ここまできたからこそ、満足しちゃいけない

──ベスト盤のリリースが決まったときはどんなことを思いました?

活動開始から5年くらいでキリがいいと言うか。最初のベスト盤を出すのはこのくらいの時期になると思っていたので、けっこうすんなり入ってきた感じで。レコーディングは新たに録り直した曲で始まって、最後に新曲「Fiction」と「non Fiction」を録りました。

──録り直しでキーが上がった曲もありますよね。

「snow irony_」と「river」(「karma」のトラックに「cloudy irony」の歌詞を乗せた楽曲)ですね。

──年齢を重ねていくうちにキーが低くなることがあっても、上がるパターンは珍しいですよね。

矢川葵

そうなんですか? 昔の曲って私たちが高い声が出なかったのもあって、キーが低いんですよね。今は歌えるようになったので、上げたほうが私たちも歌いやすいし、聴き心地もいいのかなって。

──この段階で音域が広がるのかと驚きました。リリースの都度、「歌が変わりましたよね」という話はしてきましたけど、アルバムを通して聴いてみて、本当に進化し続けているんだなと改めて感じました。

新曲を初めて歌うのは、いつもレコーディングのときなんですよね。そのあとにライブで歌い方をつかんでいくことが多くて、ちょっとずつ変わっていく。だから初めの状態を聴くと、「幼いな」とか「まだつかみ切れてないな」と感じますよね。

──こうして歌やダンスはすごく進化しているじゃないですか。でも変わらないところもあって。

ん?

──いつも集客を気にしているし、「このタイミングで売れたい」みたいなことを常に言ってるんですよね(笑)。

それは……(笑)。今も変わらずですね。このベストアルバムで新規のお客さんが増えますようにって願ってます。

──どこか1つのゴールはあったりするんですか?

ワンマンライブだったら「チケットをソールドアウトさせたい」「前よりいいパフォーマンスをしたい」というのは全員考えているんですけど、4人で明確な目標を決めたことはないですね。どこかで「もっとお客さんが来てもいいはずなのに」「もっと聴いてもらっていいはずなのに」と思っていて、「自分たちに対する自信があるけど、数値的な部分の自信がないのかもね」と話したことがあって。これだけライブの演出にお金をかけてもらったのに、集客を考えると「足りてないのかな」って不安になったり。

──それこそ「Solitude HOTEL ∞F」は大勢の人が観たじゃないですか。

親に「渋谷公会堂でワンマンをやる」と言ったら、やっと「すごいね」って言ってくれたんですよ。田舎の人なので、東京では有名なライブハウスを教えても「どこかしら?」みたいな感じで。東京ドームとか京セラドーム大阪くらいの規模の会場しか知らないけど、さすがに渋谷公会堂は「聞いたことある、松田聖子さんがライブした場所だね」って言っていて。ワンマンライブに初めて親を呼んだんですけど、感動してくれました。

──いい感じじゃないですか。

だからこそ、ここで終わりたくないんですよ。満足しちゃいけない。

──ということは、集客への不安を口にするのはネガティブではなくて、超ハングリーということなんでしょうね。

そうかもしれない(笑)。

ブクガの曲で泣きそうになったのは2度目

──話を戻すと、既発曲を合体させた「river」の発想は驚きました。シンプルに「やりにくくない?」と思ってしまうんですが(笑)。

(小声で)やりにくい……(笑)。少しずつスタジオでの練習を始めているんですけど、「cloudy irony」と「river」を続けてやると「あれ?」ってなるんですよ。でもライブでは何があっても動じないようにならなきゃいけない。「river」は原曲の振り付けを使いつつ、違う振り付けを足しているところもあるんですけど、最初に作った振り付けの構成をサクライさんに送ったら「もっと『cloudy irony』の振り付けを使ってほしい」という注文がきて。先生がまた構成を練り直して、それをまた覚えるっていう長い作業があって。

──原曲との差が少ないとこんがらがりそうですね。

歌割りは「karma」のままだけど歌詞は「cloudy irony」なので、体に入るまで何回も何回も練習しました。

──アルバム全体を聴いてどんな感想を持ちましたか?

初期はサクライさんの作風が色濃い曲が多くて、ブクガのことをあまり知らない人から「似たような曲だな」と言われたりしたんですけど、メンバーもサクライさんもだんだん変わっていって、バリエーションが増えてきて。こうして聴くといろんなタイプの曲がそろっていて、5年間活動してきたかいがあったなと思います。

──新曲「Fiction」はいい意味でストレートに感動的な曲ですよね。

メロディに「ううっ」となってしまって、レコーディング中泣きそうになりました。あと印象深かったこともあって。この曲はサビのキーが高いんですけど、のどが詰まって上手に歌えなかったんですよ。それでみんな録り終わったあとに「録り直していいですか」ってレコーディングブースを出たら、ほかのメンバーがクラッカーを鳴らしてくれたんです。その日は4月1日で、私の誕生日だったんですよ。

──すごくいい話ですね。

曲に泣きそうになりつつ、サプライズにびっくりして変な顔をしてたと思います(笑)。ブクガの曲で泣きそうになったのは2度目で、「blue light」のバンドアレンジ版でsugarbeansさんが弾いてくれたピアノに感動したとき以来です。

矢川葵

──そろそろ時間になります。今現在で気になることはありますか?

この自粛期間がいつまで続くか心配ですし、活動していない期間で離れてしまったファンがいるかもしれない。だからツアーを早く始めたいですね。「配信でライブをしようか」という話も出ているので(※取材は6月上旬に実施)、今はそれに向けて練習している感じです。

──ekomsは配信に積極的ですよね。

そうですね。メンバーで生配信をすることもあるんですけど、和田(輪)が1人で全部準備してくれて。私たちは和田の説明を聞くだけで、IT大臣に任せっきりです(笑)。