槇原敬之|50歳を目前に放つ言葉の魔法

槇原敬之

アルバムの1曲目は絶対これだ!

──最近インタビューしたあるラッパーが言っていたんですが、自分の歌詞には韻のためだけに出した言葉や自分でもよくわからない言葉はなくて、すべて説明できるって。

わー、鳥肌が立ちました。すごく共感します。説明できるっていうのは僕もすごく大事だと思っていて。詞はもちろん、なんでこういうアレンジにしたのか、この音が入ってるのかということが、全部ちゃんと自分の中で説明がつくかどうか。それが絵でいうところのデッサンが描けるかどうかだと思うんです。なんとなくのムードで曲を作ってないっていう。

──槇原さんもまさにそういうタイプですよね。聴いていると「すべて理由があってこうなっているんだろうな」と思えます。

うれしい! よかった。僕たち音楽家って何が一番怖いかというと、「Design & Reason」というアルバムを作ってはみたものの……どのアルバムもそうなんですけど、作品に込めたメッセージが聴き手に伝わらないと意味がないんですよね。言ってることがなんじゃらほいってなると、ただの自己満足で終わってしまうので。もちろん突き詰めればなんだってそうなんですけど、俗に言う自己満足と、限界まで突き詰めたこととはちょっと違う気がしていて。

──わかります。このアルバムも、タイトル通り巧みにデザインされていると思いました。1曲目の「朝が来るよ」がイントロダクションというか目次みたいになっていて、ここで提示したテーマを2曲目以降で1つひとつ説いていくような構成になっていると思ったんです。

その通りです! 当たってます。

──よかった(笑)。

実を言うと、1つ前のアルバム「Believer」を作っていたときに、イントロダクションとして入れたかった断片的な歌詞があったんですけど、これは次のほうがいいかもしれないなと思って取っておいて、今回完成させたのが「朝が来るよ」なんですよ。

──なんと! 取っておこうと思われたのはなぜですか?

まだ言い切れないなと思ったんです。本当に自分が歌える、わかるって思わないと書けないので、思い浮かんでも言い切れないことは平気で1、2年寝かしちゃったりするんですよ。いい感じの言葉を持ってきても、それはただの“いい感じの言葉を持ってきた歌詞”になっちゃう。それってバレるんですよね。

──すごくわかります。

やっぱりそこには理由がないといけないし、決意もないといけない。今回やっと、「このアルバムの1曲目は絶対これだ!」と思えたので頭に入れて、あとは時系列で並べていきました。既発曲の「どーもありがとう」「記憶」だけは違いますけど。

──えっ、曲を作った順番なんですか。それでこの流れ?

物語を頭から書いていったような感じです。そのほうが辻褄も合うので。あと、難しいことは同時にできないから、1曲ずつ書いていくみたいな(笑)。だから次に「だらん」を書いて「In The Snowy Site」を書いて……って。レコーディングもその順番で、「Design & Reason」は最後に作りました。その間、僕のTwitterで「今はこれを作ってるよ」ってつぶやいて、みんなで共有していったんです。アルバムができてからツアーまで間がないので、一緒に作ってるような気持ちになってもらえれば、多少なりとも埋め合わせになるかなと思って。あの時系列がそのまま曲順になっているんです。

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すべては神様と一緒に企てたこと

──とても印象的なのが、「2 Crows On The Rooftop」と「Design & Reason」が対になっていることで、自分の境遇は良かれ悪しかれ自ら選んだものなんだ、とおっしゃっていますね。これって考えようによってはすごく厳しい認識だと思うんです。それを持ちながら生きるのはしんどかったりしませんか?

いや、逆です。というのは、僕は輪廻転生をテーマにずっと歌詞を書いていて「人がもし生まれ変わるなら」っていうところをいつも考えているんです。よく「誰かのせいにしたほうが楽なんだけど」って聞きますけど、僕は反対に「誰かのせいにしてしまったら、永遠に答えが出ないままだよね」って思うんです。それに、その誰かが動いてくれないと答えに近付けなかったりするじゃないですか。

──確かに、そのほうがかえって苦しいかもしれませんね。

どんなことも全部想定内だと思って生きていたほうが、びっくりするようなことが起こっても受け入れていけるんじゃないかと思って、「起こったことにはすべて理由がある」という考え方をしてるんです。例えばこの顔で生まれたことだって、自分には選択の余地がなくて「このおっちゃんとこのおばちゃんが愛し合ったからこういう顔で生まれたんだ」と思ってしまうと、どうにもしようがないですよね。

──そうですね、自分では。

ずっとコンサートのMCでも言ってきたんですけど、僕らは想像力をもっと使うべきで、「今の自分がどういうふうにして生まれてきたかをみんな想像してみたらいいじゃん」って最近すごく思うんですよ。

──「ありったけの想像力で 僕は考える」(「Design & Reason」)って歌っていますもんね。

僕は神様と相談して、「この夫婦の間に生まれるならこの顔になるけどいいんですか?」「いいです!」「ピアノを習いに行ってもいじめられますよ。いいんですか?」「いいです!」「いろいろあって最終的には人に歌を聴かせる仕事をやりますよ」「それがやりたいんです!」と、選んで生まれてきたんだと。もし僕が福士蒼汰くんみたいな顔だったら、「もう恋なんてしない」を歌っても説得力がないですよね(笑)。でもこういう普通の人間だからこそ、あるかもねって思ってもらえる。「僕はそれがいいんです」って神様に言ったんだなと考えれば、自分を愛せるなと思ったんですよ。

──そうなんですね。

これから起こるであろうことも、自分が人間として生まれてくるときに、前の自分ではできなかったことをやろう、一歩でも前に進もう、だって神様と一緒に企てたことなのではないか、と。デザインって言葉には“企てる”という意味もあって、「Design & Reason」というタイトルには、「物事の形にはすべて理由がある」ということに加えてもう1つ「神様と一緒に企てたこととその理由」っていう意味も込めてるんです。そう考えたほうが自分を追い込まなくて済むんじゃないかなって。想定内だと思えば「絶対に越えられる」って勇気が湧いてくるというか。

──なるほど。

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よくヤンキーが「生んでくれって頼んだ覚えはねーよ!」って言いますけど、いやいや、あなたが頼んだんだよ(笑)。そう考えれば、この先何か気付かなきゃいけないことがあるって思えるはずです。「気付くことになんの価値があるねん」って聞かれたら、わかんない。価値はないかもしれない。だけど「わざわざ生きる理由を探さなくても済むでしょ」って。例えば誰かの命を奪ったことがあったら、「Design & Reason」の歌詞にも「傷つけられる痛みを 思い知るために すべてを忘れて 僕らは生まれてくる」ってありますけど、今度は奪われるつらさを味わうと思うんですよ。二度と誰かを傷つけないために。「みんながそう思って生まれてきてるって考えたほうが、前向きに生きられるじゃん?」って思うんです。

──槇原さんご自身がそう思いたいというか、そう思わないと苦しい、納得できないことがたくさんあったんでしょうか。

いっぱいありましたね。自分がやっちまったこととか、直せない癖とか、つらいこともたくさん経験したし。だけど、それを人のせいにしてたら、たぶんみんな困っちゃうよねって。僕は何か絶対に理由があるはずだって思う派なんですよ。簡単にいうと、因果応報のシステムで、原因があるから結果の花が咲く。これは絶対に、どんなことにも当てはまるんです。努力したから叶うし、お風呂を出たあと裸でうろうろしてたから風邪を引く。気に入らない結果を手にしてしまったのであれば、そういう結果を生むようなことを自分がやったから。その事実は動かしようがない。で、この考え方がすごくいいのは、気に入る未来を作れるっていう確約なんですよ。不幸が突然どこからか降ってきたと思ったら、計画が立たないじゃないですか。僕もすごくいじめられたりとか、嫌な思いもいっぱいしてきましたけど、当時感じたことが今の仕事に生きてるわけですよ。それはすごく簡単な因果の法則で、僕は人をいじめたくないなって思うことが大事なんだなと。世の中が変わるから個人の境遇がよくなるわけではないと僕は思っていて、世界中の人が不幸だと思って泣き暮れている中でも、自分1人だけ幸せになれる自信があります。なぜならその法則を知っているから。っていうところを、これからの作品にもつながるように、入り口として作っておきたいなと思ったんです。

──「Design & Reason」の歌詞では神様が「心配そうに見つめている」のがいいですね。

そうなんですよ。神様は意地悪しない。僕はそう思ってます。