ナタリー PowerPush - Manhattan Records The Exclusives Japanese Hip Hop Hits Vol.3

最新ミックスCDから読み解く現代ヒップホップ事情

日本のクラブミュージックシーンを牽引するManhattan Recordsが、人気ミックスCDシリーズ「Manhattan Records The Exclusives Japanese Hip Hop Hits」の最新作をリリースした。本作はタイトル通り新旧の日本語ラップからセレクトした楽曲をDJ HAZIMEが巧みな構成とテクニックでグイグイと聴かせる内容に仕上がっている。

今回のインタビューではDJ HAZIMEがどのような意図で本作の選曲をしたのか、エクスクルーシブ曲「MY STYLE / AKLO, PUNPEE, AK-69」について、さらに現在の日本語ラップシーンについて語ってもらった。

取材・文 / 宮崎敬太 インタビュー撮影 / 小原啓樹

お手軽な試聴コンピでいいと思ってる

──今回のミックスCD「Manhattan Records The Exclusives Japanese Hip Hop Hits Vol. 3」はシリーズ3作目になりますが、そもそもシリーズはどのようにスタートしたんですか?

(1作目は)3年前のことだからもう忘れちゃったよ(笑)。このシリーズにおける僕なりのコンセプトは、日本語ラップにはこういう曲があるんですよ、って紹介することかな。1990年代後半から2000年代初頭にかけて起こった日本語ラップの黄金期“さんピン世代”を知らない今の人には当時の曲を聴いてもらいたいし、逆に当時の曲しか聴いてない人には今の日本語ラップシーンの曲を聴いてもらいたい。これは1枚目も2枚目も今回のも全部一緒です。

──収録曲はどのように選んだんですか?

DJ HAZIME

まず最初にManhattan Recordsのスタッフが選んだ100~150曲くらいを送ってもらうんです。僕はその中から単純に耳触りがいいのを選んで、楽曲使用許諾の可否について調べてもらいます。それで使える曲がそろったら、曲の詳細を調べ始めるんです。PVがあるやつは観たり、プロデューサーのクレジットやリリース年代をチェックしたりして。僕はミックスCDを70分くらいある1曲みたいに捉えているから流れに意味を持たせたいし、わかる人にはわかるつなぎどころを自分なりに作っていったりしました。

──曲のバックグラウンドを調べると、実はレーベルやアーティストの地域、プロデューサー、年代ごとに選曲されていて驚きました。

ありがとうございます。みんながそういうバックグラウンドを気にして聴いてくれればうれしいけど、実は僕自身このミックスCDがお手軽試聴コンピでもいいと思ってるんです。いろんな曲がけっこうなボリュームでまとめて聴けて、その中で気に入ったやつがあればその人のアルバム買うでもいいし、ライブに行くでもいいしみたいな。そういうきっかけになるだけでいいかな、と。

──要所で聴かせるスクラッチや2枚使いなどもミックスCDの中でアクセントになっていますね。

そうですね。基本的に僕はレコードでできないことはやらないんです。クラブの現場でできないことはしたくないというか、パソコンじゃないとできないようなことは自分のDJスタイルとしてやりたくない。

──それはなぜですか?

もちろん作業自体はパソコンを使っていますよ。でも、パソコンのエディット機能に頼りすぎると、クラブの現場で再現することができなくなっちゃうじゃないですか。だから、生身の人間ができないことはやらないんですよね。

PUNPEEとAK-69は日本語ラップシーンの端と端。AKLOはちょうど中間。

──今回のミックスCDに収録されているような曲をHAZIMEさんはクラブでプレイしますか?

DJ HAZIME

あまりかけませんね。というのも、僕が今やらせてもらってるのは、日本語ラップが求められるようなハコやパーティではないです。基本的には洋楽のヒップホップ。でも、今回みたいに自分のミックスCDが出るタイミングでは、エクスクルーシブ曲を毎週ゴリ押しのようにかけてます(笑)。

──このミックスCDプロジェクトでは1曲目に必ずエクスクルーシブ曲が収録されていますね。1作目は「I REP feat. DABO, ANARCHY, KREVA」、2作目は「BEATS & RHYME feat. MACCHO, NORIKIYO, 般若 & DABO」でした。

そうそう。で、今回は「MY STYLE / AKLO, PUNPEE, AK-69」だね。

──HAZIMEさんはどのような形でこの曲に関わっているんですか?

トータルプロデュースという感じですね。プロデューサーやラッパーの人選はもちろん、トラックのイメージやリリックのテーマも決めています。

──とてもユニークな人選ですよね。SKYBEATZ、AKLO、AK-69という硬派なアーティストの中にカルチャー方面で人気があるPUNPEEが混じっているという。

うん、特にPUNPEEとAK-69は日本語ラップシーンの端と端ですよね。AKは日本のヒップホップシーンにおける現在のキングだし、PUNPEEはその逆というか、アングラのカリスマみたいな。AKLOはその真ん中という感じです。

──ラッパーにはそれぞれどのようなテーマでリリックのオファーをしたんですか?

曲のタイトル、“MY STYLE”です。自分たちがここまでどういうスタイルでやってきたか、今どういうスタイルでやってるか、みたいなのを歌詞に反映してほしいと伝えました。

AKLO PUNPEE AK-69

──HAZIMEさんから見てAKLO、PUNPEE、AK-69はそれぞれどんなラッパーですか?

AKは……説明が難しいですよね(笑)。よくウエッサイとか車社会で人気があるとか言われるけど、僕としてはそういう印象がなくて。むしろいちDJとしての印象はさっきも言った通り現在の日本のヒップホップシーンのキングという感じなんですよね。全国区で人気があるし。

──PUNPEEはどうでしょう?

彼は解釈が面白いんですよ。今までにないヒップホップの解釈というか。いわゆる“さんピン世代”と言われる僕たちには、「日本語ラップでカッコいいのはMICROPHONE PAGER!」みたいな宗教的な思い込みがみんなにあって。でもPUNPEEはそういうんじゃなくて、もっと自由なんですよね。それは新世代だから、というんじゃなくて、なんか「こいつ、天才……なのか……?」ぐらいのイメージです(笑)。

──最後にAKLOについてはどう思われますか?

やっと次のスーパースター候補が来たなという感じ。作品のクオリティ、スキル、キャラクターとかそういうのも全部含めて、そう思いますね。むしろ、「ALKOがいいと思えないんだったら、日本語ラップ聴くセンスないんじゃないの?」ぐらいのところまで持ってける気がするんですよ。

V.A.(Mixed By DJ HAZIME)「Manhattan Records The Exclusives Japanese Hip Hop Hits Vol.3」 / 2013年8月7日発売 / 2730円 / Lexington Co., Ltd / Manhattan Recordings / LEXCD-13023
収録曲
  1. MY STYLE / AKLO, PUNPEE, AK-69
  2. RED PILL (ONE YEAR WAR REMIX) / AKLO feat. SALU & RYKEY
  3. BETTER HALVES / BETTER HALVES
  4. KRAZIE KLUB / JOYSTICKK feat. AK-69
  5. WHO ARE U / DJ RYOW feat. TOKONA-X
  6. H.B.F. / Head Bangerz feat. HB FAMILIA
  7. WHAT'S MY NAME / GAZZILA
  8. SPREAD DA SHINE / BOMBRUSH! feat. ANARCHY, B.D THE BROBUS, 般若
  9. WE SHINE(SPREAD DA SHINE PT.2) / BCDM meets BINK! feat.NORIKIYO, "E"QUAL, JAZEE MINOR
  10. THE SHOW MUST GO ON / AK-69
  11. STRAIGHT IT UP / SIMON feat. AK-69
  12. MOTION / SLik d × PUNPEE
  13. FRANKRYN ZOO / RAU DEF
  14. コノハナシ / SD JUNKSTA
  15. K.Y. / OKI from GEEK feat. MISTA O.K.I.
  16. 愚痴か? 否か? / SWANKY SWIPE
  17. POISON / B.D. THE BROBUS feat. NIPPS
  18. 日本語ラップ is DEAD!? / DEN, D.O, JBM, VIKN, SIMON, MUNARI, DJ MISSIE
  19. 末期症状 / MAKI & TAIKI
  20. バスドラ発~スネア行 / MAKI & TAIKI
  21. FUKUROU(YAKANHIKOU) / YOU THE ROCK
  22. PAYBACK(報復)'98 / BY PHAR THE DOPEST
  23. 時代特急 / FLICK
  24. DON'T TEST DA MASTER / BUDDHA BRAND
  25. MASSIVE / MAGUMA MC'S feat. RINO LATINA II
  26. SHOCK TO THE FUTURE '04 / FUTURE SHOCK ALLSTARS
  27. WHOOO / OZROSAURUS
  28. GROWTH / ANARCHY
  29. HATE MY LIFE / RYUZO
  30. I GOTTA GO / SALU
  31. GOOD BOY, BAD BOY / 熊井吾郎 feat. SEEDA, KREVA
DJ HAZIME(でぃーじぇーはじめ)
DJ HAZIME

1990年代初頭から活躍するクラブDJ。DABOやNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのライブDJとしても知られている。またプロデューサーやリミキサーとして、K DUB SHINE、SPHERE OF INFLUENCE、安室奈美恵、PUSHIMなどを手がけた。2002年にはジェイ・ZのレーベルROC-A-FELLAのオフィシャルミックスCD「DJ HAZIME presents ROC-A-FELLA MIX」を発表したほか、人気ヒップホップ系クラブHARLEMのオフィシャルミックスCD「"HARLEM ver2.5"Mixed By DJ HAZIME」などの制作も担当した。2010年からはManhattan Records企画の日本語ラップミックスCDシリーズ「Manhattan Records The Exclusives Japanese Hip Hop Hits」の制作に参加。2013年8月には同シリーズ最新作「Manhattan Records The Exclusives Japanese Hip Hop Hits Vol.3」をリリース。