初音ミク「マジカルミライ 2018」特集|11年目の初音ミクと鏡音リン・レンの曲

「劣等上等」はグレた高校生

──新曲「劣等上等」に関しても、ボカロ曲として求められている要素を念頭に置いて作ったんでしょうか?

そうですね。リン・レンが求められているということは、こういうことかなと思って。ひさしぶりにボカロの曲を作ることになって、作っている最中は「こういうはっちゃけた曲を作るのは疲れるな」と思っていました(笑)。ただ今回「劣等上等」はボカロ曲なんですけど、ブレスを入れる場所をちゃんと作っているし、言葉を詰め込みすぎないようにしたので、昔の自分のボカロ曲に比べて歌いやすくなっているかもしれないですね。それはREOLの活動があったからだと思います。

──「劣等上等」はリン・レンの10周年記念ソングという位置付けですが、そういう節目の曲を作ってほしいというオーダーに対しては、まずどんなことを考えました?

うれしい気持ちとプレッシャー、どっちもありつつなんですが、作るなら代表曲のようなハチャメチャでアッパーな曲を作りたいとも思ったので、「昔みたいな曲を作れるかな?」っていう気持ちが強かったかもしれないです。

──去年は初音ミクが発売10周年を迎えまして、「マジカルミライ」では「砂の惑星」という10周年を総括するような楽曲が発表されました。「砂の惑星」に関してはどのように受け止めましたか。

いろいろ賛否両論あったみたいなんですけど、自分は曲を聴くときにあんまり歌詞を気にしないから「いい曲だなあ」としか思ってなかったんですよね。「今の流行を取り入れつつ、ハチさんらしい曲を出したなあ」って思ってました。

──歌詞を書かないGigaさんらしい感想ですね。「劣等上等」に関しても歌詞のテーマとかは考えず、今の自分がカッコいいと思うトラックを作ろうとしたわけですか?

そうです。最近ヒップホップ系の音楽をよく聴くから、そういう要素も入れたくて。あとは流れというか……僕の中では「ギガンティックO.T.N」が幼い感じで、「+♂(プラス男子)」が中学生の思春期みたいなイメージなんです。「劣等上等」は、そこから成長してグレた高校生みたいな感じにしようと思いました(笑)。

ボカロ曲に込めた挑戦的な要素

──歌詞はReolさんが担当していますが、詞の方向性に関してはどれぐらい携わっているんですか?

そこはもうイメージだけですね。「グレてる感じで」って伝えただけです(笑)。Reolから上がってきたものをもとに、歌詞のハメ方で悩んだところの譜割とか発音を相談するだけで、内容には全然口を出してないんです。

──だいぶ挑発的で毒がある歌詞に仕上がりましたが、Gigaさんの印象はどうでしたか?

「これ、アニバーサリーソングとして通るのかな」って思いました(笑)。でもイメージ通りですごくカッコよくしてもらえたと思いましたし、修正依頼もなかったです。

──「劣等上等」にはラップバトルふうのパートが用意されています。Vocaloidなんですけど、アタックの強弱がちゃんとあるし、声の生々しさをすごく感じました。

Giga「劣等上等」ミュージックビデオのワンシーン。

よかった。昔からラップっぽい要素は入れていたんですけど、今回はちゃんとサウンドに合わせて人間っぽいラップを作ってみたくて。人間っぽくするためにブレスを入れてみたり、そのブレスの音を言葉の語尾に貼り付けて息遣いを感じさせてみたり、けっこう工夫したところだったんです。ひさしぶりにボカロ曲を作るから挑戦的な要素がほしかったし、人間の声を取り込んでいじっていたことから学べた部分も生かせたと思います。

──曲の展開が激しいのもGigaさんの持ち味を感じさせるところですね。

やっぱりボカロ曲を作るからにはテンポが速くてどんどん展開していく、休憩を挟まない感じにしたかったっていう構想があって。

──本来隙間の多いトラックが主流なヒップホップと、Gigaさんが得意とするようなダンスミュージックの要素を合わせる難しさはなかったですか?

まさに僕がやってみたかったのがそこなんですよね。激しい音と隙間のあるトラックを混ぜたらどうなるかな?って。難しさを感じるというよりは、試行錯誤しながらだったので楽しく曲が作れたと思います。

イメージしてたよりも200%くらいカッコいい映像

──MVに関してはどのように作り上げていったんですか?

基本的にはイラストを描いてもらった△○□×さんと、動画制作をお願いしたお菊にお任せしているんですけど、完成した曲と歌詞を渡したときにこの3人で1回会議をしたんです。とは言え、質感のイメージなどを伝えたくらいですね。

──ほぼ全編がリン・レンのイメージカラーでもある黄色で統一されていて。黄色は警告色でもありますし、それこそGigaさんがおっしゃったグレた感じがよく出ている映像だと感じました。

いい感じですよね。お菊が前に作っていた3Dっぽい映像を参考にしてほしいと伝えたら、それがさらにすごい感じで上がってきて。イメージしてたよりも200%くらいカッコいい映像に仕上げてもらいました。

──ちなみに「マジカルミライ」に関しては実際に足を運んだことはありますか。

2016年のイベントに行きました。ニコ動で見ている感覚と言うか、ニコ動のノリがそのまま具現化したみたいな雰囲気は楽しかったし、いつもは画面で見ているコメントが歓声として聞こえてくる感じが面白かったです。だいたい会場のみんなが知ってる曲がイベントで披露されるので、どこでコールを入れるとかも完璧で一体感があるんですよね。あとバンドの生演奏が付くのがすごく豪華ですよね。

──「劣等上等」はバンドでの再現が難しそうな曲ですよね。

そうですね(笑)。なのでイベントでどう再現されるのかとても楽しみです。MVはライブっぽいノリを意識しているので、どこでノレばいいのかもわかりやすいと思います。ぜひMVもライブも楽しんでください(笑)。

──今回Gigaさんとしてはひさびさのボカロ曲でしたが、今後の活動に向けて何か考えていることはありますか。

いろんな人とコラボしてみたいなとは考えています。ボーカリストの方を迎えて一緒に曲を作ってみたいし、コラボの中でまたボカロもフィーチャーできたらなっていう感じです。いろんな人が書く歌詞と自分のサウンドとの化学反応も楽しみです。

──ご自身で歌詞を書いてみたりは……。

ないですね(笑)。

──即答ですね。そのぶんサウンド面ではやりたいことがあると。

いっぱいあります。昔は激しいサウンドにとらわれていたけど、今は自由にいろんなジャンルの作品を作ってみたい。ヒップホップだけじゃなくて、フューチャーハウスとかのシンセチックなサウンドにも興味がありますし。ただ、やりたいことをそのまま曲にしても、その道ひと筋でやってきた人に負けちゃうから、いろんなものを組み合わせた音楽をやりたいですね。

──それってGigaさんが昔からずっとやってきたことかもしれませんね。

そう、その延長線なんです。だからこれからやろうとしてることも、昔と変わらないですね(笑)。

V.A.「初音ミク『マジカルミライ 2018』OFFICIAL ALBUM」
2018年7月25日発売
クリプトン フューチャー メディア
V.A.「初音ミク『マジカルミライ 2018』OFFICIAL ALBUM」

[CD+DVD] 2100円
HMCD-010

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CD収録曲
  1. グリーンライツ・セレナーデ / Omoi feat. 初音ミク
  2. 劣等上等 / Giga feat. 鏡音リン・レン
  3. ビバハピ / Mitchie M feat. 初音ミク
  4. No Logic / ジミーサムP feat. 巡音ルカ
  5. on the rocks / OSTER project feat. MEIKO・KAITO
  6. ドリームレス・ドリームス / はるまきごはん feat. 初音ミク
  7. あったかいと / halyosy feat. KAITO
  8. リバースユニバース / ナユタン星人 feat. 初音ミク
  9. METEOR / DIVELA feat. 初音ミク
  10. むてきPOP / emon(Tes.) feat. 初音ミク・鏡音リン・鏡音レン
DVD収録内容
  • グリーンライツ・セレナーデ<Music Video>
  • 劣等上等<Music Video>
Giga(ギガ)
Giga
2010年2月に初のオリジナル曲として「流線プリズム」をニコニコ動画に投稿。2012年12月に発表した「ギガンティックO.T.N」が公開8カ月で100万回以上再生され、その後発表された「おこちゃま戦争」「+♂(プラス男子)」「ヒビカセ」といった楽曲はいずれもミリオン再生を記録している。2016年3月より、れをる、お菊と共にユニット・REOLとしての活動をスタートさせるも、2017年10月にユニットは“発展的解散”となった。2018年8月、9月に行われるライブイベント「初音ミク『マジカルミライ 2018』」のオフィシャルアルバム「初音ミク『マジカルミライ 2018』OFFICIAL ALBUM」の収録曲として、Vocaloid「鏡音リン・レン」の発売10周年を記念したアニバーサリーソング「劣等上等」を制作した。

「Vocaloid(ボーカロイド)」および「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。