きれいな部分ばかり見せていてもダメだ
──八木さんはかつて「魔法科高校の劣等生 追憶編」の主題歌として「Ripe Aster」というミディアムバラードを歌っていました。しかし今回の「ダブルセブン編」のエンディング主題歌「recall」は瑞々しいギターロックで。作詞作曲が八木さんで、編曲はTAARさんですね。
八木 オープニングっぽい疾走感のある、七宝琢磨くんに寄り添った曲というオーダーを軸に、コミカライズを読んでイメージを膨らませてデモを作るところから始めました。七宝くんは強い劣等感を抱いていると感じ、内側でずっと抗っているような楽曲になりました。
ASCA 私はサビの「このままじゃなんて分かってる」というフレーズがめっちゃ好きで、劣等感だけじゃなくて、海莉ちゃん自身を感じたんですよ。だからこれは七宝くんの言葉なのか、それとも海莉ちゃんの言葉なのか、どっちなのかなと思って。
八木 基本となるテーマを決めて、そのうえで自分の中にある言葉を引き出しています。ただ劣等感とか嫉妬とか自己顕示欲とか、そういう醜い感情の曲はあまり書きたくないなって、最初は思っていたんです。だから作詞に関してはなかなか言葉が出てこなかったんですけど、「きれいな部分ばかり見せていてもダメだ」と割り切ったら、すらすら書けました。
みあ すごい、わかる。作詞って自分の内側をさらけ出すようなものだし、私は初めて自分で歌詞を書いたとき、ものすごく恥ずかしくて、TD(トラックダウン)で自分の歌を聴けなかったんですよ。特に劣等感とか嫉妬心とか、そういうマイナスな感情はなるべく人に悟られたくないじゃないですか。いつも自信満々な自分でいたいって私も思うから、本心を書くのって、本当に勇気がいることだなって。
LiSA 私も「recall」の歌詞からは、すごく海莉ちゃんを感じます。
八木 本当ですか?
LiSA うん。海莉ちゃんは歌も上手だし、かわいいし、いつも完璧なんです。でも、こういうシャイなところもあって。本当はいっぱい考えてるし、いっぱい戦ってるんだけど、それをあんまり言葉にしないの。だからこそ、「recall」の歌詞を読むと海莉ちゃんと会話しているような気持ちになる。
みあ・ASCA うんうん。
LiSA さらけ出してくれてありがとうっていう感じ。
八木 うれしいです。自分としても最初の「人は一緒だよ 僕はちがうよ」という歌詞が気に入っていて。この1行で七宝くんを表せたという手応えがあったので、サビとかは、例えば憧れの人のライブを観に行って、視線を奪われて、呼吸すら忘れてしまった自分の経験を重ねられたんです。ただ、憧れの人の素晴らしいところを素直に受け取れる人ばかりじゃない。憧れの人のようになれなくて悔しくなったりもするから、そういう気持ちを言葉にしました。
ASCA 悔しさもにじんでいる歌詞なんだけど、メロディはさわやかで、歌声にもすごく透明感があって。そこも素敵だなって思います。
八木 ありがとうございます。
ASCA 特にこだわった部分とか、あります?
八木 1サビの最後の「この先は誰も覗けないから」というフレーズは、自分のキーだとかなりキツいんですけど、絶対に地声で歌おうと決めていたんです。でも、レコーディングでは満足のいく声が出なくて、後日もう1回録らせてもらいました。あと「未熟さよ、花開くなら」以降がずっとミックスボイスなので、ここもちょっとキツくて。
LiSA ミックスのほうがキツいの?
八木 ずっと続くんでキツくなってしまって。そのうえできれいに、迫力のあるように響かせたいという、技術的なハードルを自分に課していたので。でもこだわった分、自分でも納得できる歌が録れました。
きっとこれから七宝琢磨は強くなっていく
──皆さん「魔法科」楽曲の作詞をなさっていますが、八木さんのように、特定のキャラクターと自分を重ねて歌詞を書いているんですか?
LiSA そうですね。私は、自分が自分として歌える歌詞を書いてしまうんですよ。作品に寄せるという意味では「魔法」という言葉を使ったりもするけれど、あくまでキャラクターの気持ちを自分の中に取り込んで、自分の言葉にして書いていく感じです。
みあ 私もまったく同じで、物語の中で描かれてる感情に自分が共感できなかったら、歌詞を書けないかもしれません。幸いにも書けなくなったことはまだないんですけど、共感の度合いによって作詞にかけられる熱量が変わってくるという実感があるんですよ。なので、誰かの感情を自分の中に落とし込むところから制作に入っていきます。
ASCA うんうん。私も原作を拝読して、自分が最も共感できるキャラクターを見つけて、その人について考えて、自分事のように言葉を選んで書いていきます。とはいえ、私は自分事にすると突っ走っちゃう傾向があるので、本来あるべきキャラクター像とズレてしまうことがよくありまして。なので、自分の気持ちを述べつつ「ちゃんとあのキャラのことを歌えてるかな?」と確認しながら書き進めて、ズレが生じたら軌道修正していく。この修正作業に、一番時間をかけているかもしれません。
──「recall」における七宝琢磨というモチーフは作品サイドから与えられたものでしたが……。
八木 正直、最初は七宝くんのことがあんまり好きじゃなかったんですよ(笑)。何かと噛み付いてるし、ねちっこいし。でも彼を通して曲を作りながら、嫉妬とか自己顕示欲についていろいろ考えているうちに、私も日常生活で「もう誰も自分に興味ないんだな」みたいに思う瞬間がけっこうあることに気が付いて。その気持ちを逆手にとって「僕を見てろよ」という言葉が一番に浮かんで、そこから「視線」という言葉も出てきたんです。あと、私はビジュアルから歌詞の着想を得ることも多くて。今回でいえば「魔法科」のマンガで描かれていた七宝くんの表情から「今真っ直ぐな眼で変わり始めている」という歌詞が思い浮かんだり、めちゃくちゃ歯を食いしばっているシーンがあったから「歯」は入れたいなって。
一同 (笑)。
八木 ネタバレになっちゃうから詳しくは言えないんですけど、「ダブルセブン編」はラストがめっちゃいいんですよ。七宝くんがライバル関係にあったキャラと木の下でしゃべるシーンがあって、きっとこれから七宝くんは強くなっていくんだろうなと思わせてくれるんです。ほぼこのシーンで「recall」を作ったと言ってもいいぐらい、「ダブルセブン編」のよさが凝縮されていると私は思っているので、ぜひ観ていただきたいですね。
次のページ »
【後編】楽曲に込めたメッセージを語り合う