ナタリー PowerPush - 真心ブラザーズ
祝・ベストアルバム発売! 20年の歴史を紐解く赤裸々トーク
ロック期
──1995年の「スピード」辺りから急にロック色が強くなって、すごく攻めてる感じがしました。
YO-KING 攻めてました。怖いもんなし。
──「KING OF ROCK」は時代を先取りした、まさにスピード感のあるアルバムでしたよね。
YO-KING 先取りましたねぇ。僕は何でも早かったッスよ。「スピード」とか「KING OF ROCK」は、オルタナとかグランジをいち早く日本語でやったの。英語でやってた人はけっこういたんだけど日本語でやってさらにかっこよく料理するっていうのは、かなり早かったんじゃないですかね。
桜井 フォークでデビューして「KING OF ROCK」で形にするまでは、歌は面白いものを作ってるなという実感はあったんだけど、サウンドのスタイルとして何も持ってないっていうのがちょっと僕の悩みというか。やりっ放しの遊びを超えないのはそこなんだなぁというのがあって。そういうことを1992~3年くらいから僕が考え始めてたら、1993年くらいからYO-KINGさんがテンションの高い暮らしを始めて。
──スニーカーを集め出した時代ですね。
YO-KING 買いましたねぇ。すごい買った。欲望執行人としての仕事がたくさんあった時期(笑)。
──あの頃のテンションの高さはどこから降りてきたんですか?
YO-KING なんだろう。ストリート系でしたよ、僕(笑)。1992年に急にナイキを好きになって、スニーカーをすごくたくさん買いまして。それで原宿とかに行って、街のイカすやつらをみると面白くて刺激になって。なんかすっげーズボン下げてんじゃんって思いながら(笑)。あと、ジーンズとかがどんどん高くなっていく感じとかも生で見てて面白かったですよ。NIKE AIR MAX 95が100万円! みたいな。バカだなぁって思って、でもそうなってくると踊る阿呆に見る阿呆で、結局踊らにゃ損々って思って僕も踊ってた。もともとミーハーだったんで、そこはやっぱり火中の栗を取りに行かないと。そしたら栗以上にインプットできるものがたくさんあったというかね。で、この感覚とかバカバカしい感じをなんとか曲を通じて伝えたいみたいな気持ちになったと思うんですよ。なんで俺がこんなに楽しくてハイなのか、みんな聞いてくれ! っていう。
桜井 ライブ直前に革ジャンを買ってきて、全然馴染んでないコチコチの状態で着てライブをしたりとか。突然バイクを買って、しかもセルじゃなくてキックのやつをわざわざ買って、原宿ラフォーレの前で10分くらいカスッカスッてやってたとか(笑)。そういうおもしろ開花に乗じてなにかないものか、と。そしたらたまたまオルタナロックの新しいやり方みたいなのを見つけることができたんで。そのムードと音楽がバンッとぶつかって、やっと音楽をやる団体としての真心ブラザーズっていうのがひとつの形になったなぁって実感したのがこの頃。
──あの頃、YO-KINGさんが暴走してロック期に流れこんだ印象があるんですけど、桜井さんも新しい音楽スタイルを模索しようという気持ちがあったということですか?
桜井 ありましたよ。ちょうどその頃俺は、大人数のブラスとかが入ってるバンドが好きで。ビッグバンドというよりも70年代のソウル音楽とか昭和50年代の歌謡曲のレアグルーヴな感じで。それを大人数じゃなく編成を少なくして、俺がギターをブラスのつもりで弾いたりとか、テンポをガッと早くしてロックみたいにしたらハマッたっていう感じ。レッチリほどひとつのリフにこだわりもせず、硬派と軟派がいい具合に混ざったロックが、YO-KINGさんが何百足と靴を買っている様とリンクしたんでしょうね。
YO-KING 大変でしたよ、そのあと。ものを買えば表現ってできるんだ! と思って、そのあともいろんなもんを買い続けたんだけどそうでもなかったっていう(笑)。時代だったんでしょうね。年齢的にもまだ20代だったんで。今はもうジーンズとかスニーカーとか履けないもん。大人になっちゃったんで。
──まだまだジーンズもスニーカーも似合いますよ?
YO-KING なんかさぁ、いい歳した人が短パンTシャツとかかっこ悪いって思うようになっちゃった。
桜井 俺、毎日だいたい短パンTシャツですけど?
YO-KING はははは。よっぽど似合ってればいいんですけど。そもそも僕、ある意味で保守的な人間だから。襟がないと人前に出れなくなってきたし。
桜井 僕はこの夏タンクトップに挑戦しようかと。
YO-KING いいんじゃないですか、それぞれ違う方向に行くのも。タンクトップも乳首出るくらいでね。
桜井 そうそう。二の腕出すんだ? みたいな。
YO-KING じゃあポンプアップしないと。
桜井 それも気持ち悪いじゃん。適度にだらしない肉体でタンクトップのほうが。
YO-KING あ、さらすんだ(笑)。
──で、この頃は「KING OF ROCK」以降にも「サマーヌード」や「拝啓、ジョン・レノン」、「空にまいあがれ」などの名曲を連発していた時期でもあって。
桜井 そうそう。「KING OF ROCK」のすぐあとに「サマーヌード」という、めくるめくポップスの世界を発表できたというのが、今振り返るとデカかったかなぁと思います。「スピード」とか「STONE」のテンションでずっといくのはちょっと……って思ってたところに、強さに軽やかさ、しなやかのある曲が出せたっていうのがね。
YO-KING 90年代のメガヒット連発の頃で、なんかすごいCDが売れてるらしいよっていうワクワク感があった時代で。その中で真心として何をやっていくかというときに、そんなに狙いすぎてもないし、閉じてもいない、うまい具合の“さあおいで感”が出せたと思うんですよ。いい具合に両手を広げた感じで。
──「サマーヌード」はそのムードの中で自然に生まれたんですか?
桜井 ううん。最初はCMの依頼だった。日清さんから夏季限定でサマーヌードルっていうのが出るんで「それ用の曲を作ってください。2週間後に完パケしてください」って無茶言われて。おかげで悩む暇もなく、よいしょってできちゃった。
YO-KING そういう話に「わかりました、やりましょう」って言うのが真心の良さだと思うんですよね。「スピード」出して、「KING OF ROCK」出して、これからもガンガンこういうのでいくからタイアップなんかいらねぇよ! みたいなノリにはならないっていう。「わかりました!」って素直に言える、そのグニャグニャ感が真心の本質で。
──流れを受け入れ続けてますよね。ではそのイケイケテンションはどの辺りで落ち着いたんですか?
YO-KING それはもう2枚くらいじゃない? 1996年の「GREAT ADVENTURE」くらい。で、1997年に武道館をやるんですよ。ざっくりいえばそこで1回落ち着くんじゃないかな。そのとき俺、30歳だから。
Disc 1 収録曲
- うみ
- どか~ん
- うまくは言えないけど
- 荒川土手
- 頭の中
- うきうき
- 旅の夢
- モルツのテーマ
- 素晴らしきこの世界
- スピード
- 愛
- マイ・バック・ページ
- STONE
- JUMP
- 新しい夜明け
- 拝啓、ジョン・レノン
- 空にまいあがれ
Disc 2 収録曲
- ループスライダー
- BABY BABY BABY
- 愛のオーラ
- ENDLESS SUMMER NUDE
- サティスファクション
- EVERYBODY SINGIN' LOVE SONG
- 流れ星
- この愛は始まってもいない
- 人間はもう終わりだ!
- 情熱と衝動
- Dear, Summer Friend
- I'm in Love
- きみとぼく
- All I want to say to you
- 傷だらけの真心
- Song of You
DVD収録内容 (初回盤のみ)
- デビュー当時の貴重な映像を収録
真心ブラザーズ(まごころぶらざーず)
YO-KINGと桜井秀俊によって1989年に結成。テレビ番組の「勝ち抜きフォーク合戦」で10週勝ち抜いたことをきっかけに、同年9月にシングル「うみ」でメジャーデビューを果たす。「モルツのテーマ」「どか~ん」といったナンバーがTVソングに起用され、そのフォーキーなサウンドが好評を博す。1995年リリースのシングル「スピード」以降は、それまでのイメージを払拭するようなロック&ソウル色の強い音楽性へと移行。「サマーヌード」「拝啓、ジョン・レノン」「空にまいあがれ」など、数々の名曲を発表する。現在までに34枚のシングルと12枚のオリジナル・アルバムを発表。定評のあるライブ・パフォーマンスも健在である。今年でデビュー20周年を迎え、それを記念し9月に「元祖 渋谷系(嘘)」と題した特別記念ライブ、11月からは全国ツアー「THE GOODDEST TOUR」を行う。