majiko|ピントを合わせて“味方”へ届ける最新作

憂いと希望を同時に感じさせる歌、ロックやジャズから世界中の民族音楽まで幅広く取り入れたサウンドメイクによって注目を集めているシンガーソングライターのmajikoがメジャー1stフルアルバム「寂しい人が一番偉いんだ」をリリース。「ひび割れた世界」「狂おしいほど僕には美しい」「春、恋桜。」といった既発曲に加え「WISH」(Netflixオリジナルアニメ「7SEEDS」エンディングテーマ)などの新曲も収録された本作は、幅広いクリエイターとのコラボレーションを重ねることで、自らの音楽世界を大きく広げた作品に仕上がっている。彼女曰く「しっかり焦点を絞って制作できた」という本作について、majiko自身に語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 斎藤大嗣

みんなでもう少し明るいところに

──2018年3月に発表したミニアルバム「AUBE」以降もシングル「ひび割れた世界」、5曲入りCD「COLOR」などリリースが続いていて。順調な活動が続いていますが、この1年間はmajikoさんにとってどんな期間でしたか?

majiko

音楽を続けられていることが、まずうれしいですね。「AUBE」を作ったことで学べたこともあったし、それを踏まえて、次を見据えられたのもよかったなって。「AUBE」はバラエティに富んだ作品で、自分の手の内を広げられたんですが、やりたいことが明白に見えなかったかもしれないと個人的には思っていて。もう少し視野を狭めて、ピントを合わせて制作したかったんですよね。

──やりたいことの焦点を絞りたかった、と。

そうですね。私はもともと暗い曲が多くて……というか、私自身が暗くてメンヘラですし(笑)。“暗いところから明るい場所を眺める”という歌を歌いたいんですよね。“晴れてるのに雨”みたいな複雑な感情を表現したいなって。最初の頃は“真っ暗闇で、光がまったく見えない”という曲ばかりで、「CLOUD 7」(2017年2月リリースのメジャーデビューミニアルバム)は、まさにそういう作品だったんです。音楽的にもマニアックで、自分が作りたいものを作るという感じだったかなって。今は“光が見えたほうがいいな”と思うし、誰が聴いてもいいと思える曲にしたいという意識もあるので、そこはだいぶ違いますね。「AUBE」以降ですね、そういう感じになってきたのは。

──その意識の変化には、何かきっかけがあったんですか?

ライブは大きいですね。「AUBE」のライブのとき、ステージで私が語ったことに対して、みんなが頷いてくれたり、泣いているお客さんもいて。私と似たような人たちが集まってるんだなと改めて感じたし、「一緒に暗い場所にいないで、みんなでもう少し明るいところに行きたい」という感覚が強くなってきたんです。以前は「自分の本音を話すと(リスナーに)つっぱねられるかな」と思っていて、心の中にあることを話すことが苦手だったんですよ。でも、それを求めている人もいるんだなとわかってきたというか。私と同じで思いを抱えちゃうタイプの人も多いだろうし、「みんなの代わりに何かを言ってあげたい」という意識は持つようにしていますね。

──リスナーの代弁者になる、と。よく「ファンはアーティストの鏡」と言われますが、まさにそういう関係なんですね。

ホントにそうだなって思います。「味方なんだな」って。もちろん敵だと思っていたわけではないけど、ステージに立つたびに「自分と似ている人たちが聴いてくれているんだな」と感じるので。

──「寂しい人が一番偉いんだ」にも、majikoさんの変化が強く反映されていると思います。まず1曲目の「エミリーと15の約束」は、ボカロPのカンザキイオリさんの作詞・作曲によるナンバーで、「1.寝る前はちゃんと歯を磨いてパパにおやすみと言いなさい。」など、母親から娘に対する15個のメッセージを軸にした楽曲ですね。

歌詞が素晴らしくて、自分の内情に刺さるものがありました。私は母を亡くしているので、母から約束事を言われたこともないし、そのぶん刺さるのかなって。特に“11”は「なるほど」と思いましたね。

──「11.涙は見せびらかしてはいけないわ。弱さは噛みしめるものよ。」ですね。

弱さを見せたくないんですよね。女性というだけでナメられがちだし、泣いてしまったら余計にハンディになるような気がして。意地みたいなものもありますけどね。

──でも、音楽の中では弱さや涙も見せてますよね?

あ、そうですね。曲の中では自由だと思っているし、弱い部分も出しているので。それができるのは曲の中だけで、例えばTwitterでも、全然愚痴とか言わないんです。SNSで愚痴や弱音を吐いている表現者の人がいると「もったいないな」って思っちゃう(笑)。

──「私だったら曲にするのに」って?

そうです(笑)。ライブでも以前は弱いところを見せなかったんですけど、最近はちょっとずつ「素性みたいなものを出してもいいのかな」と思うようになってますね。

majiko

ライブを意識した「MONSTER PARTY」

──アルバムの序盤はライブ映えしそうな曲が続きます。2曲目の「ワンダーランド」はmajikoさんの作詞・作曲によるアッパーチューンです。すごくポップですね、この曲。

聴きやすいメロディ、リスナーの皆さんの懐に入り込めるメロディを意識しました。かなり音が高いし、私にとっても挑戦だったんですけどね。サウンドに関しては、エレクトロスウィングを取り入れていて。5曲目の「パラノイア」もそういうテイストだったんですけど、もう少し攻めた曲にしてみたくて、哲っちゃん(アレンジャーの木下哲)と一緒に作っていったんです。エレクトロスウィングは普段からよく聴いていて好きなので、自分の音楽の中にもこういう路線を持っておきたくて。

──クラリネットのフレーズやスカのリズムも入って、エキゾチックな雰囲気もありますね。

そうですね。こういう曲のフレーズって、頭のネジを外さないと思い付かないところがあって(笑)。言い方がアレですけど、ちょっとバカになって、ギャグっぽい部分を使わないと出てこないフレーズだから、楽しくて難しかったです。

──この曲で描かれている「ワンダーランド」は、理想郷みたいなイメージですか?

理想郷というよりも、みんながいる場所、そこにいるしかない場所という感じですね。“不思議の国”って何だろう?と考えていたんですけど、「見下ろすは日本列島、輝いて」というサビが出てきて、方向性が決まったんです。遠くもなく、近くもない未来が舞台で、汚いものときれいなものが混合していて、なんの疑問も持たずに生きている人もいれば、疑問を抱えている人もいて。

──現実とつながっているわけですね。

そうですね。かなりカオスというか、混沌としているところもありますけど。

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──そして3曲目の「MONSTER PARTY」は高揚感に満ちたパーティチューンです。

これはライブを意識して作った曲なんです。ライブでコミュニケーションを取りたいので、サビで一緒に歌える箇所を組み込んで。私はお客さんに「手拍子してください」とか「声出して」みたいなことが言えないので、曲の中にそういうコーナーを作ってるんですよ。その始まりの曲が「声」(「AUBE」に収録)なんです。あの曲には手拍子の音が入ってるんですけど、ライブでもみんながやってくれて、それがすごくうれしくて。「MONSTER PARTY」もぜひ一緒に歌ってほしいですね。

──言葉で「こうしてほしい」と説明するのではなく、楽曲を介してコミュニケーションを取りたいと。

それが理想ですね。特に“モンパ”は歌詞にそれほど意味がなくて、ただただ盛り上がれるような曲にしたかったので。世界観としては映画の「モンスター・ホテル」に近いんです。ポップなんだけど、ちょっと狂っていて、大好きなんですよ。そのことは一緒にアレンジしてくれた哲っちゃん、菅ちゃん(菅原一樹)にも伝えました。私がやりたいイメージをちゃんと汲み取ってくれるので、すごく助かってますね。私は抽象的な言い方をすることが多いから、理解してもらえるのはすごいことで(笑)。ときにはディスカッションすることもあるけど、それさえも楽しいし、これからもよろしくお願いしますという感じです。