ナタリー PowerPush - MUSIC AGAINST THE FUTURE!!
気鋭レーベルが仕掛ける“未来に逆らう”プロジェクト
FACTを擁するレーベル、maximum 10が中心となり、それに賛同した複数のロックレーベルが興味深いプロジェクトをスタートさせようとしている。その名前は「MUSIC AGAINST THE FUTURE!!」。攻撃的な名称が付けられたこのプロジェクトで、彼らは一体何を行おうとしているのか。ナタリーではプロジェクトの仕掛人であるmaximum 10に話を訊き、プロジェクトの概要に迫ってみた。
取材・文 / 荒金良介
「MATF」とはなんなのか
2010年8月19日、閉店3日前のHMV渋谷店にフラッと立ち寄ると、ものすごい人だかりだった。その奥にFACTのメンバーが見えたものの、あまりの人の多さにその場をすぐ去ってしまった。あとで、それがFACTらが所属するレーベル「maximum 10」が仕掛けた、「MUSIC AGEINST THE FUTURE!!(以下MATF)」の第1弾アクションだったことを知る。
まず「MATF!!」とはなんなのか。直訳すれば“音楽は未来に逆らう”という意味だ。レーベル「maximum 10」担当者の言葉を引用しながら、その内容に迫りたい。
音楽の商売をこのまま手放しにしておくと、あまり良い方向に進んでいく気がしなかった。何かアクションを起こして、“未来を変えてやろう”ぐらいの気持ちで臨むべきじゃないのか、というのが根本にありました。それは業界人、要するに売り手が勝手に考えたってダメ。アーティスト(演奏者)もリスナー(買い手)も一緒に、ぶつかりながら考えていくしかないと思ったんです。そういう意味で、いろいろな人が刺激的に感じるネーミングにしたかったんですよ。
無音パッケージと新しい音楽配信サイト
では、「MATF!!」では何を仕掛けていくのか。先程少し触れた、著者が昨年8月に見かけたFACTのメンバーは、HMV渋谷店にて“無音パッケージ”(ジャケットや歌詞、レーベル印刷済みのCD-Rも入っているが、肝心の音は入っていない)を2000枚配布していた。それは、HMV渋谷店の閉店のタイミングと共に、あなたはこれからどこで音をゲットするのか?とリスナーに鋭く問いかけるメッセージとなった。あれから約1年3カ月を経て繰り出される第2弾アクションは、新しい音楽配信サイト「MATF.jp」の立ち上げである。
MATF.jpでは、日本のCDは高い、ジャケットや歌詞はいらないから安く配信で手に入れたい、やっぱりCDで買いたいなど、リスナーのさまざまなニーズに応えるために、制作から販売まで少ないステップで完結させる配信システムを構築し、音源だけ欲しい人には配信購入を促し、ジャケットや歌詞などが欲しい人は第1弾アクションで提示された無音パッケージの商品盤(音源を焼けるCD-R)を店頭やeコマースサイトで購入する形を目指す。要は、リスナーが音楽を聴く形態を選択できるシステムなのだ。
また、この「MATF!!」で掲げた理念を幅広く知ってもらうため、第3弾アクションも画策しているようだが、「これはまだ、秘密でお願いします。すいません」(maximum 10)ということなので、楽しみに待ちたい。音楽業界に限らず、我々を取り巻く社会や環境はどんどん様変わりしていく。そんな中、流れゆく変化の先頭に立つ「MATF!!」の姿勢には強く共感を覚える。
本当に音楽を仕事として欲している人間が音楽を芸術として欲している人間と一緒に、今後のことを真剣に考えていこうってアクションしないと、音楽なんかどうでもいいビジネスマンに食いつぶされてしまうように思うんです。だから、今できる手っ取り早い行動は、まずお互いの立場を取っ払って、音楽好きみんなで“考えること”だと思う。まだ何をしていけるかは模索中です。全貌は、この先みんなで一緒に考えることでどんどん変わる。僕らですら、「MATF!!」の全貌はわからない。それは僕らだけが作るものではないですからね。
MUSIC AGAINST THE FUTURE!!
ロックバンドを擁する複数のレーベルによる新しいプロジェクトで、音楽を聴く形態の選択肢を複数提示し、ユーザーに“楽しむ自由”を提供するもの。リスナーは好みに応じて、配信サイト「MATF.jp」から音源をダウンロードしてそのままMP3プレイヤーなどで聴いたり、無音パッケージと呼ばれる商品を購入して音源を焼きパッケージを作成したりできる。本格的な始動は2012年初頭を予定。
maximum 10(まきしまむてん)
先鋭的なロックアーティストが所属するインディレーベル。現在は日本人アーティストの音源を中心にリリースしており、FACT、POP DISASTER、sfprなどが所属アーティストとして名を連ねる。2012年、複数のレーベルとともに「MUSIC AGAINST THE FUTURE!!」プロジェクトをスタートさせる。