まらしぃ「Piano monkeys」インタビュー|ポケモン愛、地元愛、ボカコレ愛……さまざまな“愛”をピアノに乗せて (2/3)

おじいちゃんになっても自慢するコラボ

──最近のまらしぃさんのコラボ曲の中でも外せないのが、「ポケットモンスター」と初音ミクのプロジェクト「ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE」に提供された「むげんのチケット」ですね。コラボのオファーがきたときの率直な感想は?

メールでご依頼をいただいたのですが、あまりにも大きな話だったから3回くらい読み直して、そのあとうれしすぎてジャンプしました(笑)。何度読み直しても「楽曲制作の依頼」なんですよ。すっごいうれしかったですし、打ち合わせのときに「まらしぃさんが持っているポケモンへの愛情を曲にしてください。ほかの作曲者との被りなども一切気にしなくていいです」とまで言ってくれて。「まらしぃさんの名前の由来はマグマラシですから、マグマラシの曲でももちろん大歓迎です」みたいな話を振っていただいて、すごく光栄でした。

まらしぃ

──まらしぃさんが選んだポケモンはラティアスとラティオスでした。なぜこの2匹に?

一生に一度あるかないかのこの機会に、マグマラシじゃないポケモンを選んでしまったんですよ。なぜかと言うと、僕の学生時代はポケモンがすべてみたいな存在で。ラティアスとラティオスの映画(「劇場版ポケットモンスター 水の都の護神 ラティアスとラティオス」)も観に行ったし、ゲームでも使っていたし、当時発売されていたグッズもあったし、期間限定でオープンしたポケパーク(愛知県・名古屋市にあった遊園地「Pokémon The Park 2005」)に遊びに行ってラティアスとラティオスのポケモンカードをもらっていたし……。

──まらしぃさんの青春時代を象徴するのがポケモンだったと。

はい。それと担当の方が、ミクさんとKAITOさんのデュエットで作った「88☆彡」を聴いてくださったみたいで「あの組み合わせが大好きです」というコメントもいただいていたので、だったらラティアスとラティオス、ペアとなっているこの2匹にスポットを当てるのがベストだなと。

──楽曲作りはどのように?

ラティアスとラティオスに対する思いが強すぎて、「どうしたらこれが1曲にまとまるんだろう」と悩んでしまって、すごく難産でした。とにかく入れたいワード、付けたいメロディ、入れたい展開が多すぎて「ああでもないこうでもない」と苦悶する日々が続いて。あるとき「小難しく考えるのはやめにしよう」と思って、全部盛りのようにやりたいようにやったら案外まとまりがよく、テンションが乗ってきて一気に作り上げることができました。

──ピアノのフレーズがテクニカルなのはもちろん、ポケモンのBGMに合わせて三拍子のパートが用意されるなど、曲中の随所にまらしぃさんのこだわりを感じました。

モチーフとさせていただいた原曲のBGMはそれぞれ拍子が違うけど、どっちも使いたいという、欲張った構成ですね(笑)。最初は全部3拍子にしてみたり、もっとガラッと曲の構成を変える方法を試していました。

──今回のコラボはまらしぃさんのアーティスト人生にとってどのような1曲になりましたか?

いろんなカバーをしてきましたけど、公式から「必要であれば鳴き声やBGMはご用意します」と言っていただけるような環境で曲を作れることなんてめったにないんですよ。もらった素材を聴いてめっちゃニヤニヤしました(笑)。好きだからこそちょっと浮き足立っていたというか、いろいろ提供いただいたからにはどうにかして使わなければいけない、という使命感はありました。ファンであるがゆえの落ち着きのなさはあったけど、テンション高く作れた自慢の1曲です。たぶん僕がおじいちゃんになっても「ポケモンの公式曲を書いたことがあるんだよ」って周りに自慢しているんじゃないかな。

名古屋の絶対的な動物園=東山動植物園

──「& Piano」は、まらしぃさんが拠点としている名古屋にある東山動植物園のテーマ曲として発表されたものです。東山動植物園はまらしぃさんにとっても縁のある地だと伺いました。

東京の動物園と言えば上野動物園、みたいに地域に根ざした動物園がいくつかある中で、名古屋の小学生全員が遠足で行くような、名古屋の絶対的な動物園が東山なんです。僕自身、幼少期から何度も足を運んでいる場所ですし、テーマ曲を担当できるのは名古屋で活動している人間としてとても名誉なことだと感じています。実はこのコラボグッズがヴィレッジヴァンガードさんから発売されるのです。ちなみにヴィレヴァンさんも本店が名古屋にある。名古屋に縁のある3者が一堂に会したコラボとなっています。

──慣れ親しんだ東山動植物園の曲を書く際、どんなことを意識しましたか?

改めて動植物園に行って、動物たちや植物をたくさん見て感じたのは、ただ楽しいだけじゃなくて、その背景にいろんな歴史や学びがあること。絶滅危惧種の動物や希少な植物を見ていく中で、人類や地球の歴史を振り返るような一面を感じたので、「& Piano」に関してはただ楽しい一辺倒ではない、少し立ち止まって何かを考えさせるような落ち着いたフレーズも入れてみました。

──アルバムの最後に収録されている「& Piano again」は、動植物園の閉園時に流れるBGMだと伺いました。

はい。「& Piano」をバラード調にアレンジした楽曲です。動物園や植物園に閉園までいるという経験をした人はあまりいないと思うけど、日が暮れかけて動物たちが眠りにつこうとするようなノスタルジックな空気感を意識しながら「& Piano」をアレンジしました。東山動植物園に行ったらぜひ閉園まで楽しんでもらい、「& Piano again」も聴いてもらいたいですね。

──東山動植物園でミュージックビデオの撮影が行われたと伺いました。

植物園のほうに国の重要文化財(東山植物園温室前館)があって、その前にある池の真ん中でピアノを弾かせていただきました。5cmくらいの深さではありますが、水が張っているところでピアノを弾いたことはなかったので新鮮な経験でしたね。撮影日は天気がよくて気持ちいい気候だったし、足の動きに合わせて水面が揺れるのも気持ちよくて。すごく清らかな気持ちになりました。

“名古屋走り”を曲に

──アルバムにはもう1曲、名古屋をモチーフにした曲があります。俗に言う“名古屋走り”を表す「Nagoya Style Running」は、どういう背景で生まれた曲ですか?

少し前の話になりますが、コロナ禍で車を運転する機会がものすごく増えたんですよ。例えば東京に行くにしても、新幹線や電車を避けて車で行くことが増えて。東京で仕事を終え、愛知県に入って豊田市を越えたくらいから、運転していて「わっ」と思うことが多い。そうすると「帰ってきたなあ」と感じるんですよ(笑)。

──普段から“名古屋走り”を体験しているわけですね。

あくまで僕の主観ではありますが、やっぱり名古屋には運転に関して独自の考え方があるような気がしますね。例えば信号が黄色から赤になりかけているときにアクセルを緩め始めると、後ろからクラクションを鳴らされちゃうみたいな。よく言えば威勢のいい名古屋の運転をモチーフに曲を作ってみたら面白いかな、と思い作ってみたのが「Nagoya Style Running」です。もちろん東京には東京の走り方があるので、運転していて緊張する場面もありますけどね。

まらしぃ

──アーティストの中には地方から出てきて東京で活動する方も多い中、まらしぃさんは名古屋という拠点を大事に活動されている印象があります。まらしぃさんにとって名古屋はどんな場所ですか?

「東名阪」という言葉に表れているように、名古屋は日本の三大都市と語られることがありますが、住んでいる身からすると東京や大阪ほど都会ではないと感じています。もちろん栄えているし、高いビルもあるし、買い物に困るようなこともないけど、都市というよりは大きな街。そのスケールが大きすぎて、都市っぽくなっているだけというか。東京や大阪に比べて土地もあるから道も広いし、主要駅の近くに閑静な住宅街もあって、とにかく住みやすいのが名古屋の特徴です。

──長くアーティスト活動をする中で、東京への移住を検討したことはありませんか?

レーベルのスタッフさんから何度か提案されたことはありますが、僕にとって東京は少し流れが早すぎる感じがして。トレンドの移り変わりも早いし、街を歩く人の歩行スピードも速い。いろんな意味で置いていかれそうになっちゃうのが東京ですね。自分が東京に馴染むには少しがんばらなきゃいけない感じがして、やっぱり僕には名古屋の空気感が向いているんだろうな。