ナタリー PowerPush - 牧野由依
レーベル移籍で新境地 等身大ラブソング「ふわふわ♪」
牧野由依×岩井俊二の“リアル感”
──ビデオクリップについても聞かせてください。子供の頃から知っている岩井俊二さんと、ついにご自身の作品で一緒にお仕事をすることになったわけですよね。岩井さんとの対面は久しぶり?
高校2年生以来ですかね。でもメールは年に1~2回、本当に意味もなく送って意味もない感じで返ってきてみたいなやりとりはあったんですけど、こうやってまさかお願いすることになるとは。それも自分で「一生のお願いです! 撮ってください!」って(笑)。そしたらお電話をいただいたんです。「いやいやいや、全然撮るよ」「スケジュールどうなのよ」ってすごくラフな感じで決まって、あとはもうスタッフさん同士でスケジュールの問題ですねーみたいな。
──結構あっさりと決まりましたね。
監督は今ロスに拠点を置かれているんですけど、たまたま日本でお仕事されているときにスケジュールが取れる! というので、撮ってもらった感じです。2ndアルバム(「マキノユイ。」2008年3月26日発売)のときにCDをお送りしたり、「歌をやってますよー」っていうのは前々からちょっと匂わせてたんですよ。いつかビデオクリップを撮ってもらいたいなとは思ってたんですけど、今回はいい転換期というか「このいい節目に監督に撮ってもらわないで誰に撮ってもらうんだ!?」みたいな感じが自分の中で芽生えて、お願いしてみました。この「ふわふわ♪」の世界を監督ならどう描いてくれるのかなっていう興味がすごく強くて。
──では映像に関しては完全に岩井さんのアイデアで?
はい、おまかせですね。電話で連絡は取り合ってたんですけど「なんか……雑貨屋っていいと思わない?」ぐらいの会話で(笑)。
──そんなざっくりしたところから(笑)。岩井さんはこの曲の感想をどんなふうに話してましたか?
一番最初は、たぶん本当に親目線みたいな感じなんでしょうけど……「こんな恋愛してんの!?」って(笑)。「いや、まぁ……。えっ、なんでですか?」って聞いたら「そんな男やめたほうがいいよ!」って言われました。
──7~8歳の頃から知ってるんだから、親戚の子ぐらいの気持ちで見てますよね、きっと。それはこの歌詞を読めば心配にもなりますよ。
「そんなダメだよ!!」って、ストレートな意見をもらいました(笑)。「これ、結構すごい詞だよね」「いやそうなんですよー」っていうお話をして。笑っちゃいましたね。監督がそんなこと言うんだーみたいな。
──結果的により生々しさを強く伝える映像に仕上がっている気がします。これまでの牧野さんの音楽を聴いていたファンの人なら結構びっくりするんじゃないかと。
そうですね。インパクトはかなり強いと思います。
──それは狙いどおり?
そうですね。この歌は“リアル感”というところで監督の作品と通じる部分があったと思うので。あとはやっぱり映像の柔らかさ。ああ、岩井監督だなって安心できるような。監督の映像は私が何かを表現するときの原点なので、すごく安心感がある中でこの曲を出せることがうれしいですね。
──撮影はどんな雰囲気でしたか?
撮影は全部アドリブだったんですよ。お相手役をしてくださった郭智博さんも私もアドリブはすごく苦手で。監督からも特に「こういう流れでこうなって」という細かい指示はそんなになくて、ざっくりなんですよ。その中で「じゃあ適当に会話して」みたいな感じなんだけど、それがお互いの気持ちを探り合ってるたどたどしさだったり、周りが見てるとイジイジするような感じがすごく出てて、それもいいのかなと思ったり(笑)。自分が困ってる姿が映像として残っているので、ちょっと恥ずかしいなと思うところもありますけどね。
牧野由依(まきのゆい)
7歳で岩井俊二(映画監督)に才能を見出され、同監督の大ヒット作品「Love Letter」「リリイ・シュシュのすべて」「花とアリス」3作品に、8歳から17歳にかけてピアニストとして参加。2005年にシンガーデビューを果たし、同年には声優としての活動もスタートさせた。
2008年春に東京音楽大学ピアノ科を卒業し、2009年には事務所およびレコード会社を移籍。アーティストとして新たな第一歩を踏み出した。2010年3月3日にEPICレコード移籍第1弾シングル「ふわふわ♪」をリリース。