槇原敬之|ほとばしる愛を詰め込んだマッキーの成分表

一度くらいおしゃべりしてみたかった

──ここからは、新たに録音された2曲についてお聞きします。まずはフジファブリックの「若者のすべて」です。

槇原敬之

東京で花火大会があった日に、たまたま車の中で流れてきて、そのとき初めてこの曲を聴きました。フジファブリックは知っていたんですけど「若者のすべて」は知らなくて。「すごくいい曲だなあ」と思って、それから車内でこればっかり聴いていましたね。しかし残念なことに僕が知ったときには、曲を作って歌われていた志村正彦さんがお亡くなりになられていましてね。こんなことを言うと彼のファンの方がどう思うかわかりませんけど、こんないい曲を残した人と「一度くらいおしゃべりをしてみたかったな」と思いましたね。

──楽曲名の表記が「若者のすべて ~Makihara Band Session~」となっていますが、これはどうしてですか?

「Listen To The Music 3」を作ったときにライブをやろうよという流れになり(参照:槇原敬之、敬愛する名曲カバー&ヒット曲尽くしツアー完走)、当時のバンドメンバーに「この曲もやってもらえますか?」とお願いして、実はそのセッションの音にシンセを足したりして完成したのが今回のものなんです。

──だからこうしたサブタイトルなんですね。

そうなんです。ともかく「若者のすべて」を嫌いな人はいないんじゃないかと断言したいくらいです。もう、カタルシスの塊みたいな曲。この歌のような経験をしたことがない人でも、こういう経験をしたことがあるような気分になるというかね。そして、この若々しい歌を50歳の僕が歌ってしまいました(笑)。

YUKIさんとは住んでいる星が違う

──YUKIさんの「聞き間違い」との出会いは?

この曲は柔軟剤のCMで使われていたんですよ(花王の衣料用柔軟剤「フレアフレグランス」)。それをたまたまテレビで観ていて「ん? いい曲だなー」と感じて。いい曲だと思ったときにはCDを買うことにしていまして、全貌を聴いてみたらすごくいい曲であることがわかって、自分のラジオ番組でもかけたんです。

──そこからカバーするに至った経緯はなんですか。

先ほどの「若者のすべて」のように、僕は好きになるとその曲をずーっと聴いてしまう性質で、「聞き間違い」も新幹線の中でひたすら聴いて泣きそうになってきてね。自分の音楽を作るのに精一杯になっているときこそ、こういう音楽で「うわあ、泣きそう」と思う経験が、とても貴重なんですよね。もともと女の子が歌っているものではあるんだけど「ちょっと自分にも歌えそうだな」と思ったので、もっとみんなにこの曲を知ってほしいという思いから、今回カバーさせていただきました。

槇原敬之

──具体的にどういうところに魅力を感じましたか。

まず歌詞が素晴らしい。こういうのは僕じゃ書けないです。「素直で明るいだけで人には価値がある」ということを「誰でもいい もう少し早く教えてよ」と歌ってる部分があるのですが、それを聴いたとき、YUKIさん自身はこういう言われ方は好きじゃないかもしれないけど、「まさに天才!」と思いました。住んでいる星が違うというか、それほど僕とは感性が違うし……だからこそ、素晴らしい作品との出会いは僕にとって大きな喜びなんです。こういう作品を聴くと、まさに生きててよかったなと思うんですよ。

──カバーは自分の成分表という発言もありましたが、もっとみんなに知ってほしいというのも動機の1つのようですね。

それはあります。「だったら何も、お前がわざわざ歌わずに、オーガナイザーとなって紹介したい曲のコンピレーションを作ればいいじゃないか」というご意見もあるでしょうが、いい曲を聴けばうずうずしてきて「カバーしたい! 歌いたい!」みたいなことにもなりますのでね。