ナタリー PowerPush - 牧野由依
世の中を明るく照らすポップの魔法 牧野由依×EPOガールズトーク
牧野由依の歌手デビュー5周年記念シングル第2弾としてリリースされる「お願いジュンブライト」。この曲は資生堂「エリクシールホワイト」のCMソングとしてこの春よりオンエアされ、印象的なメロディと楽曲タイトルにもなったフレーズが大きな話題を集めている。
ナタリー2度目の登場となる今回のインタビューでは、「お願いジュンブライト」の作詞・作曲を手がけたEPOにも同席してもらい、ポップな楽曲の裏に隠れた意外なレコーディング秘話から、ざっくばらんなガールズトークまで、たっぷりと語ってもらった。
取材・文/臼杵成晃・唐木元 インタビュー撮影/中西求
資生堂×EPO×牧野由依
──今回のCMとシングルに関するお話を聞いたとき、まずは牧野さんとEPOさんという新鮮な組み合わせに驚きました。そもそもどのようなきっかけで?
牧野由依 もともとは別々のルートで、私は資生堂さんのCMプランナーの方からお話をいただいたんです。EPOさんはEPOさんで前のシリーズも手がけていらっしゃって。
EPO 土岐麻子さんが歌った「Gift ~あなたはマドンナ~」を作らせていただいてて、その縁で引き続き。
牧野 私はオーディションだったんですけど、そのオーディションはなんだか不思議な……ヌルッとしたオーディションで(笑)。
──ヌルッとしたオーディション?
牧野 「これからオーディションですよ!」って宣言されていた感じではなく、でも本決まりというわけでもない、微妙な。その後「決まったみたいよ!」って連絡があったのが、ちょうど冬のワンマンライブの帰り道で、みんなで車の中で大喜びしました。それから「この曲をシングルで出しましょう」という話になったんですけど、まさかEPOさんと一緒にお仕事できるとは。
──昨年、シングル「ふわふわ」リリース時のインタビューでは、牧野さんのお父さんが音楽の仕事をされているという話を聞きました。お父さんもCMソングを手がけていらっしゃるから、今回はその縁なのかなと思っていたのですが。
牧野 いえいえ。デビューしたあとは、父はもう全然かかわってないんですよ。お話をいただいたときは「資生堂さんがなぜ私……?」って思いましたけど、どうやらCM制作会社のプロデューサーさんが「牧野由依という子がいて、声優の仕事もしていて、ピアノも弾いてっていう経歴も面白い」と興味を持ってくださったみたいで。
──おふたりはこれが初顔合わせですよね。
EPO ええ。最初、牧野さんに会う前に「声優さんで、こういう方で」って話を聞いたときは、すごく面白そうだなって思いました。声の仕事をしてる人だし、自分が思ってるイメージをどういうふうに表現してもらえるのかなっていう興味がすごくあったのと、やっぱ彼女の声の魅力? そこは本当にベストマッチだったなって思いますね。
──実際の声を耳にしてどういう印象を持たれました?
EPO えへっ、もう最初から「きゅーん!」って感じで(笑)。デモ録音の音源が届いたときに、歌ってらっしゃるビデオも付いていて「すごくいいなぁ」って思ってたんですね。私、CMの音楽をやるときは(サビだけじゃなく)1曲まるまる作っちゃうんですよ、最初から。去年の12月には大体できあがってたんですけど、牧野さんが歌われると決まって、しかもシングルになるというのを聞いて、あらためてキチンと仕上げました。レコーディングではボーカルのディレクションも彼女と一緒にやらせてもらえて、私にとってはすごく楽しいプロセスでしたね。
3月11日のレコーディング
──正式なレコーディングにあたって、EPOさんからはどういう指示やアドバイスを?
牧野 「好きなように歌って」っていう。あはははは(笑)。
EPO まずはね。どうしようこうしようって考えてない、自由にポンと出た一番初めのバージョンが、最終的にものすごく良い味をいっぱい含んでるっていうことを経験してきたので。その大事な1stテイクを絶対に録っておきたかったから「とにかく何も考えないで自由にやってみようか」というところから始まったんです。
──オーディションのときのテイクは残ってるんですか?
牧野 コマーシャルで流れてるのがそうですよ。
EPO レコーディングのバージョンは、1stテイクからもう万全の音質でやれるように綿密にサウンドチェックして「バッチリ録っといてくださいね!」って(笑)。それでね、やっぱりすごくいっぱい入ってるわけ。美味しいところが。1stテイクからたくさん使ったもんね。
牧野 そうですね。
──セレクト(複数の録音の中から必要な部分を抜き出して1曲分にまとめる作業)にも立ち会われたんですか?
EPO ええ、もちろん!
牧野 もうずーっと一緒にいていただいて。仮歌のときもそうだし、「う・ふ・ふ・ふ」(シングルカップリング曲。EPOのカバー)のときも。短期間でEPOさんと一緒にいさせていただく時間が長かったのでずいぶん経ったような気がしますけど……実際はつい1、2カ月前なんですよね(笑)。
EPO ね。実はこの歌入れは3月11日……地震の最中で。よくがんばりましたよ、本当に。ボーカリストって気分とかムードに声帯がすごく反応するので、普通だったらもう立ってられないと思うんですよ、あの揺れの中で。それでもしっかり最後まで、根気強くやりましたもんね。
牧野 集中力が逆に普段よりもグッと入って。「数本しか録らない!」みたいな感じで、録ってる本数もいつもの半分ぐらい。でも、そんな中で1本だけ「記念に」と思って、EPOさんがロビーのテレビで震災の状況とをご覧になられてる間に「ちょっと1本だけコソ録りで、記念に歌っていいですか?」って言って、EPOさんがいらっしゃらない間にサーッと歌ったんですよ。結局バレてましたけどね。えへへへ(笑)。
EPO でもそれもね、すごくよかったんですよ。そこからも結構使ってるはず。
──そのコソ録りは何かテーマがあったんですか?
牧野 歌ってるときに緊張でグーッと上に力が上がってきてしまうのを、足をダンダンダンダンってやって下に落とす、というコントロール法をEPOさんに教えていただいて、それからずっとやってるんですけど……。
EPO だんだんここ(頭のあたりを指しながら)で考えてくるようになるんで、エネルギーがグッて上がっちゃうんですね。それで横隔膜が上がってくると歌いにくくなるんで、なるべく足にガーっと、足を意識してエネルギーを下に下げて歌うと、空気もいっぱい入ってくるし、体で歌えるっていう状態になるんですよ。
牧野 そういう教えていただいたことを全部やって、靴を脱いで放り投げて、その状態で好き放題に何も考えずに歌うっていうのをちょっとやってみたんです。それで「もう私やりきりました」って言って、サーッと戻って(笑)。
EPO いいテイクだと思いますよ。
──しかし、そんな大変な状況でレコーディングされたものだとは。
牧野 ブースの中に入ってると良くも悪くも外の世界がわからないんですよ。すごく幸せな曲なので、曲の世界に入っちゃうと幸せな気分になれるんだけど、揺れがきて一歩外に出ると「あぁ、普通じゃないんだな」って思ったり……。でも、こんなに幸せな気持ちでレコーディングに臨めたのは初めてかもって思うぐらい、すごく濃密な祝福のときだったので、それが伝わる1枚のシングルになってくれたらうれしいなぁ。
牧野由依(まきのゆい)
7歳で岩井俊二(映画監督)に才能を見出され、同監督の大ヒット作品「Love Letter」「リリイ・シュシュのすべて」「花とアリス」3作品に、8歳から17歳にかけてピアニストとして参加。2005年にシンガーデビューを果たし、同年には声優としての活動もスタートさせた。 2008年春に東京音楽大学ピアノ科を卒業し、2009年には事務所およびレコード会社を移籍。アーティストとして新たな第一歩を踏み出した。2010年3月3日にEPICレコード移籍第1弾シングル「ふわふわ♪」をリリース。
EPO(えぽ)
1980年に3月にシュガー・ベイブのカバー曲「DOWN TOWN」でメジャーデビュー。テレビのテーマソングやCMソングなどを数多く手がけ、「土曜の夜はパラダイス」「う、ふ、ふ、ふ、」などのヒット曲を世に送り出した。1987年にはVirgin UKと契約し、一時ロンドンを拠点に活動。1990年代には、妊婦のための胎教ライブや高齢者対象のライブ、童話の朗読とライブの融合など、ポップスのジャンルを超えた独自のパフォーマンスに積極的に取り組み始めた。2004年にはカウンセリングスタジオ「MUSIC & DRAMA」を開業し、現在はアーティスト活動と並行してセラピストとしても活躍している。