まらしぃは楽譜が嫌い?
星出 僕からも質問していいですか?
まらしぃ もちろん大丈夫です。
星出 まらしぃさんってあまり楽譜がお好きではないんですよね?
まらしぃ 全然嫌いじゃないですよ(笑)。普段、楽譜を見る機会がそんなに多くないだけで……。
星出 クラシックといえば楽譜じゃないですか? なのでクラシックを習っていた昔の苦い思い出がよみがえってくるんじゃないかと。
まらしぃ 苦い思い出はありますが、「ちょっとつよいクラシック」(2019年12月発売のアルバム)という作品をリリースする際に、元となっている名曲を一度ちゃんとさらおうと思って、昔使っていた楽譜を引っ張り出してきて、イチから勉強し直してみたんです。昔は作曲者の意図がどうとか、楽譜通りに弾かなきゃいけないみたいなことに対して「好きなように弾けばいいじゃん」みたいに感じていたんですが、大人になってから改めて楽譜に触れてみると、楽譜を読んだときの理解力が上がった実感があって、「なるほどそういうことだったのか」と思うことが増えました。もちろんクラシックを専門にしている方々から比べればまだまだ浅いレベルだとは思いますが、楽譜を読むことの楽しさを改めて感じられたので、今は採譜していただいた楽譜を読むのもけっこう好きになったんですよね。
星出 「ちょっとつよいクラシック」の楽譜も担当させていただいたんですが、このときは楽譜のスタイルもクラシック的なものにしていたんです。もしかしたら、まらしぃさんからしたら嫌かなあとも思っていたんですが……。
まらしぃ 全然嫌じゃなかったです。昔と区切りを付ける意図もあるアルバムでもあったので、星出さんの解釈はバッチリ僕のイメージ通りでした。
まらしぃの作曲家としての才能
星出 僕、まらしぃさんのオリジナル曲がすごく好きなんです。作曲に関しては独学ですよね?
まらしぃ そうですね。以前、一時的に3カ月くらいジャズにハマっていたことがあるので、コードに関してはそこで勉強しただけで、音楽理論とかをちゃんと勉強したことはなくて……。
星出 信じられないですよ。「V.I.P X」にも収録されている「夢、時々…」が初めて作曲した曲なんですよね? それまでに実は100曲くらい作っているんじゃないかなと……。
まらしぃ 小さい頃に遊びで8小節くらいの曲を作ってピアノの先生に聴かせたことがありますが、ちゃんと1から長い曲を書いたのは「夢、時々…」が最初です。
星出 いきなりあんな曲が書けるなんてあり得ない(笑)。まらしぃさんのオリジナル曲って、誰の曲にも似てないんですよ。だいたいのアーティストさんは影響を受けた方の色が曲に出てしまうと思うんですが、そういうのを感じさせない。本当にまらしぃさんのオリジナル曲は、まらしぃさんだけのものなんです。「夢、時々…」以外にも「Sogna」とか「わたしのマーガレット」とか。ああいうテイストの曲を聴いたことがなくて、作曲家としても素晴らしい才能をお持ちだと思います。
まらしぃ もしかしたら中学時代に一度ピアノを辞めちゃったのが大きいのかもしれないですね。おそらく皆さんが一番音楽にハマる時期って中高生のときだと思うんですが、僕の場合はピアノのことが嫌いになって、その時期はゲームにハマったり、バイトをめちゃくちゃ入れたり、むしろ意図的に音楽と距離を置いていたんです。なので、誰かの影響を受け続けてきたというのがないんですよね。今になってみれば思春期にもうちょっといろんな音楽に触れておけばよかったなと思っていますけど……。
星出 逆に何かの影響を受けてこなくてよかったと思います。例えばまらしぃさんが音大に進学して音楽理論の勉強をしていたら、今のスタイルになっていないはずですから。
まらしぃ 実は音大に進むことを考えたこともあったんですが、音大の進学を専門にしている先生の体験レッスンを受けたときに「あなたには音大は無理ね」と言われてすぐ諦めちゃったんです。しばらくピアノから離れていたから甘く考えていたなあと思ったし、もしかしたらその先生が僕のスタイルに気付いてくださって、音大に進むべきではないと教えてくれたのかもしれないですね。
星出 実を言うと僕も音大の予備校みたいなところに行って、ピアノ科の授業を受けていたんですよ。そこに集まる生徒さんたちはみんな小さい頃から大変な練習を積んできたような人たちなので、僕はなかなか通用しなくて。それで僕は作曲のほうが個性を出せるかなと思って、作曲科に変えたんです。
まらしぃ その選択肢を知らなかったんですよね(笑)。知ってたらもうちょっと違う音楽人生を歩んでいたかもしれない。
星出 でもまらしぃさんは独学で正解だったと思います。独学では大成しない人がほとんどで、まらしぃさんはその類まれな才能を持った人だったわけですから。今のスタイルを大事にしてほしいと思っています。
まらしぃ ありがとうございます。作った曲を「好き」と言ってもらえるのはやっぱりうれしいですね(笑)。「V.I.P X」の楽譜、楽しみにしています。
※「V.I.P X marasy plays Vocaloid Instrumental on Piano」楽譜集を制作中。発売時期は未定。
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まらしぃソロインタビュー