- 午前四時
- 鳥籠
- 深まる日々に、微笑みを。
- 喜びの歌
- 町
公演情報
- 松尾昭彦「THE BIBLE 1」レコ発~東京編~
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2017年12月15日(金)東京都 TSUTAYA O-WEST
出演者
松尾昭彦 / あいくれ(オープニングアクト)
- 松尾昭彦「THE BIBLE 1」レコ発~福岡編~
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2018年1月6日(土)福岡県 Queblick
- 松尾昭彦(マツオアキヒコ)
- 宮崎県出身のシンガーソングライター。2000年から2011年にかけけGENERAL HEAD MOUNTAINのフロントマンとして活躍したのち、2013年からJELLYFiSH FLOWER'Sのフロントマンとして音楽活動を再開するも、2016年6月に自身のメニエール病発症のためにバンドの活動を休止する。2017年よりサポートメンバーと共にライブ活動を再開。11月にソロ名義のベストアルバム「THE BIBLE 1」をリリースした。