演奏での再現性は後回しにしてるので、普通は弾くものではない
──まらしぃさんが「拝啓ドッペルゲンガー」を初めて聴いたときの感想は?
まらしぃ 僕はただのファンなので、率直に「ひさしぶりのkemuさんだ!」と思ってうれしかったです(笑)。しかも曲のアプローチとか展開の引き出しが豊富になっていたので「おおっ!」ってなったんですけど、そうなると今度は弾いてみたくなって。ちょうど動画が投稿された時期のニコニコ生放送で「ドッペルゲンガーを弾いてください」というコメントが多かったので、その場でサビだけでも弾けるように音を取りながら練習したことがあったんですよ。でも、あまりに難しくてその放送中には弾けなくて、結局居残りで練習しました(笑)。
kemu 難しかった?
まらしぃ 難易度は歴代最高クラスですね。でも、ある程度弾けるようになってからの爽快感と楽しさも格別でした。正しい例えかわからないですけど、ゲームにすごく難しいコンテンツが追加されたのと感覚が似ていて、いかに攻略してやるかという感じで。
──kemuさんは演奏されることを前提にこの曲を作ったわけではないですものね。
kemu まったくですね。kemuとして曲を作る場合は演奏での再現性や実際に弾けるかは後回しで、できあがった音がよければなんでもいいので。物理的には弾けるんだろうけど、普通は弾くものではないですね。
まらしぃ あの曲は半音上か下だったら弾きやすいんだよね。
kemu そうそう。でも、ギターとベースのチューニングで考えると、あの音が一番よかったんだよ。そっちを優先した結果、キーボードは黒鍵が増えて弾きづらくなってる。
──でも実際に鍵盤で弾く快感というものが、音源を聴いていて伝わってきます。
まらしぃ そこはがんばりましたからね(笑)。
──kemuさんは普段アレンジャーとしても活躍されているわけですが、その視点から見て今回の音源はいかがでしたか?
kemu 楽器ソロの曲の場合は主役は楽器なので、楽器単体でいかに熱量が出ているかということが重要だと思うんですけど、それを考えるとまらしぃくんのプレイには熱量にあふれていて僕は好きですね。それと、僕が作るボカロ曲は特に音数が多いので、1台のピアノで弾く場合、その音の中からどの部分を選んで弾くかが重要だと思うんです。まずメロディとコードは使うとして、それ以外の部分……例えばベースラインや、違うパートのオカズ、リズムのアクセントといった中から、どの部分を取捨選択していくかがピアノアレンジのセンスだと思っていて。まらしぃくんはそういった点でも、曲を作った側にとってうれしいバランスで弾いてくれてると思います。
まらしぃ おっ! そう言ってもらえるのはうれしいですね。
kemu そういう判断力や嗅覚はやっぱりクラシック上がりという感じがします。クラシックは作曲者が楽譜に起こしたものをいかに理解して汲み取るかが勝負とよく言われるから。
ボカロシーンは楽しいことを夢中でやる場所であってほしい
──まらしぃさんは今作でボカロ曲をカバーするにあたって、アレンジ面で心がけたことは?
まらしぃ 僕はもとの曲が好きで演奏させていただいてるので、原曲に忠実というほどではないんですが、あまり雰囲気やリズムを変えることなく、もとの曲をピアノアレンジにするつもりで考えました。だから僕のエゴはそんなに入っていないと言うか。
──それはやはり作曲者の意図を汲んで演奏することの表れなのでしょうか?
まらしぃ 僕はもともと楽譜通りに弾くことを窮屈に感じて、先生とケンカしたこともあったぐらいなので、どちらかと言うとそういうのは好きではない立場だったんです……1周回って今そういうことをやってるなんて、自分でも面白いと思いますね。
──そこはやはりカバーする曲に対しての愛情があるからなのでしょうね。
まらしぃ 確かにそうかもしれないです。こんなことを言ったら怒られるかもしれないけど、僕はピアノの先生から課題で出される名曲に対してあまり愛情が湧かなかったですからね(笑)。
kemu 僕も昔クラシックピアノをやっていて、先生から「そこは作曲者の解釈と違う」って言われることがあったけど、そんなこと言われても、「自分はその作曲者に会ったのかよ?」って思っちゃうこともあった。
まらしぃ それ、すごくわかる(笑)。
──それだけ気が合うのであれば、先ほどの連弾の話ではないですけれど、ぜひいつかなんらかの形で共演してほしいところです。
kemu 今回は僕が作った曲をカバーしてもらいましたけど、欲を言えばイチから一緒に何か作りたいですね。それが果たしてボカロ曲なのかはわからないけど、せっかくお互い音楽をやってるんだから、うまく一緒にできる瞬間があれば。
まらしぃ 僕はまだ連弾をあきらめてないからね。
kemu 連弾もやりたいけど、ちょっと難しいかな?
まらしぃ なら、僕んちで桃鉄やろうよ(笑)。
kemu それも共演と言えば共演なのかな(笑)。
──kemuさんは今やベーシストとしても活躍されてるので、例えばもう1人、2人メンバーを加えてバンドをやるとか。
まらしぃ それいいですね。また一緒にスタジオ入りたいねえ。
kemu 遊びでいいから入りたいね。バンドを組んでたわけではないんですけど、昔よくやってたんですよね。ギターの知り合いとかドラマーの知り合いとみんなでスタジオに入って、セッションして。
──今のようにお互いキャリアを積んだ状態で改めてセッションをすれば、何か新しいものが生まれそうですね。
kemu とも思うけども、結果あんまり変わらない気もする(笑)。お互い好きなものは5年経とうが10年経とうがあまり変わらないですからね。
──でも、その仲間内で集まって楽しくセッションするというスタンスは、ボカロという磁場に集まった人がみんなでワイワイ言いながら楽しくクリエイトする姿勢と地続きと言うか。そこがボカロシーンの魅力の1つなんでしょうね。
kemu 童心に帰るじゃないですけど、ボカロシーンというのは楽しいことを夢中でやる場所であってほしいと思うし、今後も大きくなるとかならないは関係なしに、そういう色は残したままの場所であってほしいですね。
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あの熱さは、ずっとお祭りの中にいるみたいな感じだった
- まらしぃ「Vocalo Piano ~marasy vocaloid songs cover on piano~」
- 2017年9月27日発売 / Subcul-rise Record
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初回限定盤 [CD+DVD]
2500円 / SCGA-00063~4 -
通常盤 [CD]
2300円 / SCGA-00065
- CD収録曲
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- 拝啓ドッペルゲンガー(kemu)
- ゴーストルール(DECO*27)
- cat's dance(marasy)
- シャルル(バルーン)
- セツナトリップ(Last Note.)
- ウミユリ海底譚(n-buna)
- エイリアンエイリアン(ナユタン星人)
- 脳漿炸裂ガール(れるりり)
- ロストワンの号哭(Neru)
- アスノヨゾラ哨戒班(Orangestar)
- Hello, Worker(KEI)
- 心做し(蝶々P)
- チルドレンレコード(じん)
~Million Anniversary Track~
- マトリョシカ(ハチ)
- 六兆年と一夜物語(kemu)
- 千本桜(黒うさ)
- 初回限定盤DVD収録内容
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まらしぃStudio Live
- 千本桜
- 相思創愛