初音ミクは神様のような存在
──ミュージックビデオの制作に関しては何かオーダーをしたんですか?
何か言うとやりにくくなるかなと思って全部公式サイドに任せることにしたんです。任せた結果、自分の伝えたい世界観がちゃんと汲み取られていて、ほぼ解釈一致の映像が届いたので、素直に驚きました。僕は自分で動画を作ることもあるので、作り手の意図とかもわかりますし、どう作るか難しい部分もあるかなと思ったんですが、動画全体を包み込む空気感とかが本当に僕が思い描いていたものに近くて。すごくいいMVを作ってもらいました。もしかしたら普段の僕のシリアスな作風が反映されてしまうんじゃないか、みたいな危惧もありましたから。
──cosMoさんの作品にはシリアスなテイストのものが多いので、今回は映像的にも異色なものになりましたよね。
楽しい感じ、お祭りのような空気感がちゃんと曲から汲み取れたみたいで安心しました。あと動物が出てきたりするのもすごくいいですね。
──MVでは神話的な物語が映像に起こされているようなイメージがありました。cosMoさんのMVにおける初音ミクの描き方としては、珍しいアプローチでは?
そうですね。もともと「初音ミクは神様のような存在だ」みたいなことを思ってはいたんですが、そういうテーマで曲を書く機会がなかったんですよ。僕が初音ミクに初めて触れたのが大学生の頃なんですが、進路も何も決まっていない宙ぶらりんの時期に初音ミクが現れて、僕の人生が決まったようなものなんです。そういう意味で僕からしたら神様のような存在なのかなと思っていたんですが、これはあくまで個人的な体験なので、大きな風呂敷を広げてまで描くようなことでもないと思っていて。今回オファーをいただいたときに、そういった初音ミクへの思い入れを持っている人は僕だけじゃないはずだから、テーマとして全面に出した曲を作ってもいいかな、と思ったんです。
──先ほど「初音ミクの消失」の話のときは「初音ミクを機械として捉えている」という話でしたし、今回の曲では初音ミクを「神様のような存在」として捉えている。cosMoさんは徹底して初音ミクを人間として描かないですよね。
確かに、そこは一貫しているかもしれないですね。初音ミクってこれだけキャラクターとして定着しているのに設定も最低限しかないし、性格とかも特にない。発売から10年以上経って、いろんな人が関わったことによる“初音ミク像”みたいなものがあるだけなんですよね。それはやっぱり人間ではないからだと思うので、そういうアプローチで曲を書きたくなるんだと思います。
ステージで再現される不要不急な音
──今年の「マジカルミライ」では「初音天地開闢神話」がステージで披露されるわけですが、cosMoさんはイベントでどのようなことを楽しみにしていますか?
まず演奏がめちゃくちゃ難しいので、ステージで再現されると思うだけですごく楽しみですね。生で聴いたら感動すると思います。もちろん生バンドで演奏することを知っていて作ったんですが、とても難しくしてしまったので……。ドラムなんて特に不要不急な音をたくさん盛り込んでますから(笑)。
──不要不急な音(笑)。ちなみにコロナ禍で披露されるということは楽曲制作の際に何か影響を与えましたか?
手拍子をしたくなるような曲にしようとは考えました。いつもだったらシンガロングで盛り上がりそうなところを、今回は手拍子で一体感を作り出せないかなと思って。もちろんペンライトを振るのでもよくて、体でノリやすい曲にしようというのは、今回の隠れたテーマでもありました。曲の中盤で変拍子が入るので、もしかしたら手拍子を打つのも難しいかもしれませんね(笑)。
初音ミクは人生を決定付けた救世主
──cosMoさんは楽曲によって初音ミク以外のボーカロイドも多数使っていると思いますが、初音ミクというボカロの特徴をどう捉えていますか?
ほかのボカロと圧倒的に違うのは特徴的な声だと思います。流行るべくして流行る特徴を持っているというか。ほかのボカロはなんとなく似ていたり、カテゴライズできたりするんですよ。でも初音ミクだけは唯一無二の存在感があるというか。
──去年の「マジカルミライ」のテーマソングを担当したピノキオピーさんも「ちょっと間が抜けているのがすごくいい」とおっしゃっていました。
わかるなあ(笑)。よくも悪くも独特で、ほかのボカロとは全然違うんですよね。
──毎年「マジカルミライ」のテーマ曲を担当した方に聞いている質問なんですが、cosMoさんにとって初音ミク、ひいてはボーカロイドというものはどういう存在ですか?
救世主みたいな感じですね。それは僕にとってだけじゃなくて、今も昔も、音楽を発表したい人の救世主になってきたと思います。特に僕は歌うのがうまくないけど歌モノを発表したいタイプの作家だったので、初音ミクという存在にはすごく助けられました。
──もし初音ミクがなかったら何をしていたと思いますか?
音楽自体やってないと思います。それまでの人生で音楽を仕事にしようと思ったこともなかったし、作曲をする動機もなかったので。初音ミクが登場したことが曲作りの動機になったので、僕の人生は本当に初音ミクに決定付けられたと思っています。
──今年は「マジカルミライ」のテーマソング制作や、「プロジェクトセカイ」の1周年記念ソングの制作など、記念ソングを作る機会が多かった1年だったと思います。今後のcosMoさんの展望を教えてください。
今年はいろんなところに曲提供をさせていただいて、1つの区切りになった感覚があるんですよね。なのでこれからは自分のやりたい音楽をもう一度見つめ直して、気持ちを新たに音楽活動をやっていこうと思っています。発注仕事で何かに向けて曲を書くのも好きなんですが、書きたいものをオリジナル曲として投稿するのも僕らの大事な制作ですから。
イベント情報
- 初音ミク「マジカルミライ2021」
-
- 2021年10月22日(金)~24日(日) 大阪府 インテックス大阪 4号館・5号館A
- 2021年11月5日(金)~7日(日) 千葉県 幕張メッセ国際展示場 9~11ホール
- cosMo@暴走P(コスモアットボウソウピー)
- 2007年10月にニコニコ動画に初投稿し、ボカロPとしての活動をスタート。同年11月に投稿された「初音ミクの消失」は、息継ぎができないほど歌詞が詰め込まれたボカロならではの楽曲として大きな注目を浴びた。2010年にはベストアルバム「初音ミクの消失」を発表した。ボカロ曲の制作や楽曲提供のほか、音楽ゲーム「SOUND VOLTEX」のゲームエフェクターとしても活躍。2021年10、11月に開催されるイベント「初音ミク『マジカルミライ2021』」のテーマソングとして、新曲「初音天地開闢神話」を提供した。