マハラージャン×峯岸みなみ対談|我が道を突き進む2人が異色の邂逅

マハラージャンがニューアルバム「正気じゃいられない」を7月6日にリリースした。

マハラージャンにとって2枚目のアルバムとなる本作には、配信シングル曲「先に言って欲しかった」「比べてもしょうがない」「持たざる者」を含む全10曲を収録(CDにはボーナストラックあり)。ファンク、ソウル、オルタナロックなどを取り入れたハイブリッドな音楽性、独創的な視点から生まれるリリックなど、マハラージャンの個性が存分に発揮された作品となった。また、リード曲「その気にさせないで」「君の歯ブラシ」のミュージックビデオに峯岸みなみが出演していることも話題を集めている。

音楽ナタリーでは、マハラージャンと峯岸の対談をセッティング。ミュージックビデオ出演の経緯や撮影エピソード、お互いの印象などについて語り合ってもらった。異色のトークセッションを撮り下ろしのビジュアルとともに楽しんでほしい。

取材・文 / 森朋之撮影 / 竹中圭樹

マハラージャンさんみたいな人、身近にいないので興味深い

マハラージャン 「その気にさせないで」「君の歯ブラシ」を連作にしてミュージックビデオを作るアイディアを監督と決めたときに、最初のインスピレーションで浮かんできたのが峯岸さんだったんですよ。

峯岸みなみ えっ、うれしい!

マハラージャン かわいらしくてダンスもお上手で、峯岸さんしかいないだろうなと。MVを監督してくれたZUMIさんとも交流があったんですよね?

峯岸 はい。お仕事をご一緒したことがあるので。

左からマハラージャン、峯岸みなみ。

左からマハラージャン、峯岸みなみ。

マハラージャン それもあって絶対にお願いしたかったんですよね。でもまさか受けてもらえるとは思ってなかった。峯岸さんは大スターで、自分の人生に関わってくるなんて想像もしてなかったから。

峯岸 いえいえ、そんなことないです(笑)。ってマハラージャンさん、全然目を合わせてくれないですけど、嘘を言ってる可能性はないですか?(笑)

マハラージャン え、いや、人と目が合うとしんどいので(笑)。目線を外したほうが考えやすいんですよ。

峯岸 思考がまとまる?

マハラージャン そうです。まあ、ただコミュニケーションが難しい人なのかもしれないですけど。

峯岸 (笑)。マハラージャンさんみたいなタイプの人、身近にいないので興味深いです。私、ほかのアーティストの方のミュージックビデオに出るのが密かに夢だったんですよ。でも、私はかなりアクが強い人生を送ってきたので、MVとなるときっとフラットに観られる女優さんのほうがいいじゃないですか。私は“峯岸”っていう主張が強いから、呼んでもらえることはないだろうなとあきらめていたので、今回お話をいただいて「まさか!」とびっくりしましたし、うれしかったです。

マハラージャン 光栄です。峯岸さんが出演している「トークサバイバー!」(Netflixのコメディシリーズ「トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~」)も観たんですが、「こんなに面白いんだ! 強っ!」と思って。その印象も、MVに出てほしい理由の1つだったんです。バラエティのセンスも、僕の音楽にぴったりだなと。

峯岸 よかった(笑)。私の人生、どんどんMV女優から遠ざかってる気がしてたけど、行き着いた先にこんな出会いが待ってるなんて。やってきたことは間違いじゃなかったと思いました。今回初めてマハラージャンさんの曲を聴かせていただいたんですけど、「こんなにおしゃれで素敵な世界観の一員になれるなら、ぜひ出たいです」って、即決でした。

マハラージャン

マハラージャン

峯岸みなみ

峯岸みなみ

元カノの歯ブラシで便器を掃除する歌

マハラージャン MV撮影の現場で、「うちのお父さんがマハラージャンさんを知ってた」って言ってましたよね。

峯岸 そうなんですよ。MV撮影の前日にたまたま実家に帰ってて、「明日はなんの仕事?」という話になり。「マハラージャンさんっていうアーティストのMVに出るよ」と答えたら、お父さんが大興奮して「俺は前から目を付けてた」って言い出して(笑)。「関ジャム」で知って、「こんなに歌がうまい人がいるんだ」と思ったらしいんです。「マハラージャンのMVに娘が出るのは誇り」と言ってくれて。私の夢を叶えてくれただけではなく、親孝行までさせていただきました。撮影現場で「峯岸家の皆さんへ」ってサインもいただいたんですよ。実家に飾ってます。

マハラージャン 「君の歯ブラシ」には、「君の Her Her Her 歯ブラシで Me Me Me 磨くよ便器」という歌詞があるんですけど、峯岸家の皆さん大丈夫ですかね……?

峯岸 大丈夫です(笑)。マハラージャンさんの歌詞、すごく不思議ですよね。何か大切なことを言ってるのか、そうじゃないのか。でもメッセージ性はあるよなって、よくわからなくなるんですよ。強烈な言葉を使っていても、ふわっと耳に入ってくる感じもあって。なので「便器」も自然と入ってきました(笑)。

マハラージャン よかったです。この曲の歌詞を思い付いたときに、「絶対にカッコいい曲にしたい」と思ったんです。メロディを練りまくって、サウンドをデザインして、「これならどうだ」というところまで持っていって。音楽の力で「便器」をねじ伏せました。

峯岸 カッコいい! だってこの曲、普通に流れてたら、こんな歌詞だって思わないですよね。すごくおしゃれで、歌詞を読んでみると「えっ、こんなこと歌ってるの?」ってなると思う(笑)。そのアンバランスさもいいんですよね。

マハラージャン ありがとうございます。僕自身、この曲は音楽的にもすごく好きですね。

左からマハラージャン、峯岸みなみ。

左からマハラージャン、峯岸みなみ。

峯岸 途中に「Her Her Her」「Me Me Me」が入るだけでいきなりカッコよくなるんですよね。それがないと、ただのメンヘラ男の歌になりそう(笑)。実体験というか、実際にこういう気持ちになったことがあるんですか?

マハラージャン 実体験ですね。

峯岸 ええええ!?

マハラージャン 元カノの歯ブラシでエイッ!って便器を掃除して、すぐ捨てました。

峯岸 そうなんですね! けっこう女々しいところがあるような……。

マハラージャン そう言われても仕方ないです(笑)。そのときに「このことを覚えておこう」と思って。それを曲に昇華したってことですね。制作中に歯ブラシは燃えるゴミだと知って、そのことも歌詞に入れました。

峯岸 いきなり生活感が出ますよね。MVの映像もすごかったです。ヤバく見せないようにシャボン玉を飛ばしているんですけど、そのせいでもっとヤバくなるっていう(笑)。キモかわいくて、ちょっと不気味で、大好きなMVになりました。

MVが音楽に力を与えてくれた

マハラージャン 「その気にさせないで」の歌詞で気になるところはありました?

峯岸 「この人は結局、どういう気持ちなんだろう?」というのが最後までわからなかったですね。フラれた相手を思っているのか、まだ何も始まってないのか、どっちなんだろう?って。

マハラージャン 一応、恋の始まりの歌なんですけど、そのあたりは“なんとなく”でいいと思ってまして。

峯岸 明確な答えはなくていい?

マハラージャン 「その気にさせないで」というシチュエーションにもいろいろあると思うので……具体的にパッと出てこないですけど(笑)。あと、峯岸さんが出演してくれることになって、「この曲はMVのイメージが強くなるだろうな」と思って。その相互作用で恋のイメージが伝わるだろうし、MVが音楽に力を与えてくれたなと。

峯岸 私も楽しかったです。ほとんど踊るシーンだったんですけど、体力的にきついときに、一緒に出演した子供たちが支えてくれて。ちびっこに元気をもらいました(笑)。AKB48を卒業してからは、歌ったり踊ったりする機会がなくなって、寂しかったんですよ。ひさしぶりにこういう撮影に参加できて楽しかったし、うれしかったですね。「ずっと私しか映ってないけど、いいのかな?」と思いましたけど(笑)。マハラージャンさんが途中で出てくるという選択肢はなかったんですか?

マハラージャン スタッフと打ち合わせして、すぐに「出なくていい」ということになりました(笑)。本人が出ないという振り切り方がいいなと思ったし、正解でしたね。ダンスはもちろんですけど、峯岸さんの最後のキメの表情もよかったです。

峯岸 監督さんから「笑顔以外の顔をして」と言われたんですよ。アイドル時代は、カメラに抜かれた瞬間に表情を作らなくちゃいけなくて。大人数グループで学んだスキルが生かせました。

マハラージャン 僕は全然、表情が変わらないんですよ。やっぱりMVに出なくてよかった。

峯岸 (笑)。さっきの写真撮影中も、真顔でしたよね。

マハラージャン カメラを見て笑うって、口角を動かすという事務的な作業みたいになっちゃうんですよ。恥ずかしさもあると思いますね。

峯岸 本当にそういう人なのか、マハラージャンというアーティストのコンセプトのためにそうしてるのか。そのあたりがまだわからないです(笑)。

マハラージャン 本当にそういう人ですね。

峯岸 じゃあ、ターバンを取っても表情は変わらない?

マハラージャン はい(笑)。例えば友達とお笑い番組を観て、「面白かったわ」と言うと、「お前、全然笑ってなかったじゃん」ってツッコまれたり。

峯岸 面白さを噛み締めてるんですか?

マハラージャン ツボが変なところにあるのかも。ハマちゃって、笑いすぎてヤバイときもあるので。

峯岸 笑わせてみたいです(笑)。

マハラージャン

マハラージャン

もうファミリーです

峯岸 「その気にさせないで」も「君の歯ブラシ」もスルメ曲というか、聴けば聴くほど馴染むし、つい口ずさんじゃうんですよ。懐かしさもあり、新しさもあって、すごく好きな曲になりました。

マハラージャン どちらも素晴らしいMVになって、僕もすごくうれしいです。MVがよくなるかどうかは、運みたいなものだと思ってるんですよ。今回は峯岸さんと監督のZUMIさんがすごくいいMVにしてくれたし、2曲の関連性も表現できて。これまでの作品よりも圧倒的にメジャー感があって、「マハラージャンのMVもここまで来たか」と思いました。

峯岸 マハラージャンさんのファンの皆さんが、私のような人間を受け入れてくれるのかが不安ですけどね。よそ者感、ないですか?

マハラージャン いえ、もうファミリーです。

峯岸 うれしい(笑)。

マハラージャン そもそもマハラージャンのファンの方は、僕の姿形はどうでもいいんですよ。音楽にしか興味がないというか。しかも今回のMVは本当にいいので、皆さんも大好きになると思います。

峯岸 そこ、大きめの声で言ってもらっていいですか? ファンの方々に喜んでもらいたいので。

マハラージャン 絶対に大丈夫です! 逆に峯岸さんのファンの方にどう思われるのかが怖いですが……。

峯岸 むしろ「ありがとうございます」と言ってくれるはずです。私が歌って踊っている姿を喜んでくれると思います。