ナタリー PowerPush - 家の裏でマンボウが死んでるP

タカハシヨウ×大槻ケンヂ

ボカロとボーカリストの幸せな出会い

マルチな表現に向かう理由は音楽に対するコンプレックス

──これは大槻さんにも言えることなんですけど、タカハシさんがアルバムに小説を付けたように、お2人の表現活動ってちょっと不思議なんですよ。お互い、きっちり音楽を作れる、つまり音楽の世界でも十全に表現活動ができているのに、なぜ別の表現手段である文芸に向かうんだろう、って。

大槻ケンヂ

大槻 僕の場合は歴然と、音楽ができないっていうコンプレックスがあるから。楽器もできないし、音譜も読めない。そういう人間がたまたまバンドで世に出てしまって、このあとどうなるんだろう?っていう不安がずっとあったんです。それでタレント業をやったり、役者をやったり、小説を書いたり。自分探しをしてたの(笑)。インドにも行ったしね。

タカハシ あはははは(笑)。

大槻 で、明らかに失敗したものもあるんだよ。例えば俳優業は明らかに向いてなかったし、タレント業も一時期すごいやらせてもらったんだけど、やっぱりちょっと違うなってなったり。いろいろこう自分の中で淘汰を繰り返した結果、バンド業のほかには小説とかエッセイが残ったって感じなんだよね。

──タカハシさんはなぜ「クワガタにチョップしたらタイムスリップした」という小説を発表したり、今回のアルバムに小品を添えたりしたんですか?

タカハシ 大槻さんと共通しているんですけど、音楽に自信がないんです。

大槻 いやいやいや、何を言うかね(笑)。

タカハシ いやいやいや、ホントに歌詞がウケただけの人間なんですよ。

──でもトラックメーカーであると同時にギタリストでもありますよね。

タカハシ 「まあ弾いてます」って感じですね。だって今回のアルバム収録曲の中に、1曲分のギタートラックを録るのに700回くらい弾いてる曲もありますから。あまりにヘタすぎて。ボカロPの中には元バンドマンも多いんですけど、皆さん、すごく技術があるんですよ。高校の軽音楽部でふざけてやってたバンドの曲をボカロでセルフカバーしていた僕とは全然違う。僕はそのふざけた歌詞だけがウリだったので、こと音に関してはボカロPの中でも全然ダメなほうだという意識があって。ただ逆に文章だけで目立ってきたっていう自信はあったので「だったら小説も書かせてください」ってなった感じですね。

大槻 今後それでなんちゃら賞とか獲ったら大変なことになるよ。その可能性だってなくはないんだから。

──大槻さん自身、星雲賞を獲ってますけど、文学賞を獲るとやっぱり状況って変わるものですか?

大槻 状況が変わるっていうよりも本人が変わる可能性があるんですよ。吉川英治文学新人賞の候補になったことがあるんだけど、あれはホントに獲らなくてよかった。獲ってたら絶対勘違いして直木賞を真剣に狙ってたと思う。でも文学や文芸の世界ってホントに大変だから、きっと潰れてたでしょうね。

ボカロと生身のアーティストをつなぐ先駆けに

──では今後、家の裏でマンボウが死んでるPはどのように活動していけばいいんでしょう?

大槻 すごく俗っぽい話になっちゃうんだけどさ、ロックを始める多くの人の中にはモテたいっていう気持ちってある。でもボカロの人ってそういう気持ちで始める人ってまずいないと思うんだよね。

──タカハシさんがボカロPを始めた頃ってマーケットやシーンなんてなかったから、モテたいとか、売れたいとか思いようがないですよね。

大槻 うん。ホントに自分を表現したいっていう気持ちだけで始めたはずなんだよ。メジャーデビューしたり、人気者になったり、そんな付加価値が付くとは夢にも思ってなかったと思う。

タカハシ ホントにそうなんです。今でも個人的にはボカロPをやったからって人気者になれるとは思ってないですから。それは僕の周りも意外とそうで。今回大槻さんとご一緒させていただくことになったら「大槻さんとなんかご一緒できるの!?」ってビックリしながらうらやましがるPがいっぱいいましたから。でも実際のところは、今や大槻さんみたいな人も僕らを構ってくれる状況ができつつある。だから僕が大槻さんと組んだのを見て「僕も大槻さんと共演してみたい」って感じでボカロを始めてくれる人がいたらいいなって思うんです。

大槻 逆にボーカリストの側が「このボカロPと組みたい」って言い出すような現象が起きたりしてほしいよね。僕自身“初音ミクさん”と共演してみたいし。っていうかね、日本っていつも、自分たちが画期的な発明をしていることに気付かずに外国に出し抜かれるんだよ。絶対英米とかフランスとかから出てくるんですよ。生バンドとボーカロイドが一緒になったユニットがある日突然「フジロック」とかで来日するんだよ。で「あれっ!? それってウチ発信じゃん!」ってなるのが日本って国なんです。だから今、ボカロPも「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」とかに出てるけど、もっともっと出るべきだと思うよ。

タカハシ 大槻さんみたいな大御所にそう言っていただけるとホントに勇気づけられるし、だからこそみんなもやってみたらいいよ、って思うんですよね。

大槻 だからね、裏マンPは今後はそういうボーダーレス化の先駆けを目指すべきなんじゃないかな。そういう存在になれたら、そんなにうれしいことはないはずだから。

左から、大槻ケンヂ、タカハシヨウ。
ニューアルバム「壊れた世界で花を抱く」 / 2013年9月25日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
ニューアルバム「壊れた世界で花を抱く」 / 初回限定盤
初回限定盤 [CD+DVD+小冊子] / 2970円 / VIZL-579
初回限定盤(※Amazon.co.jp限定)[2CD+DVD+小冊子] / 2970円
通常盤 [CD] / 2200円 / VICL-64063
CD収録曲(全仕様共通)
  1. オーロラは毛穴が開いてるだけじゃなかった
  2. ボイスドラマ「壊れた世界で不覚を取る」
  3. 地底人が見せた抜群の生活感
  4. 浮かれバケモノの朗らかな破綻
  5. ボイスドラマ「壊れた世界で度が過ぎる」
  6. 宇宙人に菓子折りを包まれる
  7. 次元跳躍シャンプーハット
  8. ボイスドラマ「壊れた世界で匙を投げる」
  9. 風が吹けば人類が終わる
  10. 星のとなりの空け者 ~彦星~
  11. 星のとなりの空け者 ~織姫~
  12. 星のとなりの空け者 ~カッパ~
  13. ボイスドラマ「壊れた世界で神は知る」
  14. その魔王はまるで恋する乙女のように
  15. ヒーロー
  16. さくら
初回限定盤 DVD収録内容
  1. 地底人が見せた抜群の生活感
  2. 浮かれバケモノの朗らかな破綻
  3. 次元跳躍シャンプーハット
  4. 風が吹けば人類が終わる
  5. 星のとなりの空け者 ~彦星~
  6. 星のとなりの空け者 ~織姫~
  7. 星のとなりの空け者 ~カッパ~
  8. その魔王はまるで恋する乙女のように
  9. さくら
Amazon.co.jp限定特典 CD収録内容
  • セカンドアルバム「壊れた世界で花を抱く」ボイスドラマBGM & キャストトーク
家の裏でマンボウが死んでるP
(いえのうらでまんぼうがしんでるぴー)

家の裏でマンボウが死んでるP

音楽を担当するタカハシヨウと、絵師の竜宮ツカサによる姉弟ユニット。タカハシヨウが2009年にニコニコ動画に発表した「家の裏でマンボウが死んでる」が注目を集め、その後も意味不明なタイトルから想像できない感動的な歌詞世界と、ボーカロイドの特性を生かしたハイテンションかつキャッチーなサウンドでニコニコ動画ユーザーを中心に人気を獲得する。2012年4月にSPEEDSTAR RECORDSよりアルバム「My Colorful Confuse」でメジャーデビュー。2013年9月25日にメジャー2ndアルバム「壊れた世界で花を抱く」を発表する。なお音楽活動にとどまらず、家の裏でマンボウが死んでるPとしてWEBコミック配信サイト「ガンガンONLINE」でマンガ「浮かれバケモノの朗らかな破綻」を連載しているほか、タカハシヨウは小説の執筆やマンガの原作など多角的に活躍している。

大槻ケンヂ(おおつきけんぢ)

大槻ケンヂ

1966年東京出身の男性シンガー / 作家。中学の同級生だった内田雄一郎と筋肉少女帯を結成し、1988年にアルバム「仏陀L」でメジャーデビュー。不条理かつ幻想的な詩世界と卓越した演奏力で、独自の世界観を確立する。またバンド活動と並行して、小説やエッセイを執筆。青春小説「グミ・チョコレート・パイン」は2007年に映画化され、話題となった。また1995年にはソロアーティストとして、アルバム「ONLY YOU」をリリース。1999年には新バンド・特撮を結成し、精力的なライブ活動を展開する。2006年に筋肉少女帯が再活動。現在はバンドやソロなど、さまざまな活動を行っている。