アニメ「魔法科高校の劣等生」が今年シリーズ10周年を迎えた。その第3シーズンにあたる新シリーズが4月よりTOKYO MX、BS11ほかで放送中だ。
アニメ「魔法科高校の劣等生」は累計2500万部を突破している佐島勤による同タイトルの人気小説シリーズを原作とした作品。魔法が技術として確立された近未来を舞台に、エリート校・国立魔法大学付属第一高校に通う兄妹の司波達也と深雪、その仲間たちの活躍が描かれる。妹を守るために“分解”と“再成”という卓越した魔法と優れた頭脳で無双する達也と、達也を「お兄様」と呼び、心から敬愛する優等生の深雪といった個性的なキャラクターたちは長きにわたって多くのアニメファンから愛されており、「劇場版 魔法科高校の劣等生 星を呼ぶ少女」やスピンオフアニメ「魔法科高校の優等生」も制作されている。
「魔法科高校」シリーズからは名曲も多く生まれた。第1シーズンのオープニング主題歌としてLiSAが2014年に発表した「Rising Hope」は、現在もライブで歌われ続けている彼女の代表曲の1つ。あれから10年の時を経て、今回再びLiSAがオープニング主題歌を担当することになった。作詞がLiSAと田淵智也、作曲が田淵、編曲が堀江晶太という「Rising Hope」と同じ布陣で生み出した主題歌のタイトルは「Shouted Serenade」。LiSAと「魔法科高校」シリーズの10年がシンクロして生まれたこの曲は、新たなキラーチューンと言ってもいいだろう。
なお第3シーズンは「ダブルセブン編」「スティープルチェース編」「古都内乱編」の3部構成となっており、エンディング主題歌はそれぞれ異なる。「ダブルセブン編」は八木海莉、「スティープルチェース編」は三月のパンタシア、「古都内乱編」はASCAと、これまで「魔法科高校」シリーズに携わってきたアーティストがエンディングを担当し、それぞれの解釈によって個性豊かな楽曲を提供している。
「魔法科高校の劣等生」の10年を彩ってきた豪華アーティストが魂を注いだ第3シーズン。放送開始に合わせ、音楽ナタリーでは4月上旬にLiSA、八木、みあ(三月のパンタシア)、ASCAの4人にお集まりいただき、お互いの楽曲について存分に語り合ってもらった。本特集ではその模様を前後編にわたって、2カ月連続でお届け。前編ではLiSAの楽曲「Shouted Serenade」と八木海莉の楽曲「recall」、後編では三月のパンタシアの「スノーノワール」とASCAの「紫苑の花束を」をフィーチャーする。4者が集結する特別な対談を楽しんでほしい。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作
3曲ともまったく違うエンディング主題歌
──皆さんこういうふうに集まることはあまりないと思いますが、初対面の方はいらっしゃいます?
ASCA 私と海莉ちゃんはつい最近お会いして。誕生日が一緒なんだよね。
八木海莉 はい。
LiSA 一緒なの? 全然違うね(笑)。
ASCA 全然違うとは?
一同 (笑)。
LiSA 占いとかで同じ結果になるとは思えない(笑)。私と海莉ちゃんはたくさんおしゃべりしたことあるけど、みあちゃんは?
みあ(三月のパンタシア) 何年か前にプロデューサーさんの事務所に遊びに行ったとき、たまたま海莉ちゃんがいて。
LiSA じゃあ、海莉ちゃんとみあちゃんは大丈夫ですね。ASCAとは、1回会ったら3カ月ぐらいは会わないほうがいいじゃない。1回で3カ月分はしゃべってくるから(笑)。
ASCA よく言われます(笑)。LiSAさんと会うのは3カ月ぶりぐらい……いや、1月下旬に「リスアニ!LIVE 2024」で会ってるから、2カ月ちょっとぶり?(※取材は4月上旬に実施)
LiSA まだ会うには早かったかもね(笑)。
──「魔法科高校の劣等生」第3シーズンでは、オープニング主題歌をLiSAさんが、エンディング主題歌を八木さん、みあさん、ASCAさんの3人が担当されていますが、ひと言で言って豪華ですね。
LiSA すごくぜいたくですよね。1クールの間にエンディングがこんなに変わっていくという。
ASCA しかも、3曲ともまったく違いますもんね。曲調も、サウンド感も。
LiSA エンディングを作るうえで、例えば「『ダブルセブン編』はこういう感じで」とか、作品サイドからオーダーがあったの? それともみんながそれぞれその物語に対してアプローチしたらこうなったの? まったく被らなかったから、それがすごいなと思って。
みあ 私は、最初に全部聞いていました。三月のパンタシアに与えられたテーマだけじゃなくて、海莉ちゃんとASCAちゃんにはどういうオーダーが行っているのかということも。
ASCA 私は自分のテーマしか聞かなかった。
みあ 聞いたら教えてくれたから「そうなんだ?」って。でも、ASCAちゃんはバラードって聞いていたから、完成した音源を聴かせてもらったときにびっくりした。
ASCA バラードとは言いつつも。
みあ そう。ASCAちゃんのバラードって、けっこう“ザ・バラード”って感じの歌モノの曲が多いイメージだったから。「紫苑の花束」は洋楽っぽいというか、すごくおしゃれで新鮮だった。
ASCA 新境地に挑ませてもらいました。海莉ちゃんの「recall」は自分で作詞作曲してるけど、どんなオーダーがあったんですか?
八木 私は「オープニングっぽく」とか、「ダブルセブン編」のキーパーソンである七宝琢磨くんというキャラクターの心情に寄り添ってほしいというオーダーをいただいて作りました。ASCAさんは?
ASCA 私は「初恋」がテーマで、あるキャラクターにフォーカスしてほしいというオーダーはあって。でも、私がエンディングを担当する「古都内乱編」はすごくシリアスな物語なので、当初のオーダーに加えて、悲しみや痛みにも寄り添わせてもらいました。
LiSA 今ASCAが「初恋」と言ったけど、「魔法科高校の劣等生」は戦いばかりじゃなくて、恋愛要素が入ってきたりするよね。
みあ そう。特に(司波)深雪は実の兄である(司波)達也を慕っていて。第2シーズンまで深雪は基本的にはピュアなイメージだったと思うけど、今回に関しては、達也への愛が抑えられなくなっているというか。思いが強すぎるがゆえに歪んでしまう感情を描いてもらいたいというお話を作品サイドから伺って、その結果できたのが「スノーノワール」なんです。
ASCA 1番Bメロの「腐り溶け血に還り」という歌詞なんかは、特にえぐみを感じました。
みあ そこは、血のつながりの禁忌みたいなものも淡く漂わせつつ。「ノワール」はフランス語で黒とか暗黒という意味なんですけど、従来の純白なイメージとは異なる、ちょっとダークな深雪の心情を表すタイトルになりました。
LiSA 私がお話をいただいたときも、これまでは達也にすべてを尽くすようなタイプだった深雪に、ちょっと自我が芽生えてくるみたいな要素を入れてくださいと言われて。だから今回のシーズンは、深雪が成長したあとの物語でもあるのかなって。
10年間「『Rising Hope』を作ってください」と言われ続けた
──LiSAさんが歌うオープニング主題歌「Shouted Serenade」は、作詞がLiSAさんと田淵智也さん、作曲が田淵さん、編曲が堀江晶太さんです。この布陣は第1シーズンのオープニング主題歌「Rising Hope」とまったく同じですが、「Rising Hope」からもう10年経つんですね。
LiSA 当時は、10年後に「魔法科」の主題歌を歌わせてもらえるとも、10年後にまた“「Rising Hope」を作ることになる”とも思わなかったですね。でも、再びこうやって関われるというのは私にとってとても幸せなことだし、活動を続けられていなかったらこういう機会は巡ってこなかったわけで。アニメの「魔法科」の世界では1年が経って達也たちにも後輩ができたし、現実の私も10年が経ってこうして後輩ができた。「Rising Hope」を歌ったときは、周りは先輩ばっかりだったので……まあ、自分が先輩になってもいろいろあるんですけど(笑)。
一同 (笑)。
LiSA 先輩になっても悔しい思いはするし、大変なことはいつだって大変だし、やるべきことは何も変わらない。それは少し大人になった達也や深雪にしても同じことが言えて、彼らと同じ状況下にあるからこそ、私自身が素直に歌える曲を作ることができたんです。それもまた幸せなことでした。
──10年前って、八木さんは小学生?
八木 11歳なので、小学生です。
LiSA 海莉ちゃん、最初に会ったとき「Rising Hope」歌ってたよね?
八木 オーディションで歌っていました。LiSAさんご本人を目の前にして(笑)。「魔法科」第1シーズンはリアルタイムでは観ていなかったんですけど、高校生ぐらいからアニメの音楽にも触れるようになって「Rising Hope」に出会いました。すごく好きな曲です。
LiSA 「Rising Hope」が発売されたあと、私も田淵先輩も晶太くんも10年間ずっと「『Rising Hope』を作ってください」と言われ続けたんです。
ASCA 「Rising Hope」がリファレンスになるんですね。
LiSA そうそう。でも「Rising Hope」って、何をもって「Rising Hope」なのか。テンポなのかキーなのか、ラップパートなのか、歌詞なのか思いなのか。私たちにとって「Rising Hope」とは、リスナーの皆さんにとって「Rising Hope」とはなんだったのか……みたいなことを、最初にみんなで話し合うところから「Shouted Serenade」の制作が始まったんです。結果、答えとしてはみんなバラバラだったんですけど、「Rising Hope」は「魔法科高校の劣等生」の最初のオープニング主題歌であることはもちろん、当時の私の個人的な体験とか、いろんな条件が重なり合って生まれた曲で。
──“個人的な体験”とは、初めての日本武道館公演ですね(参照:LiSA「LiSA BEST -Day-」「LiSA BEST -Way-」インタビュー)。
LiSA そうです。2014年のあの時期じゃなきゃ作れなかった曲だから、私と田淵先輩と晶太くんがそろっても同じものを作ることはできないし、「『Rising Hope』を作ってください」と言われて作る「Rising Hope」は「Rising Hope」ではない。だから、「Rising Hope」とはなんなのかを解明したうえで、どこまで「Rising Hope」を感じる要素を入れるのか、あるいは入れないのかということを話し合いながら作りました。
達也が過ごした1年と、私が過ごした10年が重なった
ASCA 「Shouted Serenade」は、「Rising Hope」以降10年歌い続けてきたLiSAさんだからこその説得力が、歌詞にも歌にもありますよね。個人的に特に刺さったのは「守りたいならサボんなよな」というフレーズで。
八木 おお……。
ASCA 海莉ちゃんも刺さった?(笑) これまで私はLiSAさんのライブを何度も観させてもらいましたし、インタビューも読ませてもらって、後輩としてもいちファンとしても、LiSAさんは音楽に対して本当に誠実に向き合ってこられた方だと思っているんですよ。そんな方が「Rising Hope」の10年先の今、こういう言葉を届けてくださるんだと勇気をもらいましたね。「期待しろ全世界」というフレーズもありますけど、「まだ期待させてくれるんですか?」みたいな。これは「魔法科」の第3シーズンに期待しろという受け取り方ができると同時に、聴く側としてはLiSAさんのこれからに期待してしまう。そう思わせてくれるのは、これまでの経験に基づいて書かれているフレーズだからなんだろうなって。
八木 私は、サビの「だから走っていける 望んでいける 思いつくまま挑むんだ」という歌詞が、「だから」から始まるのもめっちゃ強いなと思って。“これまで”がないと出てこない言葉だということを感じました。
みあ 私は特に「魔法と呼ぶには野暮ったいか?」というフレーズが、すごくおしゃれでカッコいいなって。魔法って、ロマンチックでファンタジックな言葉として使われることも多いけれど、それを少し斜めに見ているというか。もちろんこの「魔法」は「魔法科高校の劣等生」にかかっているわけで、それを「野暮ったい」と、どこか皮肉っぽく語れるのも作品に対する思い入れが深いからこそですよね。私も同じ文字を紡ぐ者として、こんなことを言うのはおこがましいですが、さすがだなと思って聴いていました。
LiSA 「Rising Hope」を作ったとき、つまり「魔法科」第1シーズンの時点では、達也はまだ劣等生だったんですよ。そこから作中で1年が経って、あの世界の基準では劣等生かもしれないけど、もはや……。
ASCA 誰も彼を劣等生だとは思っていない。
LiSA ね。後輩もできて、みんなにちゃんと実力を認められて。だから、さっきも言ったけど、達也が過ごした1年と私が過ごした10年が重なった。無理して10年前の自分に戻って書かなくてよかったというか、「Rising Hope」のときの自分とはかけ離れている、年齢も立場も変わった今の自分が素直に歌えたことがありがたかったです。
ASCA 「Shouted Serenade」は、技術的にもこれまでLiSAさんが積み重ねてきたものが集約された感があるんですけど、この曲で難しかったところは……。
LiSA 全部。
ASCA 全部かー(笑)。
LiSA 強いて言えばBメロの「冷たい世界に 涙が混じる」のリズムが、私は一生取れないと思った。
ASCA 裏で取らなきゃいけなかったり?
LiSA そう。4拍目の頭から入って、途中でずれて、戻ってまた遅れるの。それが取れない。
みあ レコーディングでそうなったとき、私は歌えば歌うほどドツボにハマってしまうんですけど、どうやって乗り越えていくんですか?
LiSA もうね、とにかくやるだけです。
一同 (笑)。
LiSA しかもここ、クリックは「タッタッタッタッ」と4分で鳴っているのに、その裏でクラップが「タタッ、タッ、タタッ、タッ」みたいな。
ASCA あるある(笑)。やってくれますよねー、クラップ。
LiSA だから、どれを聴いてもリズム感がバグるの。
ASCA そういうときは何を聴いたらいいんですかね。クラップをカットしてもらって、クリックを頼りに歌う?
LiSA いろいろ試したけど、もう、何も聴かない。
ASCA 自分を信じて歌う! すごい! 大きな教訓を得ました。
みあ 参考に……できるかどうかわからないですけど、自分を信じればいいんですね!
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