作品に深みを与えた“クソ人間”のギターリフ
──今回アルバムに掲げられたタイトルは「Human Dignity」。直訳すれば“人間の尊厳”ということになります。ずいぶん重い言葉ですが、これはアルバム全体のテーマということになるんでしょうか?
苑 ええ。ただ全曲がすべてそういう内容というわけではなく、アルバム全体を通してのイメージは1曲目の「Human Dignity」に集約されているんです。
──各曲の随所に死生観を匂わせる表現があったり、「何を思い死んでいったの?」とか「生きたいように生きられない」とか、生き方について思い悩んだりしているような言葉も目に止まります。苑さん自身が何か思い悩む時期にあったんでしょうか?
苑 いや、そういうことではないし、僕自身がそれについて書きたかったというわけでもないんです。今回はこういうことを書きたいからこういう曲が欲しい、というのでもなかった。ただ、「Human Dignity」のイントロをJaYが持ってきたときに、そういうことについて書きたくなった。メタルのリフなのに、激しくてカッコいいだけじゃなく、深みがあって、センスを感じるリフだったんです。それに触発されるようにして、人間の深い部分も歌詞で書きたくなった。だから“人間の尊厳”というテーマは、あのギターリフから生まれた気がします。
JaY この曲を持っていったときに「アルバムの1曲目で使いたい」と言いました。こういうバンドの場合、オープニングSEでアルバムが始まることが多いと思うんです。だけどこのアルバムは、CDを入れて再生してすぐにバッとギターのリフで始まるものにしたかった。そこでリスナーの予想をいい意味で裏切れるだろうとも思って。“人間の尊厳”的な歌詞はたぶん……僕みたいなクソ人間が生み出したギターリフに深みを感じてもらえたからこそ生まれてきたってことなんじゃないかと。
──クソ人間って(笑)。でも確かに、序曲がありそうなのにいきなりエッジィなリフで攻め込んでくるオープニングというのは、「もしかして、逆にそこにこそ何か意味があるのか?」と勘繰りたくもなるし、それもまた深みになっているということなのかもしれません。
苑 この曲で始まるならSEはいらない。このバンドの今の勢いみたいなものも、ギターリフからいきなり始まったほうが自然に出せるんじゃないかと思って。
彩雨 この表題曲もわりとコンパクトですけど、カオスなところはちゃんとカオスで、壮大なところもちゃんとあって、サビはすごくキャッチーで摩天楼オペラらしい。1曲目にもちょうどいいし、表題曲にもふさわしい曲だなと思いましたね。
燿 ギターリフから膨らませていった曲なんです。そこにどういうメロディが乗るかが鍵だと思ってたんで、「とにかくパンチのある歌メロがほしい」ということを言ったら、すぐさまこのいい感じのメロが来たんで「おっ、来た!」と(笑)。
響 演奏面ではけっこうみんな好き放題やってるイメージ。そういう部分もありつつ、このバンドらしい壮大さがアウトロあたりに出ていて、いいとこどりな感じの1曲ですね。
──この曲に続く「Dead by Daybreak」は、実に2分ちょっとという簡潔さ。
苑 えっ、そんなに短かったですか?(笑) でもこの曲にこれ以上足すものはないという感じでした。いつも通り、メロとコード進行を1コーラス分だけ用意して、みんなで「せーの、ドン!」と合わせた曲なんですけど、ここから構成を広げていくよりも、この勢いのまま終わりたかったんです。JaYが作ってくれたアウトロのギターリフから、もう一度Aメロに戻るより、混沌とした状態のまま終わっていく。それは僕たちがこれまでやってこなかったことでもあるんで、ぜひそうしたい、と。
JaY この2倍のサイズになるのがセオリーですよね。でもそれを裏切るというか。
彩雨 昔の自分たちだったら、ここで何か足さないと不安だったでしょうね。思い切ったアプローチができるのは今の僕らの余裕の表れだと思う。
現体制への布石となった「Invisible Chaos」
──3曲目は「Invisible Chaos」。シングルリリースされた曲ですけど、今振り返ってみると、どういう位置付けの曲になりますか?
苑 このアルバムへの途中段階というよりは、試行錯誤を繰り返す中で「この5人で作る」ということへの1つの指針になったと思います。アルバムを決定付けたのは明らかに表題曲の「Human Dignity」ですが、「Invisible Chaos」では、JaYがどういうギター、響がどういうドラムの演奏を重ねてくるかがわかった。そんな足がかりがあったからこそ「Human Dignity」で、当初からのメンバー3人と新加入の2人の混ぜ方が見えたというか。
JaY 僕はサポート経験が長かったんで、新たにバンドに混ざるというよりはスッと入っていけました。
響 僕の場合は「Invisible Chaos」が摩天楼オペラとしては最初の参加作品になりますが、メロスピよりもラウド寄りなので、昔から自分がやってきたことに近かったです。結果的に僕のドラムのカラーが一番出ているのはこの曲だと思います。しかも今回はアルバム用にドラムだけ再録していて、そこで改めて、サポートではなく正規メンバーとしてプレイし直しているんです。ツアーを経てきたうえでの今回の制作で、ライブで積んだ経験を反映させたかったから、ライブ感にはこだわりました。
──これは僕個人の印象ですけど、JaYさんの場合、ライブでサポートを務めるようになった当初から違和感がまるでなかったと思うんです。最初からスッとこの場に溶け込んでいたというか。
JaY 僕はそういう感覚ではなかったです。それまでしばらくバンド活動から離れていたので、ステージに立ってギターを持ってちゃんと人前で弾くこと自体が2、3年ぶりだったんですよ。だからそう言ってもらえるのはすごくありがたいですが、初ステージのときはドッキドキでした。「心臓、見えてるんちゃうか?」ってくらい(笑)。ただ音楽的なところでの溶け込みにくさみたいなものは全然なかった。けっこうみんな「もっとやっちゃってよ」みたいに、褒めて伸ばしてくれる感じなんで(笑)。僕、そうじゃないと伸びないんですよ。だからメンバーはすごくわかってくれてるんじゃないですかね。
苑 そう……なんですかね。まあ褒めてはいますけど、ちゃんと注意もしてますよ(笑)。そもそも叩かれて伸びる人ってあんまりいないんじゃないですか?
──そうかもしれません。JaYさんとしては、いい意味で調子に乗れるところがあるわけですね。続いて4曲目の「MONSTER」はシンセサウンドが基調になっていることからも察しがつくように、彩雨さんの作曲によるものです。
彩雨 普段やらないようなことをしたくて作りました。響くんの四つ打ち、裏打ちのハイハットとかテクニカルなところも生かしやすいとも思いましたし。あとなんとなく速い曲が多そうだというのもあって、若干の変化球みたいな楽曲もやりたいなという意識がありました。曲自体はシンプルですけど、構成面ではパーツも多くて変化球になってますね。
響 新しいなと思ったのが途中のブレイクダウン。あのフレーズはこれまでの摩天楼オペラにはあんまり出てきてなかったと思うんです。しかも大概ああいうパートは演奏だけになったり、えぐいシャウトが乗ってきたりするものだけど、ここでは苑さんの声が普通に響いている。そこはバンドとしても新しい部分だと思います。
──「RAINBOW」はキャッチーですよね。
燿 サビのメロをとにかくキャッチーにしたかった。同時に今までの摩天楼オペラっぽさもあり、ラウドっぽさ、今っぽさもあるものにしてみたかったんです。
──バンドが音を重ねていくさまがそのまま歌詞になっていますよね。今のバンドの状態を歌詞でも表現したい、という思いがあるんでしょうか?
苑 そう思われますよね? 実はできあがってみたらそういう感じになっていたんです。具体的には燿さんが曲を持ってきて、JaYがギターリフを決めたあたりで、このバンドの雰囲気が歌詞になっていったんです。どうにかして5人のことを歌詞に詰め込んでやるぜ、みたいなつもりでは書いてなくて、作曲していく段階でバンド感が出ていって。その結果、こうなりました。
1分20秒に見えたルーツ
──「Sacrifice」は3分未満。こちらも彩雨さんの曲ですが、こちらは変化球というよりは……。
彩雨 ストレートですよね。僕自身がもともとバンド活動を始めた頃に好きだった曲の雰囲気に近くて。そういうのをもう1度、摩天楼オペラでもやってみたいと思ったんです。だから新しいというよりも、自分の中で今一度ルーツを探ってみたような感じの曲ですね。
苑 彩雨っぽいな、という印象ですね。だからなじむ。考えるまでもなく彼が求めているものがわかるというか。だからその思いに応えやすくもありました。
──JaYさんの作曲による「箱の底のMUSIC」はわずか1分20秒ほどというコンパクトさ。このサイズでいいんですか?
JaY このサイズがいいんです。1分半で終わるつもりで作ったら、さらに10秒くらい短くなりましたけど(笑)。1公演で2回演奏できたらいいなって。あえてテンポを上げてみるとか。
苑 もともと短い曲を持ってくるという話は出ていたんですけど、「おお、カッコいいのを持ってきたね」という感じでした。実はこの曲には「EVE」というインディーズ時代、もう10年以上前に作った曲のイントロの要素がねじ込まれてるんです。そういう発想が出てきたこと自体、面白いと思いました。だから歌詞にも「EVEの時代みたいに」というのが出てくるんです。
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JaYのことだけを考えて書きました(苑)
- 摩天楼オペラ「Human Dignity」
- 2019年2月27日発売 / KING RECORDS
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初回限定盤 [CD+DVD]
4104円 / KICS-93780 -
通常盤 [CD]
3240円 / KICS-3780
- CD収録曲
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- Human Dignity
- Dead by Daybreak
- Invisible Chaos
- MONSTER
- RAINBOW
- Sacrifice
- 箱の底のMUSIC
- actor
- Cee
- 見知らぬ背中
- SNOW
- The WORLD
- 初回限定盤DVD収録内容
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- Human Dignity(ミュージックビデオ)
- Invisible Chaos(ミュージックビデオ)
- 摩天楼オペラ(マテンロウオペラ)
- 2007年に結成されたロックバンド。メンバーは苑(Vo)、JaY(G)、燿(B)、彩雨(Key)、響(Dr)の5人。2010年12月にミニアルバム「Abyss」でメジャーデビューを果たした。叙情的な歌詞とシンフォニックメタルからの影響が強いサウンドが特徴で、国内のみならず海外でもCDリリースやライブ活動を展開。2016年10月に行われたヴィジュアル系バンドの祭典「VISUAL JAPAN SUMMIT 2016 Powered by Rakuten」に出演するなど、ヴィジュアル系バンドとしての地位を築きつつ、自身主催のヘヴィメタルイベント「鋼鉄祭」でメタルファンからも支持を得た。2018年5月にJaY、2019年1月に響がそれぞれ加入。メジャーレーベルを離れた期間を経て、2月に新体制第1弾となるフルアルバム「Human Dignity」をKING RECORDSからリリースし、メジャーシーンに復帰した。