ナタリー PowerPush - 家の裏でマンボウが死んでるP
人気ボカロPがユニットに進化 知られざる姉弟関係を暴く
アナタにわからないなら、私にもわかりません!
──お互いのことを認め合っているんですね。
竜宮 ただ任せられている分、困っちゃうこともあって。例えば「粘着系男子の15年ネチネチ」って曲の中に「AMPA型グルタミン酸受容体」って歌詞があるんですけど、どれだけ検索してもなんなのかさっぱりわからなかったり。あの単語はどこから出てきたの?
タカハシ 大学の講義で習った。外界や体内から受け取った刺激を神経細胞が情報として扱えるように変換する「受容体」の中でも、特に記憶や学習に関係しているのが「AMPA型グルタミン酸受容体」で、これが壊れると記憶障害が起こるらしいんです。「粘着系男子の15年ネチネチ」は主人公が記憶を失う曲だから、ちょっと掛けてみました(笑)。
竜宮 ほかにも「クワガタにチョップしたらタイムスリップした」に出てくる「現代生け花みたいな髪型の警官」っていうのも意味がわからないし。だいたい「次の曲はタイムスリップものだから」って言っておいて、持ってくるタイトルが「クワガタ」だの「チョップ」だのっていうのもね。
タカハシ あれ、なんなんだろうね?
竜宮 アナタにわからないなら、私にもわかりません!
──そういうボキャブラリーってどうやって獲得してるんですか?
タカハシ AMPA型グルタミン酸受容体を講義で知ったように、日々の生活の中で出合った面白そうな単語をメモしています。その中からタイトルやテーマにハマりそうなものがあれば使っていくって感じですね。ただ、これもマンボウの由来と一緒で、うまく説明できないし、したくないんですよ(笑)。
オレはもっとお金が欲しいんだっ!
──姉弟ならではのコラボレーションから産み出される楽曲と映像が爆発的な人気を誇るようになって、心境に変化ってありました?
タカハシ 「マンボウ」を発表して1年くらい経って、着うたやカラオケで曲が配信されてお金をいただくようになったあたりから、ちょっと心構えが変わりましたね。実際にお金を手にしてみたら「オレはもっとお金が欲しいんだっ!」ということに気付いてしまい……。
竜宮 へっ!? ちょっと、何言い出すの?
タカハシ 以前はやりたいようにやってたんですけど、それから1年半くらいは試行錯誤の連続でした。「こういう曲を書けば売れるんじゃないか?」「シーケンサーのこのボタンを押せばもっと金が出てくるんじゃないか?」とか。
──あはははは。要するに、より一般性の高い作品を目指すプロ、職業作家的なマインドで楽曲制作に取り組むようになったってことですよね。
竜宮 そうですそうです! そういうふうに言おうよ、ねっ?
タカハシ そう言えば良かったのか(笑)。でもマジメな話、より多くの人が耳にする機会が増えてからは、自分の作風や雰囲気を守りつつも、聴いている人により楽しんでもらえるように、って意識するようにはなりましたね。
──具体的にはどういうことを心掛けました?
タカハシ やりすぎない!
竜宮 あれでやりすぎてないの!?
タカハシ うん。ヘンな詞と曲の、いわゆる“ネタ曲”をずっと作ってると、だんだんその空気に慣れてきちゃって「もっとヘンなことを」「もっとヘンなことを」ってヒネりすぎるようになっちゃうんですよ。そして、結局、誰にも聴いてもらえないし、面白くもない"ただのヘンな曲"が出来上がっちゃう。だから、その領域までいかないように「これ、ちょっとベタかな」って思えるくらいに仕上げるようにはしています。実際、そう心掛けて作った曲のほうが受け入れてもらえている印象がありますし。
ツッコミどころを作っておくと面白がられる
──竜宮さんは、それこそ作品がお金になり始めてから作風に変化は?
竜宮 いや、ヨウがそこまでお金にこだわっていたことにビックリしてます……。ただ、わたしも、何回か映像を作っていくうちにわかってきたことがあって。
──なんですか?
竜宮 「映像にツッコミどころを作っておくと面白がってもらえるんだな」っていうことですね。ニコ動って皆さんが観ながらコメントできるじゃないですか。例えば、画面の隅にヘンなキャラクターを置いておいたりすると「おいっ、今、なんかいたぞっ!」ってツッコミを入れてみんなで楽しんでくれるんですよ。なので、毎回必ずどこかしらに「えっ、何今の!?」っていう、もう1度再生したくなるようなシーンを入れるようにはしています。過去に登場したキャラクターをもう一度登場させてみたり。
タカハシ なんかちゃんとしたこと言ってる!
竜宮 そうだよ。君がさっきみたいな調子だと、私の言ってることが建前みたいに聞こえちゃうんだから。ちょっと抑えようぜ、なっ?
タカハシ ……はい。
CD収録曲
- 家の裏でマンボウが死んでる
- 神様はエレキ守銭奴
- 誕生日、ペペロンチーノにやさしくされる
- へし折れろ、君の心
- 消火器がダンディーで気が利く場合
- おでこに生えたビワの性格が悪い
- おニューのかさぶた、ペットに食われろ
- 筋肉痛駆け落ちの滑稽な結末
- My Colorful Confuse
- ウヒヒ!脱穀しそこねた!
- キッチンでカッパがタニシ茹でてる
- 粘着系男子の15年ネチネチ
- クワガタにチョップしたらタイムスリップした
初回限定盤DVD収録内容
- クワガタにチョップしたらタイムスリップした
- 神様はエレキ守銭奴
- 筋肉痛駆け落ちの滑稽な結末
- おでこに生えたビワの性格が悪い
- 消火器がダンディーで気が利く場合
- My Colorful Confuse
- 粘着系男子の15年ネチネチ
初回限定盤封入特典
数量限定の初回限定盤には「ビックリ!マンボウシール」2枚 &「クワガタにチョップしたらタイムスリップした」イラストノベルが封入。どちらも竜宮ツカサが描き、タカハシヨウが書く、プレミアムな内容。
家の裏でマンボウが死んでるP
(いえのうらでまんぼうがしんでるぴー)
音楽を担当するタカハシヨウと、絵師の竜宮ツカサによる姉弟ユニット。タカハシヨウが2009年にニコニコ動画に発表した「家の裏でマンボウが死んでる」が注目を集め、その後も意味不明なタイトルから想像できない感動的な歌詞世界と、ボーカロイドの特性を生かしたハイテンションかつキャッチーなサウンドでニコニコ動画ユーザーを中心に人気を獲得する。2012年4月にSPEEDSTAR RECORDSよりアルバム「My Colorful Confuse」でメジャーデビュー。