今だからこそ、歌に説得力を持たせることができる
──こうしてベスト盤で振り返ってみると、歌声はもちろん変化していますが、技術的な部分以外で変わったと思うことはありますか?
1stアルバム「bath room」の頃とは取り組み方も変わりましたよね。当時歌声は楽器の1つ、くらいの認識だったので、我を出すことを美徳としていなくて。あえてそうしていたところもあったんですけど、「レインコートと首の無い鳥」「狭い物語」あたりから変わっていきました。曲調の影響もあると思うんですけど、この頃はメンバーの個性とか、人間っぽいところを出していいんだなって気付いた時期で。歌にオリジナリティを出していい、という心構えがだんだん生まれたんだと思います。
──最新曲「Fiction」を聴くと、さらに変化しているなと感じますよね。変化があったという「レインコートと首の無い鳥」ですら幼く聴こえる部分もあるくらいで。
時系列順に聴くと、よりそう感じますよね。アルバム「bath room」を発表した頃は「悲しみの子供たち」や「Fiction」みたいな曲を歌うとは思っていなかったし。
──ライブで歌うとどんな感情になるんでしょうね。
ね。だから早くやりたいんですよね。活動初期の頃にこういう感動的な曲をやっていたら、ウソくさくなってしまったと思うんです。いろんな曲を歌ってきて、説得力を持たせることができるようになったのかもしれないですね。
小さな絶望が詰み重なっていくつらさ
──唐突な質問に聞こえるかもしれませんが、和田さん自身は変なものが好きというわけではない?
変なものですか。
──メインストリームじゃないものを好む傾向にあるのかなと。
確かに普通のポップスとか、流行ってるものにはあんまりハマらないかもしれないです。あえて避けてるとか、変だから好きというわけではないんですけどね。好きなものは流行りものじゃないことが多い気がします。
──もともとサブカルチャー寄りの人だと思うんですが、ブクガの活動自体はマスに開けようとしていると思うんです。そこの折り合いはどうなのだろうかとたまに思うんですよね。
ああ、なるほど。そうですね……それこそ今回のベストアルバムみたいに、キャッチーに振り切ってないけれど、いい曲がこれだけ貯まっていて。マスに開けた曲を歌って、そこに引っかかってくれた人がもっとブクガに興味を持ってくれたとき、「いいな」と感じてもらえる曲が蓄えられたと思います。今の質問、「そういうふうに見えている人もいたんだ」って感じです(笑)。
──ちなみに自粛期間に自分のアイデンティティを考え直したりしました?
アイデンティティかあ。昔から普通の子たちになじめないタイプというか、普通になるのが難しいと思っていたので、こういう仕事をして生きるほうが楽なんですよね。だからアイデンティティみたいなものは、もとからあんまり意識してないというか。でも、家にいると歌えないのがつらくて、自分がどういう声で歌っていたかどんどん忘れちゃうから、自己肯定感がどんどんなくなって。そんなときにまだ完成してない音源の歌声を聴くと、「けっこういいな」と思ってちょっと回復する、みたいなこともあったり(笑)。ツアーが少しずつ延期になって、小さな絶望が重なっていく感じがつらかったです。
──状況が落ち着いたらやりたいことは、ライブ。
そうですね。逆にそれ以外困ってることはないかなって感じです。今はこうして取材をしてもらえるし、撮影もできているし。ブクガのライブは映像だけでは伝わらないと思うので、その空気感を早く共有できるようになりたいですね。
──といったあたりで終わりの時間が近付いてきました。最後にもう少しだけベスト盤のことを聞いておきたいなと思います。
アルバム冒頭の「bath room_」「snow irony_」「lost AGE_」は再録版なんですけど、ライブの歌声と音源の歌声があまりにかけ離れていたので、ライブで気に入ってもらえた人にもやっと聴かせられる音源ができたなと思っていて。
──かけ離れているから再録したというところもあるんですよね。
あと、ある時期からライブでかぶせがなくなったんですけど、それは今と昔で声色が違いすぎるからなんですよ。もちろん私たちが歌えるようになった、というのもあるんですけど、昔の歌に引っ張られちゃって、最近の歌声が披露できないのはちょっと……ってなるじゃないですか。
──まさか最後にかぶせの話題になると思わなかったですけど、確かに昔の歌声に合わせるのも変な話ですもんね。
そうなんですよ。あれはあれで好きな声なんですけどね。4人の子供が歌ってるみたいで(笑)。
──ベスト盤は歴史を振り返るものでもあるけれど、今のブクガにアップデートされている面も大いにあるわけですね。
はい。この5年間でいっぱい曲ができました。「rooms__」も1月のワンマンで披露したものと同じく、ブレイクが長いバージョンになっているので、「∞F」が印象に残っている人にもぜひ聴いてもらいたいです。