インスパイアされて書いた「流線プリズム」
──そもそもVocaloidとはどんな出会いだったんでしょうか。
ニコ動を見始めたのが高校1年生ぐらいのときで。いろいろ見てたらVocaloidのカテゴリがあって、そこで初めて知りました。当時はまだミクが出始めた頃だと思います。
──ということは10年くらい前のことですね。
そうですね。僕が見始めた頃はオリジナル曲があまりなくて、「魔界塔士Sa・Ga」のゲーム曲をミクに歌わせてみたっていう「たわしーたわしー」ってミクが歌ってる曲が好きでずっと聴いてました(笑)。あと「Ievan Polkka」(フィンランド民謡)に合わせてミクがネギを振ってる動画とかも観てたかな。まだスマートフォンなんてなかったからガラケーの小さな画面で、ブロックノイズに苦戦しながらいろいろ動画を観てました。
──Vocaloidの黎明期って初音ミクの歌声を“ネタ的”に使っているものが多かったんですよね。それがだんだんとバンドサウンドや歌モノのボーカルをボカロに歌わせるようになっていったわけですが、Gigaさん自身は当時から曲作りをしていたんですか?
ゲーム曲のカバーとかなんですけど、高校時代にDTMでちょっとずつ曲を打ち込み始めてました。初めて買ったVocaloidは巡音ルカですね。最初はオリジナル曲を作ろうみたいな感じじゃなくて、DTMができるようになったからボーカルもいじれたら楽しそうだな、くらいの感覚でした。
──Gigaさんが初めてVocaloidのオリジナル曲を発表したのは2010年2月の「流線プリズム」です。そもそもオリジナル曲にそこまで興味がなかったGigaさんは、なぜこの曲を投稿するに至ったのでしょうか?
ネタばらしをしてしまうと、当時「右肩の蝶」って曲にすごくハマっていて。こういう曲が作りたいなと思って、オリジナルとして最初に作ったのが「流線プリズム」なんです。いろいろインスパイアされて書いた曲ですね(笑)。
──「ギガンティックO.T.N」や「+♂(プラス男子)」のように、Gigaさんの曲はデジタルサウンドで激しい展開をするような特徴があると思うんですが、そういう音楽自体がもともと好きなんですか?
激しい展開の曲とか、アニメソングみたいな曲調のものって実はそんなに聴いていなかったんです。ただ「ギガンティックO.T.N」は、「ボカロっぽい曲」をちょっと意識しながら、いろんな要素を混ぜこぜにした曲が面白いかなと思って作った曲ですね。結果として「ギガンティックO.T.N」が一番バズったので、そういうサウンドイメージが付いたところはあると思います。
リン・レンはほかのボカロ以上に歌ってくれる
──今回Gigaさんは鏡音リン・レンの発売10周年を記念する曲として「劣等上等」を手がけています。Gigaさんはリン・レンの楽曲を多く作っていますが、リン・レンとの出会いは?
最初にオリジナルを発表したのはルカの曲だったんですけど、そのあとにリン・レンもいいなと思って買ってみて、「流線プリズム」をリン・レンにも歌わせてみたんです。それがリン・レンを使った最初の作品ですね。
──それぞれのVocaloidに特徴がありますが、リン・レンのよさや持ち味ってどんなところだと思いますか?
ボカロの中で声が一番鋭いところですね。声の感じがまっすぐなので、オケに埋もれないんです。あとはサビってだいたいメロが高いんですけど、そういう高い声でも芯があるから、ほかのボカロ以上に歌ってくれる感じがすると思ってます。
──リンとレンとの掛け合いが可能なのも魅力ですよね。
使い分けでハッキリ役割を決められるのは面白いですね。レンは低音域でリンは高音域でハモらせる、みたいに。
──“調声”に関してGigaさんなりのコツ、使い慣らし方ってありますか?
最初の頃のリン・レンってあまり滑舌がよくなかったので、スタッカート気味に歌わせて聴き取りやすくするのはよくやってました。あとは「発音記号」っていうコマンドをいじって子音を聴こえやすくしたり、自分の歌い方を真似させてみたりしてますね。あとは人の声を取り込んでみて、その特徴とか、ピッチの揺らぎとかをボカロで再現したり。特にラップを歌わせるときは人のピッチを読み込ませるようにしてますね。
「ギガンティックO.T.N」に引っ張られてた時期
──Gigaさんのキャリアの中で、転機になった曲はありますか?
やっぱり「ギガンティックO.T.N」かなあ。この曲がヒットして「『ギガンティックO.T.N』みたいな曲を作ってください」って依頼もいっぱい来ましたし(笑)。
──楽曲への評価は、以降の創作へも影響しましたか?
「ギガンティックO.T.N」がヒットしたことで、「やっぱりこういう曲が求められているのかな」と思ってしまって、この曲に引っ張られている時期はありました。だからほかの曲調を出す自信があまりなかったんです。でもREOLとして活動していた頃にポップスに寄せた曲を作ってみて、それがちゃんと評価されたので「こういう曲でもいいんだな」って自信が付いたところはあります。
──ボカロPとしての活動だけでなく、REOLというユニットの一員として活動した経験のあるGigaさんから見て、Vocaloidが歌う曲と人が歌う曲、それぞれ手がけるときの意識の違いはありますか?
REOLでの作品は、J-POPとして世に音楽を送りたいという思いが強くて、キャッチ―さを出すことを心がけていました。やっぱり人に歌ってもらうと、自分が意図していない歌い方でボーカルが付いて、その化学反応が面白いんですよね。ボカロは自分の思い通りの歌い方で歌ってくれるから、“ボカロ半分自分半分”みたいな感覚があります。それと人間の場合は、ブレスの入れ方やサビの高さは歌いやすくメロを作るんですけど、ボカロはそれが必要ないから無茶ができるっていう(笑)。早口にさせてみたり、ありえない高さだったりもできるのが面白さにもつながってます。
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「劣等上等」はグレた高校生
- V.A.「初音ミク『マジカルミライ 2018』OFFICIAL ALBUM」
- 2018年7月25日発売
クリプトン フューチャー メディア -
[CD+DVD] 2100円
HMCD-010
- CD収録曲
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- グリーンライツ・セレナーデ / Omoi feat. 初音ミク
- 劣等上等 / Giga feat. 鏡音リン・レン
- ビバハピ / Mitchie M feat. 初音ミク
- No Logic / ジミーサムP feat. 巡音ルカ
- on the rocks / OSTER project feat. MEIKO・KAITO
- ドリームレス・ドリームス / はるまきごはん feat. 初音ミク
- あったかいと / halyosy feat. KAITO
- リバースユニバース / ナユタン星人 feat. 初音ミク
- METEOR / DIVELA feat. 初音ミク
- むてきPOP / emon(Tes.) feat. 初音ミク・鏡音リン・鏡音レン
- DVD収録内容
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- グリーンライツ・セレナーデ<Music Video>
- 劣等上等<Music Video>
- Giga(ギガ)
- 2010年2月に初のオリジナル曲として「流線プリズム」をニコニコ動画に投稿。2012年12月に発表した「ギガンティックO.T.N」が公開8カ月で100万回以上再生され、その後発表された「おこちゃま戦争」「+♂(プラス男子)」「ヒビカセ」といった楽曲はいずれもミリオン再生を記録している。2016年3月より、れをる、お菊と共にユニット・REOLとしての活動をスタートさせるも、2017年10月にユニットは“発展的解散”となった。2018年8月、9月に行われるライブイベント「初音ミク『マジカルミライ 2018』」のオフィシャルアルバム「初音ミク『マジカルミライ 2018』OFFICIAL ALBUM」の収録曲として、Vocaloid「鏡音リン・レン」の発売10周年を記念したアニバーサリーソング「劣等上等」を制作した。
「Vocaloid(ボーカロイド)」および「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。