ナタリー PowerPush - Manhattan Records The Exclusives Japanese Hip Hop Hits Vol.3

最新ミックスCDから読み解く現代ヒップホップ事情

洋楽ヒップホップと一緒にプレイできる日本の曲が増えた

──先ほどご自身のDJでプレイするのは洋楽ヒップホップがほとんど、と言っていましたが、そんなHAZIMEさんは現在の日本のヒップホップシーンをどのように見ているのでしょうか?

最近の日本のヒップホップシーンには、USを意識して作られた作品が増えてきたと思います。

──具体的にどういったアーティストですか?

最近だとSIMONとAKLOかな。この2人にはUSのサウンドを感じます。特にAKLOはリリックの題材すらUSヒップホップを意識してるしね。DJとしても彼らみたいな曲はセットリストの中に挿れやすいんですよ。僕のDJプレイでは「今イケてる日本語ラップはこれだぜ!」みたいな感じで日本語ラップをピンポイントで使うから、作る側が洋楽ヒップホップを意識してくれていると、自分のセットリストにも組み込みやすいし、日本語ラップの曲でも違和感なくプレイできて、ちゃんと盛り上げることができるんですよ。そこは本当に変わったとこだと思う。

SIMON

──なるほど。

やっぱ僕も日本で活動している以上、日本語のヒップホップでお客さんを盛り上げたいというジレンマがあって。昔は「これクラブでかけてくれ」って勝手に曲だけ送られてくるようなことがあったんですよ。でも、それが「こんなの流行るわけないじゃん」みたいなサウンドだったりもして。だからAKLOやSIMONみたいなアーティストが出てきたのは本当にうれしい。ちなみに僕が共同プロデュースで関わったDABOの「デッパツ進行」なんかも、クラブで一番盛り上がる曲を作るってことを前提にしたプロジェクトだったんです。

──ではプロデューサー / トラックメーカーで注目している日本人は誰ですか?

BL(BACHLOGIC)です。彼がいろんな曲のプロデュースを手がけるようになって、僕は曲作りを止めました。「この完成度にはたぶん一生勝てない」と思って。逆にBLに作ってもらおう、みたいな(笑)。それぐらい完成度が高い。

──その完成度の高さとは、具体的にどのような部分でしょう?

……完成度の説明って難しいですね(笑)。例えばオーケストラって誰か1人でも下手な人がいると全部が台無しになりますよね。BLのトラックは、すべての音に対して変なところがまったくないんですよ。「このハイハット、なんか……音変えりゃいいのに」とか「ベースがもうちょっと違う鳴りだったら」みたいなことを一切思わない。そう、隙がないんですよ。完璧なんです。あっ、でも一応言っておきますけど、僕、プロデューサーで選んで曲を聴くわけじゃないですよ。

──そういう細かい付帯情報ではなく、曲のよしあしが一番重要ということですね。

そう。まず曲を聴いて「これ誰が作ってるんだろう」ってクレジットを見て、「ああ、やっぱりBLかあ」みたいなパターンのほうが圧倒的に多いですね。

日本語曲をプレイするからには歌詞も極力はわかりたい

──本作は歌詞を聴き取りやすい曲が多いと感じました。

それは僕が、何を言ってるかわからない日本語ラップをあまり求めてないからです。やっぱ日本語でやるからに歌詞も極力はわかりたくて。

──なるほど。ではHAZIMEさんにとってラップのうまい / 下手を分けるものはなんですか? やはり聴き取りやすさでしょうか?

純粋なラップのうまい下手だけで言えば、曲にいかにちゃんと合わせられるか、じゃないでしょうか。その意味でリズム感はすごく重要ですね。

ANARCHY

──なるほど。今回の作品の中でそのラップのうまさが際立っていると思う曲を教えてください。

あくまで僕の好みで言えば、AKLOとSIMONですね。でも例えばANARCHYはリズム感がどうとかではないんです。僕は彼のラップが好きなんです。ANARCHYはちょっと粗いくらいのラップでちょうどいい。

──ANARCHYの器用じゃない、朴訥な雰囲気も含めてってことですね。

そう、そうなんですよ。だからラップのうまい下手ならわかるけど、よしあしの判断ってなると難しい(笑)。

──基準がありそうでないですよね。

でも、それでよくないですか? ラップはただの自己表現なんだし。それに歌詞カードを見ないと歌詞が聞き取れない曲なんてヒップホップを普段から聴いてない人からすれば、理解不可能ですよ(笑)。

──あははは(笑)。

日本ではカラオケがわりと大きな娯楽じゃない。あれって、みんな自分が知ってる曲を歌ってるだけで、別に画面に出てる歌詞なんて見てないわけですよ。僕もごくまれにカラオケに行かなきゃいけないことがあって、そこで「I REP」とか歌わされるけど、相当がんばんないと歌えない(笑)。実際「I REP」の制作に関わっていた僕ですらそんな状況なんだから、一般の人が歌うなんて不可能でしょ。だからと言ってみんながカラオケで歌えるようなヒップホップを作るっていうのも違うと思うんだよね。

──そんな状況の中でヒップホップが日本社会に受け入れられるためには、まず何をどうすることが望ましいと思いますか?

DJ HAZIME

今はヒップホップスターがいないんじゃない? 「この人さえ聴いてればOKなんでしょ」みたいなアイコンがさ。普段ヒップホップを聴かない人が「あっ、この人知ってる。テレビでも見たことあるし」って言って、そこきっかけで日本語ラップ聴いてくれたりするのが実はけっこう健全なんじゃないかなっていう気はするんですよ。

──今、お茶の間層にもリーチしているヒップホップアーティストって、RHYMESTER、KREVA、Zeebraぐらいですよね。

ヒップホップをお茶の間側に合わせるんじゃなくて、むしろお茶の間をヒップホップ側に寄せていくというかさ。要は慣れてもらうんですよ。我々がカラオケで歌えるような曲を作るのではなくね。そういう意味でAKLOみたいな存在が育っていくのは重要だと思うんだ。

V.A.(Mixed By DJ HAZIME)「Manhattan Records The Exclusives Japanese Hip Hop Hits Vol.3」 / 2013年8月7日発売 / 2730円 / Lexington Co., Ltd / Manhattan Recordings / LEXCD-13023
収録曲
  1. MY STYLE / AKLO, PUNPEE, AK-69
  2. RED PILL (ONE YEAR WAR REMIX) / AKLO feat. SALU & RYKEY
  3. BETTER HALVES / BETTER HALVES
  4. KRAZIE KLUB / JOYSTICKK feat. AK-69
  5. WHO ARE U / DJ RYOW feat. TOKONA-X
  6. H.B.F. / Head Bangerz feat. HB FAMILIA
  7. WHAT'S MY NAME / GAZZILA
  8. SPREAD DA SHINE / BOMBRUSH! feat. ANARCHY, B.D THE BROBUS, 般若
  9. WE SHINE(SPREAD DA SHINE PT.2) / BCDM meets BINK! feat.NORIKIYO, "E"QUAL, JAZEE MINOR
  10. THE SHOW MUST GO ON / AK-69
  11. STRAIGHT IT UP / SIMON feat. AK-69
  12. MOTION / SLik d × PUNPEE
  13. FRANKRYN ZOO / RAU DEF
  14. コノハナシ / SD JUNKSTA
  15. K.Y. / OKI from GEEK feat. MISTA O.K.I.
  16. 愚痴か? 否か? / SWANKY SWIPE
  17. POISON / B.D. THE BROBUS feat. NIPPS
  18. 日本語ラップ is DEAD!? / DEN, D.O, JBM, VIKN, SIMON, MUNARI, DJ MISSIE
  19. 末期症状 / MAKI & TAIKI
  20. バスドラ発~スネア行 / MAKI & TAIKI
  21. FUKUROU(YAKANHIKOU) / YOU THE ROCK
  22. PAYBACK(報復)'98 / BY PHAR THE DOPEST
  23. 時代特急 / FLICK
  24. DON'T TEST DA MASTER / BUDDHA BRAND
  25. MASSIVE / MAGUMA MC'S feat. RINO LATINA II
  26. SHOCK TO THE FUTURE '04 / FUTURE SHOCK ALLSTARS
  27. WHOOO / OZROSAURUS
  28. GROWTH / ANARCHY
  29. HATE MY LIFE / RYUZO
  30. I GOTTA GO / SALU
  31. GOOD BOY, BAD BOY / 熊井吾郎 feat. SEEDA, KREVA
DJ HAZIME(でぃーじぇーはじめ)
DJ HAZIME

1990年代初頭から活躍するクラブDJ。DABOやNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのライブDJとしても知られている。またプロデューサーやリミキサーとして、K DUB SHINE、SPHERE OF INFLUENCE、安室奈美恵、PUSHIMなどを手がけた。2002年にはジェイ・ZのレーベルROC-A-FELLAのオフィシャルミックスCD「DJ HAZIME presents ROC-A-FELLA MIX」を発表したほか、人気ヒップホップ系クラブHARLEMのオフィシャルミックスCD「"HARLEM ver2.5"Mixed By DJ HAZIME」などの制作も担当した。2010年からはManhattan Records企画の日本語ラップミックスCDシリーズ「Manhattan Records The Exclusives Japanese Hip Hop Hits」の制作に参加。2013年8月には同シリーズ最新作「Manhattan Records The Exclusives Japanese Hip Hop Hits Vol.3」をリリース。