桜井曲を歌うときは“無”
──収録曲についても聞かせてください。まずはリード曲「炎」を。これは桜井さんの作詞作曲で「サマーヌード」の流れを汲む楽曲ですが、アウトロのギターソロがめちゃくちゃカッコよくて。
桜井 真心ブラザーズ史上、一番長いギターソロですね。最初はフェードアウトさせようと思ってたんだけど、熱演しちゃったから「最後まで全部入れよう」ということになりました。
──メロディラインも素晴らしいし、新たな代表曲になりそうですよね。
YO-KING そう?(笑)
桜井 あはは!(笑)
YO-KING “桜井曲”を歌うときって、“無”なんですよ。「サマーヌード」もそうなんですけど、自分の中に一旦留めてこねくり回してから出すのではなくて、曲が通り過ぎていくというか。「この1行に気持ちを込める」みたいなこともないので、歌い終わってから「こんな歌詞だったの?」と気付いたり(笑)。何年か経ってから「この曲って、こんなこと歌ってたのか」と思うこともあるんだけど、リスナーもたぶんそうだと思うんですよ。ずっと前から聴いてたのに、あるとき「え、今なんて歌った?」って引っかかったり。
桜井 「炎」は楽器陣が気持ちを込めて演奏しているからね。キーボードの奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)さんなんて、頼んでもないのにラテンフレーバーのフレーズを入れちゃったり(笑)。その真ん中でYO-KINGさんが観音様のようにスッと立ってるというか。
YO-KING そこで俺も感情を込めて歌ったら、ウェットになりすぎちゃうでしょ。感情を殺すことで、より感情が伝わることもあるじゃない? 美空ひばりさんとか。
桜井 「悲しい酒」だね。
YO-KING そうそう。あとさ、映画でもそうだけど「泣けた」っていうのが最上級の褒め言葉だったりするでしょ? あれがわからないんだよね、俺は。泣けるって、そんなにすごいこと?って。
──「真心の曲を聴いて、泣けました」と言われたら?
YO-KING それはありがたいです(笑)。でも「ちょっと目の周りにジワっと来たけど、最後は楽しかった」くらいが好きですね。
自分の楽しいことをうまくやり通すのが“不良”
──YO-KINGさん作詞作曲の「不良」からは、同調圧力から抜け出してもっと自由になろうというメッセージが伝わってきました。
桜井 いいですよね、「不良」。タイトルを見たときに「お、来たね!」と思ったし、どれだけ激しい曲なのかと思ったらフォークかよ!って(笑)。冒頭から「考えが違う人にも やさしくなろう」だし。でも今は“不良”って言葉の意味がわからない人もいるかもね。ヤンキーとも違うし、不良って最近はおじさんが担ってるでしょ。
YO-KING ちょいワル?(笑) この曲で歌ってる“不良”は、多数派に同調することをよしとせずという感じかな。それを不良と呼ぶんだったら、それでけっこうっていう。
──「普通なこと これ以上求めないで」という歌詞もありますが、ミュージシャンにも普通や正しいことを求められてる感覚はありますか?
桜井 全然ありますよ。
YO-KING 音楽はマンガや小説より不自由でしょ。「チェンソーマン」(集英社「週刊少年ジャンプ」で連載中の藤本タツキによるダークヒーローマンガ)とかすごいじゃん。ただ俺らは過激なことをやりたいわけではないんだけどね。「不良」で歌ってることもそうなんだけど、自分の楽しいことをうまくやり通したいというか。「こんなのは間違ってる!」と訴えたいわけではなくて、俺は俺なりにその日を楽しく過ごしたいだけなので。俺自身もそうでありたいし、そういう人が増えたらもっと明るくなるんじゃない?
──確かにそうですね。かと思えば、「こんぷろマインズ」という妥協をテーマにした桜井さんの曲もあって。サビが「ちょうどいいとこどこ?」っていう。
桜井 気付いちゃいました?(笑) この曲も5年前だったら思い付かなかった気がしますね。ネットワークがどんどん発達して、地球が小さくなってるでしょ? いろんな国の人の考えや価値観をダイレクトに感じることが増えているし、宇宙船地球号に乗っている人同士、妥協しながらやっていくしかないので。バンドもそうですよね。妥協というか、お互いに歩み寄りながら作っていくのが一番だから。我を通すことがクリエイティブだと勘違いしたり、妥協と手抜きをゴッチャにしちゃうとダメなんだけど。
楽なのが一番
──このアルバムでも、まさに“ちょうどいい”塩梅のバンドサウンドが鳴らされてますね。岡部晴彦さん(B)と伊藤大地さん(Dr / グッドラックヘイワ)、グレートマエカワさん(B / フラワーカンパニーズ)とサンコンJr.さん(Dr / ウルフルズ)という2つのリズムセクションの特徴がしっかり生かされていて。
桜井 まったく違う雰囲気になりますからね。ざっくり言うと、不良性のあるロックンロールはグレートとサンコンにお願いすることが多いんですよ。そういうレコードを聴きまくっていた素地があるからね、あの人たちには。大地くん、晴くんはそれとはまた違った表現力があって。
YO-KING 共通しているのは、どっちも楽ってことかな。楽なのが一番ですよ(笑)。
桜井 彼らも「どうやったらこの曲が面白くなるか?」とすごく考えてくれるし、いい意味で遊んでくれて。
YO-KING みんな、俺以上に俺の曲のことを考えてくれるからね(笑)。しっかり理解して、解釈してくれて。ありがたいですよ。
桜井 スカパラの皆さん(川上つよし[B]、茂木欣一[Dr]、沖祐市[Key])が参加してくれた「ビギン!」のレコーディングも楽しかったですね。それにエンジニアの方が楽しそうに録ってくれてるのもうれしかった。
YO-KING 現場の雰囲気作りも大事だね。俺は中学のバスケ部でもやってたし、高校の不良仲間ともやってたし、大学の音楽サークルでもやってた。もう30年やってますから、いい雰囲気にしようと意識しなくても自然にやっちゃってますね。周りが楽しければ、自分も楽しいし。
桜井 YO-KINGさん、大学のとき分厚い眼鏡をかけて笑いを取ってましたよね。愉快な先輩がいるなあって思ってました(笑)。
YO-KING 俺はずっと人気者だからね、幼稚園のときから。今思ったんだけど、ミュージシャンってもともと人気者が多いのかな? それとも本当は暗かったんだけど、音楽をやって人気者になった人のほうが……今度、統計出してみてください(笑)。
桜井 チャボ(仲井戸麗市)さんなんて、YO-KINGさんがバスケ部の部長だったことを信じようとしないよね。「お前はもっと鬱屈してたはずだ」って(笑)。
YO-KING 鬱屈もしてたと思うけど、コミュニケーションはまた別の話だから。
真心ブラザーズがご機嫌でいるために
──11月1日には東京・品川インターシティホールで弾き語りワンマンライブ「Cheer up! 003」が開催されます。お客さんを入れたワンマンはひさしぶりですよね?
YO-KING そうだね。個人的には「どうしてもライブをやりたい!」みたいな飢餓感はないんですけど、やればやったで楽しいでしょうね。
桜井 ひさしぶりのワンマンだから、アガっちゃったりして(笑)。「ご無沙汰してます」というか、期待を裏切らない演奏をしたいですね。
YO-KING この先はどうなるかわからないけどね。いずれは元に戻るだろうから、焦らないでいいんじゃないかな。
──それまでは「Cheer」を聴いて、ご機嫌をキープしたいと思います。改めて聞きたいんですが、機嫌よく過ごすコツってなんですか?
桜井 なんでしょうね? 自分のことで言えば、切り替えは早いほうだと思うんですよね。「これがダメなら、こっち」って。
YO-KING 自分で自分の面倒を見るってことなんだけど、「やることがある」っていうのが大事かもね。次から次にやることを用意して、マイナスなことを考える時間を少なくして。あとはニュースを遠ざけたり……仙人っぽくなっちゃうんだよね、どうしても(笑)。ただ俺は本当に落ち込んだことがなくて、アドバイスのしようがないんですよ(笑)。
ライブ情報
- 真心ブラザーズ「Cheer up! 003」
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2020年11月1日(日) 東京都 品川インターシティホール
- 真心ブラザーズ「はしゃぎすぎてる春の大人さ2020」(振替公演)
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2021年2月20日(土) 東京都 中野サンプラザ