まらしぃが6月19日に東京・日比谷野外大音楽堂にてライブイベント「まらフェス2022」を開催。イベントの開催に先駆けて、新作EP「まらフェス2022 EP」を6月15日にリリースした。
「まらフェス」は、まらしぃと彼に縁のあるアーティストが一堂に介し、さまざまなコラボステージなどが繰り広げられるライブイベント。本イベントが開催されるのは、2020年に大阪公演の代替として無観客で行われたオンラインライブ以来、約2年ぶりとなる。イベントの直前にリリースされた「まらフェス2022 EP」では、イベント出演者としてもラインナップされているkors k、H ZETT M、logical emotion、recheがレコーディングに参加している。本特集では「まらフェス」開催直前のまらしぃにインタビューを実施。ひさびさの開催となる「まらフェス」に懸ける思いや、名だたるコラボ相手たちとの制作の裏話を聞いた。またEPに付属するDVDに昨年3月開催の東京・日本武道館公演「marasy piano live in BUDOKAN」のライブ映像が収録されることを受けて、武道館公演の感想やDVDの見どころについても語ってもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 山崎玲士
コロナ前を取り戻したいわけじゃない
──「まらフェス2022 EP」はまらしぃさん主催のライブイベント「まらフェス」に向けて用意された作品です。有観客での「まらフェス」は2018年以来なので約4年ぶりですね。
配信でピアノを弾いたり日本武道館で単独公演をしたり、ここ数年は1人で演奏する機会が多かったので、僕自身も「まらフェス」をめちゃくちゃ楽しみにしています。どうせやるなら万全の態勢で臨みたくて、EPをリリースすることにも挑戦してみました。
──武道館でのライブはまらしぃさんが1人で演奏することにこだわったライブだったので、ゲストを多数招く「まらフェス」はまったく異なるベクトルのライブと言えますよね。
1人でピアノを弾くのはもちろん好きなんですが、誰かと一緒に音楽をやるとものすごく刺激をもらえるんですよね。それにここ数年は1人のことが多かったし、みんなで一緒に音楽をやる機会に飢えていて。普段のライブと違うお祭りを1年に1度はやりたいので、今年からまた定期的に「まらフェス」が開催できたらいいなと思っています。
──「まらフェス」に向けて音源をリリースするのは初めての試みですね。例えば、ライブ用に用意した曲を当日初披露するという形もあると思いますが、先んじてCDをリリースするところにはどういう狙いが?
ライブで新曲を初めて披露するのも魅力的な方法だとは思いますが、個人的にはライブの前に予習して「待ってました!」という感じで曲を聴くのが好きで。今回はイベント直前にある程度新曲に触れてからライブで楽しんでもらう形を選びました。そうすることでイベント前にゲストの方の音楽に興味を持ってもらえるかもしれませんし、「まらフェス」をきっかけにいろんな音楽を楽しんでもらう1つのきっかけになったらいいなと。
──「まらフェス」の出演者であるゲストの面々はどう選びましたか?
以前からお世話になっているkors kさんやH ZETT Mさん、それに昔馴染みのバンド・logical emotionで「まらフェス」をやりたいという思いは根底にあって。ただそれだけだといつもと同じになってしまうので、今回新しい風としてボーカリストのrecheさんにも声をかけさせていただきました。「まらフェス」自体は数年前からやっていて、念願の開催なので同じように盛り上がりたい気持ちがありつつ、コロナ禍で新しく出会ったつながりも今年の「まらフェス」には反映させたくて。
──昨年末に開催されたrecheさんのオンラインライブが、まらしぃさんとの初めての接点だったと伺っています。
はい。僕は個人的にずっとEGOISTが大好きで、デビュー当時からrecheさんのことを知っていたんですが、昨年ありがたいことにrecheさんのほうからオファーをいただいてゲストとして1曲ピアノを弾かせてもらったんです。そのご縁があったので、今回僕のライブにも声をかけさせてもらいました。
──約2年の時を経て「今やるなら」という思いが詰まったイベントになるわけですね。
コロナ前の「まらフェス」をただ取り戻したいわけじゃなくて、いろんな物事を踏まえてこれからどう向き合っていくかをちゃんと考えたいなと思って。そういう思いが今回の「まらフェス」には反映されていると思います。
maras kとして観てきた風景を曲に
──EPの1曲目は、まらしぃさんの“相方”とも言えるkors kさんとのユニット・maras k名義の「回せツインテール」です。
kors kさんとは「まらフェス」のみならずいろんなステージでご一緒させてもらってきたので、今まで一緒に見てきたステージからの景色を踏まえた新曲にしたいと思って。せっかくならば「フェス」というワードに近付けたくて、最初の作曲段階からEDMのフェスで流れているような曲をイメージしていました。
──楽曲制作時にkors kさんとはどのようなお話を?
コロナ禍でなかなかお会いできない状態だったので、まずは「お元気ですか?」といった近況報告から入って(笑)。僕もkors kさんも「引きこもりがち」という点で共通していたので、「まらフェス用に作るなら思いっきりアウトドア感を出したサウンドにしたいよね」という意見で合致しました。まだ声は出せない状態だと思いますが、野外ライブだし、思いっきり騒いで盛り上がれるような曲をイメージして作ってはいます。声は出せなくても、手拍子などで合いの手を入れてもらえたら盛り上がるだろうなあ。
──“声ネタ”と呼ばれるサンプリング音声とボカロの声が共存しているのは面白いですよね。
僕は以前から音ゲーをよくプレイしていたので、声ネタとボカロの親和性が高いと昔から思っていて。kors kさんも賑やかしでよく声ネタを使う方なので、「今回は声ネタもふんだんに入れてください」というリクエストをしてみました。
──これまでmaras kとして発表してきた「アンラッキーガールちゃんの日録」や「踊ル猫曰ク」といったボカロ曲とは、歌詞のアプローチも少し違うと感じました。
コロナを経て僕も考え方が丸くなったというか、視点が増えた感覚があって。ある程度自分の溜飲の下げ方がわかってきたんですよね。だから歌詞の内容もちょっと大人になったというか、「なるようにしかならない」みたいな部分と「楽しむときは楽しみましょう」というメッセージを込めた、いい塩梅の曲になったと思います。
H ZETT Mに戦いを挑む
──2曲目「saru vs H ZETT M」は、「3D-PIANO ANIME Theater!」(2012年7月発売のカバーアルバム)から縁のあるH ZETT Mさんが参加した楽曲です。「3D-PIANO」の発売が2012年なので、もう10年来の付き合いになるわけですね。
当時、H ZETT Mさんに声をかけていただいたことが本当に光栄で、こうして10年経ってまたご一緒させていただけたのがうれしくて。「3D PIANO」のときはカバーを一緒に弾くというコラボだったんですが、今回は一緒に曲を作らせてもらえることになって。
──今作に収録されている「saru vs H ZETT M」と、配信シングルとしてリリースされている「Very Good」の2曲ですね。
はい。僕が「saru vs H ZETT M」を、H ZETT Mさんが「Very Good」を作曲して、レコーディングではお互い「ああしましょう、こうしましょう」と相談しながら一緒に弾きました。H ZETT Mさんは僕にとって本当に憧れの人なので、今回は恐れ多くも戦いを挑むつもりで「saru vs H ZETT M」という曲を作りました。
──「saru vs H ZETT M」はお互いにソロパートをぶつけ合うような構成の曲です。まらしぃさんは作曲段階でどのくらいのアイデアを用意していったんですか?
仮に僕が弾いてもらいたいものを用意したとしても、H ZETT Mさんだったらそれを軽々と超えていくだろうなということはわかっていたので、メインのメロディにあたるものと、ある程度のパート分けを伝えたくらいでした。実際、ソロの完成度が高いのはもちろん、メロディのアレンジやバッキングもすごいと思って、僕も現場で必死にアレンジしながら喰らいついていきました。善戦はできたと思いますが、どちらかと言えば僕は防戦一方だったかな(笑)。
──一緒に曲作りをしてみて、H ZETT Mさんのピアニストとしてのすごさをどう感じましたか?
技術的なところがすごいのはもちろん、今回曲作りをご一緒してみて感じたのは、僕の作った曲であるということを大切にしつつ、そこにちゃんとH ZETT Mさんらしさ、自分の色を鮮明に入れてくださるところ。ただ自分の色を出すだけじゃなくて、楽曲としてのまとまりを優先しながらも、最大限H ZETT Mさんの個性が入ってる。最後にレコーディングされた音源を聴いてみたら、僕もH ZETT Mさんもお互いが立った状態で、曲としてもちゃんと成立している。すさまじいバランス感覚だと思います。僕はどちらかと言えばけっこう自分の色を出したがるというか、自分勝手なところがあるので、すごく勉強になりました。
──H ZETT Mさん作曲の「Very Good」のレコーディングで、まらしぃさんはどう自分の色を出そうとしたんですか?
そこはちょっと反省したというか。僕はまだ少し青い部分があるのか、少し我を出したくなっちゃったんですよね(笑)。もちろんただわがままを言ったわけじゃなくて、H ZETT Mさんだったら僕のピアノを受けて、そこからさらにいい形にまとめてくださる確信があったからなんですけど。だから胸を借りるつもりで「僕ならこう弾きます!」というのをあえてぶつけたほうがいいかなと思ってそうしました。
──まらしぃさんの場合、バンドやDJと組む機会が多かったので、ピアニスト同士のコラボというのがそもそも珍しいですよね。
そうなんです。僕は1人で弾くことが多いから自分の色を出すことには長けているんですが、H ZETT Mさんのように曲によって自分の存在を消すようなプレイはまだ不得手だと自覚していて。今回H ZETT Mさんとご一緒させてもらって自分なりに課題を見つけられたので、またいつか一緒にコラボできるときには、今よりレベルアップした自分で戦いを挑めるように精進したいですね。
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作業机に発生する“ジャングル”の曲