お互いに踏み台にし合っているからwin-win
──「ブレス・ユア・ブレス」は、初音ミクに歌わせるからこそ意味がある曲ですよね。
このタイミングでオファーを受けてなかったらこういう曲は作らなかっただろうし、おそらく僕は初音ミクというソフトも使わなかったと思うんです。「マジカルミライ」というイベントのテーマソングである以上は、初音ミクとちゃんと向き合わなきゃいけないし、オファーをもらったときは自分の中でミクに対していろんな感情が芽生えていたところなので「よーし、ぶっこんだろ」と思って書きました(笑)。
──曲中「歌え」という歌詞の直後にシンガロングが入るんですが、ここには和田さん自身の声も入っていますよね?
はい。人間と初音ミクがすでに対等な存在である、ということも僕が感じていたことなので、曲の中で自分と初音ミクが一緒に歌うところを作りたかったんですよね。あと「ブレス・ユア・ブレス」はクリエイターの歌でもあって、自分だけの曲にはしてしまいたくなかったんです。だから僕と同じような立場にいる人たちも含めたクリエイターの方々が何か感じ取ってもらえたらうれしいですね。
──余談ですが、クリエイター同士で初音ミクについて話す機会ってありますか?
「あの女(初音ミク)が全部持っていってるよな!」みたいな愚痴っぽい話をするくらいですね(笑)。ただ僕らボカロPがボカロを踏み台にしてきたわけですから、ボカロが僕らを踏み台にするのも結局は一緒なんですよ。お互い踏み台にし合っているんだったら、突き詰めていくとwin-winな関係だと思うんですよ。ボカロPとボカロって。
この3人で動画を作る意味
──「ブレス・ユア・ブレス」の動画は、チェリ子さんとサイトウユウマさんが手がけています。これは和田さんがくらげP名義で活動している頃にMVを作っていたメンバーですよね。
「ブレス・ユア・ブレス」という曲には自分の過去を振り返るような一面もあるので、昔一緒にやった3人で動画を作るのもいいかなと思って。それにこの曲はやっぱりクリエイターの曲なので、自分にとって一番身近なクリエイターでもあるチェリ子とサイトウユウマに作ってほしかったんです。2人共、2011年に活動を開始して、今でも作品を作り続けているし、それぞれけっこう数字を持つようになって。「あのとき始めた活動が今も続いているんだぞ」ということを示す意味でも、この3人で動画を作りたかったんです。
──和田さんは動画に関してもかなりこだわるタイプですが、「ブレス・ユア・ブレス」に関してはどんな要望を?
普段だったらメチャクチャ監修するんですけど、今回はほぼお任せしました。文字である程度の要望というかコンテを送ったのと、絶対に外には出せないくらい細かい歌詞の解説を書いたものを渡して。特にサイトウユウマという人間はある程度任せたほうがいいものができる傾向にあるので、2人になら任せていいなと思って。
──完成した動画を観た感想は?
懐かしいな!って(笑)。機材も新しくなってるだろうし、腕も上がっているんだけど、動画からどことなくただよってくる作風が昔と変わらない。一貫してるんですよね。このMVをこの3人で作れたことに意味があるし、2人に頼んで本当によかったなと思いました。
初音ミクは赤の他人
──今日の取材では2年前のインタビューと同じ質問をしようと思ってたんです。それが「和田さんにとって初音ミクはどんな存在ですか?」というものなのですが。
2年前とはその答えが大きく変わっちゃいました。確か前は「自分自身」みたいに言ってたと思うんですけど、「MIKU EXPO」で全部変わってしまいまして。もう自分自身では全然なくて、強いて言うならば赤の他人になるのかな(笑)。もちろん2年前に答えた「自分自身」という感覚もまだ残っていて、Vocaloidに対して自分の分身であると感じる瞬間はあるんですけど、そもそも初音ミクはもうVocaloidという粋を超えてしまっているように感じていて。
──和田さんの感覚で言えば、すでにアーティストになっている。
そう。もちろん見え方の話であって、本質としてはソフトウェアではあるんですけど、もう世間的に初音ミクはアーティストになってしまったんです。なので今回の「ブレス・ユア・ブレス」は完全に“初音ミクへの提供曲”なんです。かなり自分のエゴを入れておいてこんなことを言うのは、もしかしたらダメかもしれないんですが、和田たけあきの曲ではなくて、初音ミクの曲なんですよね。だから「マジカルミライ」の会場でもあまり「自分の曲がかかっている」って感覚がないかもしれません。
イベント情報
- 初音ミク「マジカルミライ 2019」
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- 2019年8月9日(金)~11日(日)大阪府 インテックス大阪
- 2019年8月30日(金)~9月1日(日)千葉県 幕張メッセ国際展示場1~3ホール
- V.A.「初音ミク『マジカルミライ 2019』OFFICIAL ALBUM」
- 2019年7月10日発売
クリプトン・フューチャー・メディア -
[CD+DVD] 2100円
HMCD-13
- CD収録曲
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- ブレス・ユア・ブレス / 和田たけあき feat. 初音ミク
- キレキャリオン / ポリスピカデリー feat. 初音ミク
- Jump for Joy / EasyPop feat. 巡音ルカ、初音ミク
- メインキャラクター / *Luna feat. 鏡音レン
- ある計画は今も密かに / 森羅 feat. 初音ミク
- それがあなたの幸せとしても / Heavenz feat. 巡音ルカ
- 深海シティアンダーグラウンド / 田中B feat. 鏡音リン
- ラムネイドブルーの憧憬 / アオトケイ feat. MEIKO
- 僕が夢を捨てて大人になるまで / 傘村トータ feat. 初音ミク
- SURVIVE / 梅とら feat. 初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、MEIKO、KAITO ※ボーナストラック
- DVD収録内容
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- ブレス・ユア・ブレス / 和田たけあき feat. 初音ミク<Music Video>
- Jump for Joy / EasyPop feat. 巡音ルカ、初音ミク<Music Video>
- 和田たけあき(ワダタケアキ)
- 初音ミクを使用したVocaloid楽曲「くらげ」を2010年4月にニコニコ動画に投稿して以降、「くらげP」「electripper」「和田たけあき(くらげP)」といった名義でオリジナル曲を発表し続ける。またギタリストとして古川本舗やこゑだなど、さまざまなアーティストのライブやレコーディングに参加。2016年2月に公開した楽曲「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」はYouTubeで2019年7月までに1600万再生を突破している。2018年3月にはVocaloid曲で構成されたオリジナルアルバム「わたしの未成年観測」をリリースした。同年5月に「ビースト・ダンス」のセルフカバー発表以降は、自らマイクを取るシンガーソングライターとしての活動に重きを置いている。2019年8、9月に開催されるライブイベント「初音ミク『マジカルミライ2019』」のテーマソングとして新曲「ブレス・ユア・ブレス」を提供した。